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ラグ・コード 〜遅延能力でバグった世界をぶち壊す〜  作者: Kaいト
切り捨てし飢餓、その果てに秩序は成る

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50/50

奈落より、灰燼の先に曙光を phase 05

凛&ナインvs第二小隊から少し時は遡り……


【鼠 地下拠点・漣&ジン&情報班】

雨の音をかき消すほどの排気音が、狭い地下室に充満していた。

無数に並んだモニターが、突如として赤色の警告に染まる


「ーーなんだ、この偏りは……ッ!?」


ジンの怒声が響く。

第二特殊情報大隊——「浅見」率いる治安維持局の情報網が、不自然なほどの猛攻を開始した


その挙動は緻密さを欠き、特定の場所へ過剰な負荷をかける強引なものだ

鼠側の情報班は、その対処に攻撃を一時やめなければならないほど追いやられていた



「ちっ、あいつら……! 防御を捨ててサイバー戦を仕掛けてきやがった!」



ジンは脂汗を浮かべながらキーボードを叩くが、熟練の技術者ゆえの直感が、その猛攻の裏にある「違和感」を掴んでいた


「なるほど。漣、罠だ」


「ええ……おそらく、相手はこちらの防壁を壊す算段がついている。でないと、この無茶な攻勢に説明がつかない」


漣の懸念を裏付けるように、通信機から凛の報告が飛び込む



『——第一特殊鎮圧大隊が動いた! 多分、私たちを潰すために!』



凛の悲痛な報告が、最悪の盤面を確定させた。

さらに間髪入れず、激しいノイズを伴ってタイガの声がスピーカーから弾ける



『……漣、ジンさん、聞こえるか。りぃが緩衝区の残りはそっちで頼めるか? 俺は天導区へ向かう』



死地へ向かう男の、あまりに淡々とした宣告。

漣は、一瞬だけキーボードを叩く手を止め、掠れた声で応じた


「タイガ…………分かった。何とかしよう」



通信が切れると同時に、地下室を支配したのは、重苦しい「死」の気配だった


ジンが乾いた笑い声を漏らす



「ハッ……笑えるぜ。第一特殊鎮圧大隊だと? 怪物どもの顔見せに、こんな物量まで揃えて……。俺たちを殺すのに、どんだけ過剰な戦力を注ぎ込めば気が済むんだよ」



ジンは続ける。



「おい、漣。何でタイガの件を受け入れた。まず この情報戦すら制してねぇんだ、他に割くリソースがどこにあるってんだよ」



ジンの詰め寄る声は、焦燥と絶望に裏打ちされていた


だが、漣はジンの言葉を聞いているのかさえ定かではないほど、真っ直ぐに目の前の端末を見つめていた



その瞳は、死んでいない。



絶望という暗闇の底で、一点だけ、鈍く、しかし決して消えない覚悟の光を宿していた


(……他に、道はない)


物理的な蹂躙が始まるまで、残された時間は数分。

情報戦の主導権を奪い返さなければ、逃げるための座標すら手に入らない


漣は、手元の古びた端末

ーー父の形見である『エイジャス』にそっと指を触れた


その震えは、いつの間にか止まっていた




エイジャスの内部にあった解析不能のログ。

源生げんせいを通じて脳リソースをフル活用したとき、ようやくその名前のみが映し出されたもの。



『絶対保証レベル8』


『独立隔離レベル2』



想像を絶する情報の管理システム

一個人が持てるはずのない、オーパーツのごとき「守護」



「……ジンさん。こうなったら地上班の位置情報を守ろうと意味はない。奴らは、機械そのものを破壊することに専念する」


「だろうな。あいつらは情報戦じゃなくサイバー戦をしてるんだ」


「…………だから……この『エイジャス』に、全ての攻撃を集中させる」



漣の言葉に、ジンの手が止まった

どこか悲しげで、だが悔しさを押し殺した漣の顔を見て、ジンは絶句する



「……それ、親父さんの形見だろ?」


「エイジャスには、並ではない防御システムが組み込まれている。俺でも全容は見えてないけど……鼠の全機械を壊せる物量の攻撃でも、この内部なら全て受け切れる」



漣は一瞬だけ瞳を伏せ、そして力強く顔を上げた。



「壊れても構わない。それでみんなを救えるなら……烈が見つけられるなら!!」


「……っ、ハッ! 俺は まだお前のことを過小評価してたようだ。よし、あんなガラクタ 俺がいくらでも直してやる!!」



「この戦い。…………勝つぞ!!」



ジンが叫び、拠点の全リソースをエイジャスへと繋ぎ変えた



刹那、浅見がその「隙」を見逃すはずもなかった



「ーー捉えたぞ、『鼠』共」


冷徹な勝利宣言と共に、治安維持局側から数百万の「情報の槍」が一斉に放たれた


それは一本の鋭い針が風船を割るように、拠点の重層防壁を一瞬で貫き、全ての重圧を「エイジャス」という一点へと注ぎ込んだ



エイジャスの筐体が異音を立て、内部の冷却ファンが悲鳴を上げる


本来なら拠点中の機器がクラッシュするほどの負荷を、その小さな端末はたった一台で引き受け、真っ赤に熱を帯びながら耐え続けた



「ーー!?……馬鹿な、これほどの攻撃を受けて、なぜシステムが沈黙しない……っ!?」



浅見が驚愕に目を見開く。

エイジャスの『絶対保証』が、絶望的な物量をすべて深淵へと飲み込んでいく。


◇◇


「今だ……ジンさん、情報班、全員叩き込め!!」


相手がエイジャスという「ブラックホール」に全リソースを注ぎ込み、防御が紙切れ同然になったその瞬間


漣とジン、そして鼠の全情報員が、一点突破のカウンターを放った



「テメェらの化けの皮、全部剥いでやるよ!!」



ジンの咆哮と共に、相手の無防備なサーバーを焼き切るための猛毒パケットが放流される




ガシャン、と拠点のブレーカーが落ち、同時にエイジャスのモニターが激しい火花を散らした



直後、エイジャスは完全に沈黙し、二度と熱を帯びることはなかった




静寂。




漆黒に包まれた部屋で、予備電源の赤いランプだけが点滅している


目の前のメインモニターには、治安維持局側も、そして鼠側も、全ての防壁が消失し、無防備なデータが脈動する「全裸の情報空間」が広がっていた



「……消えたな。向こうの壁も、こっちの壁も」



ジンの声が、暗闇の中で低く響く


もはや、敵も味方もない



隠されていた「奈落(深淵)」が暴かれ……

焼き尽くされた「灰燼(防壁)」の先に……


今まさに求めていた烈という「曙光ひかり」が姿を現そうとしていた



漣は、熱を失ったエイジャスをそっとデスクに置き、震える手を別のキーボードに添えた


誰も、もう自分たちを遮ることはできない



「……行こう」



剥き出しになった情報の海へ、漣は静かに、深く潜っていった。

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