空回る善意
理屈を壊す物理、その限界。
ドォォォォォォン!!
鼓膜を突き破るような爆鳴が響き 視界が真っ白に弾けた
獅子堂が振るう可変式重機籠手『パイル・バースト 空爆形態』は杭を打つ「点」の武器ではない
衝突の瞬間に溜め込んだエネルギーを炸裂させ 閉鎖された射出口から超高圧の衝撃波を叩きつける「面」の広域解体兵器だ
「ははっ どうだ! 硬ぇだけのバグが ひしゃげやがったぜ!」
男は荒い息を吐きながら間髪入れずに踏み込む
漣の眼前 宙に浮くエイジャスの半透明パネルには獅子堂の心拍数と筋肉の異常な膨張を示す警告が並んでいた
リミッターを外した『火事場力』による筋肉の微細な断裂
獅子堂の動きは鋭いが その軌道には明らかに肉体の悲鳴によるブレが生じ始めている
「獅子堂 待て! 敵の再生周期が早すぎる 今のままじゃジリ貧だ!」
「るせぇ……っ! 直るってんなら その前に全部粉々にすりゃいいんだろ……!お前には関係ねぇ さっさとここから消えろ!! 」
獅子堂は俺の警告を振り払うように叫び 鉄塊を大きく振りかぶった
その焦燥感を帯びた叫びには どこか隠れた優しさが込められていた...
まるで「俺一人で食い止める。だから逃げろ!」
そう言っているかのような
彼がその焦燥に突き動かされるほど 特異欠落体の胸部からは黒いノイズが糸のように伸び 砕かれた装甲を一瞬で元通りにしていく
世界が「この欠落体は無傷である」という結果を先に決定している『確定事象』の前では 彼の破壊はただ空しく現実をなぞるだけの行為に過ぎなかった
「もう一撃だ……ッ! 逃がさねぇ!!」
獅子堂が咆哮し 瓦礫を足場に跳躍する
だがその瞬間 エイジャスのパネルが赤く明滅した
鉄塊の駆動系が過負荷で焼き付き 排熱機関が固着されていたのだ
このまま標的に激突させれば、衝撃で起爆した爆発エネルギーが逃げ場を失い 『パイル・バースト』ごと獅子堂の右腕を内側から粉砕するだろう...
「『遅延実行』対象:パイル・バーストの慣性エネルギー、固定!!」
衝突の直前 俺はエイジャスのパネルに指を叩きつけた
直後 鉄塊が敵の装甲に触れる
だが 本来なら腕を吹き飛ばす自爆に繋がるはずだった凄まじい「衝撃」は 俺の能力によってその場に縫い止められ 物理現象として未発動のまま保留された。
「……あ?」
自爆を免れたことにさえ気づかない獅子堂の頭上に 特異欠落体の巨大な鈍器が振り下ろされた
そのままでは肉塊にされる
そう思われた刹那!!
俺はエイジャスのパネル上で固定したエネルギーの『ベクトル』を強引に書き換えた
「作用方向ーーー反転!!」
「行けッ!!実行!!」
俺が物理ボタンを叩き込んだ瞬間 保留されていた「パイル・バーストの自爆衝撃」が解放された
本来なら前方(敵側)へ弾けるはずだった爆発的なエネルギーは 俺の操作によって「獅子堂を後方へ弾き飛ばす推進力」へと転換される
ドゴォォォォン!!
「う わあああああッ!?」
振り下ろされた敵の鈍器が地面を砕こうとする直前 獅子堂の身体は爆風に背中を押される形で弾丸のように後方へ射出された
敵の必殺の一撃を紙一重で回避し 彼はそのまま数十メートル先のコンクリート壁を粉砕して埋まった
「……獅子堂!」
俺は壁に埋まった獅子堂へと駆け出した
エイジャスと繋がった脳に あれほどのエネルギーを『保留解除』したことによる激痛が走る
視界がノイズで歪むが止まるわけにはいかない
「……くそ……動けよ…..体....。俺が……あいつらを……」
排熱の追いつかないパイル・バーストを抱え 朦朧とする意識の中で獅子堂が呻く
『火事場力』の反動による全身の激痛と 俺が無理やり方向を変えて叩きつけた脱出用の衝撃
二重のダメージが彼の「何でも屋」としての仮面を剥ぎ取っていた
「情けない顔すんな 獅子堂。俺が遅延で衝撃の向きを変えてなきゃ 今のでお前は右腕を失った上で 頭から潰されてたぞ」
俺は彼の前に立ち 空中のパネルを操作して周辺の状況を再計算した
脳が焼けつくような感覚があるが 解析の手は止めない。
「……解析屋……お前……」
「お前の『火事場力』は 出力がデカすぎて肉体が追いついていない。……次で決めるぞ。いいな?」
俺はエイジャスのメインキーに指をかけた
遅らせるだけの不遇な追記 ただの壊れたガラクタ。そう言われてきたこの力を...
獅子堂のバカげた火力を...
俺の知略で この絶望的な状況をブチ抜くための「唯一の正解」へと書き換えてやる。




