奈落より、灰燼の先に曙光を phase 04
テスト終わったんで連載再開です!!
【凛:中央区・境界線】
「……ッ、ハ、……ッ……!」
凛は猛烈な勢いでビルの外壁を蹴り、隣の屋上へと飛び移った
着地の衝撃。
肺から空気が絞り出され、鉄の味が口内に広がる
追記の酷使による代償
それが確実に凛自身を傷つけていた。
ふと、階下の路地を見下ろした瞬間、凛の全身から体温が引いていった
(……何、あれ……)
雨に煙る深夜の街。
そこには、足音一つ立てず、影のように移動する「集団」がいた
彼らは車両を使わず、等間隔の陣形を保ちながら、機械的な精密さで区画を走破している
その背中、雨に濡れて鈍く光る漆黒の防護羽織。
そこに刻まれた、一対の剣を囲む蛇の紋章
――新京都において「絶対的な力」を意味するロゴ
「……嘘でしょ。第一特殊鎮圧大隊……増援?いや、違う。あの動きは……」
かつて、その組織の内側にいたからこそ理解できる
あの歩法、あの間隔、あの沈黙。
あれは対象を『根こそぎ消去』するための、完成された掃討のロジック
ーー『蹂躙』を重点的においた隊形だ。
「……全員、聞いて!」
凛は震える手で通信機を掴み、叫んだ。
「第一特殊鎮圧大隊が動いた! 多分、私たちを潰すために。見つかったら一瞬で殺される。……絶対に、死角から出ないで!!」
【タイガ:緩衝区・路地裏】
「……マジか」
凛の悲鳴に近い警告を受け、タイガは一人、暗がりのなかで低く呟いた
周囲には、彼がたった一人で叩き伏せた治安維持局の先行部隊が転がっている
だが、タイガはその死山血河を振り返りもしない
「おそらく、奴らの狙いは陽動役じゃねえ。心臓部へ入ったテツたちか、凛の身柄の確保……もしくはその両方…」
少しの沈黙。
「凛の身柄は……アキたちを信じるか。なら、俺がいくべきは天導区だな。」
タイガは拳を握り込み、自らの胸を強く叩いた
骨が軋む音が雨夜に響く。
彼は、緩衝区の次の『点』へ向かうことも、合流を指示することもしなかった
「……漣、ジンさん 聞こえるか。悪りぃが緩衝区の残りはそっちで頼めるか?俺は 天導区へ向かう」
『タイガ…………分かった。何とかしよう』
通信機から漏れる漣の声は、何か詰まったかのようなものであった
そして たった一人の「盾」が、新京都の心臓部へ暗闇の中を猛進し始めた
【情報班:地下拠点】
地下拠点の空気は、一瞬にして冷え切っていた
無数のホログラムモニターが明滅し、ジンの指先はキーボードの上で「残像」と化している
どんな形の攻撃にも形を変えて耐え、衝撃を逃がす「究極の柔軟性」を持った防壁パケット
それがジンの誇りであり、これまで数多のサイバー攻撃を無効化してきた絶対の盾だった
だが、メインモニターに映し出された解析結果は、あまりにも残酷だった
「……なんだよ、これ……」
ジンの顔から血の気が引いていく。
防壁が「耐える」ために形状を変える瞬間の、ナノ秒単位の脆弱性。
浅見の演算は、その一点のみを極小の針で貫き、防壁を内側から破裂させていた
タイガの無茶振りに応えるような余裕
ーーそんなもの一切なかった
それでも言葉を濁した漣の目は……まだ死んでいなかった
【モニターの一角、治安維持局本部】
チェスを指すかのような優雅な仕草で端末を操作する浅見の姿があった
彼は表情一つ変えず、ディスプレイ越しに冷ややかな視線を投げ、小さく鼻で笑った
『……ふっ、こんなものか。確かに神城らしい手だが、あの頃から何も成長していないな』
その独り言のような呟きこそが、浅見真の実力を表現していた
地下拠点のセキュリティランプが、血のような赤色に染まり、物理的な陥落へのカウントダウンを始めた
【アキ&ナイン:商栄区】
一方、商栄区。
ネオンの海が雨に濡れて溶け出す雑踏の中、アキは隣を走るナインを一度だけ見た
「ナイン!ナインは先に閑世区へ行って!! 凛さんが一人で接敵しちゃうのは流石にまずい」
「……アキは?」
「商栄区のこの『点』を片付けて、隠密部隊とすぐに加勢しに行く……大丈夫。安心してよ」
ナインの瞳が微かに揺れる。
だが、彼女はプロとして、短く「……了解」とだけ告げると、重力から解き放たれたような跳躍で闇の中へ消えていった
一人残されたアキは、オレンジのニット帽をぐいと下げ、地下施設への入り口を見据える
「……さて。行くよ」
【治安維持局:第一基地周辺】
新京都の夜を、静かな、だが確実な殺意が満たしていた
鋼殻区。
立ち並ぶ工場の影から、一機のドローンも逃さない徹底した「掃討」を終えたばかりの漆黒の集団が、次なる標的を見据えて整列している
その先頭で、雨に打たれながら地図を眺める巨漢――第一部隊長・龍牙。
彼は背負った羽織のロゴを揺らし、隣に立つ男へ視線を向けた。
「……ふん。鋼殻区、完了だ。鼠の連中、一人もいなかったな」
「部隊長……やっぱり商栄区か閑世区から行った方が良かった気がするんですが…」
龍牙の隣に並んだのは、退屈そうに首を鳴らす第一小隊長・剛だった。
「ウッ……ま、まぁな。だが!漢が一度口にした言葉。それを無下にしちゃいけねぇだろ!!それに...」
龍牙の視線が、マップ上で明滅する次の区画を捉えた
「次は、閑世区だしな。ここが今回の戦いにおいて重要な地点となる。気ぃ引き締めろ!!」
龍牙が手を挙げると同時
「第一小隊、行くぞ!!」
漆黒の集団が音もなく、だが凄まじい速度で移動を開始した




