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ラグ・コード 〜遅延能力でバグった世界をぶち壊す〜  作者: Kaいト
切り捨てし飢餓、その果てに秩序は成る

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47/50

奈落より、灰燼の先に曙光を Phase 03

【凛ーー中央区】


中央区にある 一つの『点』

古びた雑居ビルの三階、その一室の前で凛は足を止めた


廊下には埃が舞い、無機質な蛍光灯がチカチカと死に際のような瞬きを繰り返している


扉の先からは、呼吸音一つ、衣擦れ一つ聞こえない



(……完璧。精鋭かな)



凛の唇から、自嘲気味な吐息が漏れた。

かつて自分もその側にいたからこそ分かる



第一特殊鎮圧大隊 第五部隊。

『潜伏』と『暗殺』に特化したプロたちが、殺気を完全に殺し、死角に配置されている



だが、その「徹底された無」こそが、今の凛には泥の中に落ちた真珠のように鮮明な違和感として映っていた



(死角を埋め、音を消し、気配を断つ。……でも、それが『仇』となってる)




凛は静かに、だが迷いなく追記を再起動させた。




『追記:慣性維持アクセル極点跳躍コード




「……ッ、ぐ...ぁ!」



再起動の瞬間、血管を沸騰した鉛が駆け抜けるような劇痛が凛を襲う


心臓が激しく脈打ち、眼球の裏側で火花が散る



それでも彼女は、その痛みを無理やり「意識」の端へと押しやった


痛覚を遮断するのではない


痛みさえも、自分が生き 進んでいる証として消費する



ーー一閃光。



凛は「赤い残像」と化し、扉の一瞬で蹴破りに室内へ



「なっ――」



配置についていた隊員の一人が、驚愕に目を見開く。

彼の視界に映ったのは、もはや人間ではなく、苦悶と決意に顔を歪めた「復讐の女神」の姿だった



一撃。



首筋への手刀が、プロの意識を瞬時に断つ



二撃、三撃



反応すら許さない。凛の動きは追記によって物理限界を超え、敵が引き金に指をかける時間すら「ラグ」として置き去りにした




わずか数秒。



一室に潜んでいた第五部隊の精鋭たちは、一度の反撃も叶わぬまま、静かに床へと沈んだ



「ハァ、……ハァ、……ハァッ!」



凛は膝をつき、激しく肩で息をする

鼻血が垂れ 足元を血塗らせる。


追記の代償による出血か

それとも脳が焼けているのか



部屋を見渡すが、そこに「彼」の姿はない



「ここにも……烈くんは、いない……」



虚脱感。


だが、止まることは許されない



彼女は震える手で、自身の太腿を強く叩いた。麻痺し始めた感覚を呼び戻すための、自傷に近い鼓舞



「次……閑世区。……まだ、やれる。私なら、まだ……っ!」



ビルの窓から飛び出し 追記で他のビルの屋上へ移動ワープ


夜風が、追記で熱を持った肌を冷酷に撫でる



重力に抗い、ビルの合間を跳躍するたびに、骨が軋み、筋肉が裂ける音が脳内に響いた


その苦痛は、彼女にとって「罰」だった



烈が誘拐された原因。

漣を苦しめてしまった原因。


そんな自分への 終わりのない贖罪。



(痛い.......痛いよ。.......でも、これでいい。私の引き起こした問題は私が解決する!)



凛は、血の混じった笑みを浮かべながら、闇の先にある閑世区へとその身を投げ出した



それが、みんなが苦しまない 唯一の方法と信じて。




【アキ & ナイン & 隠蔽部隊】


新京都随一の不夜城――商栄区。

空を覆う巨大なホログラム広告が極彩色の光を振りまき、着飾った人々が浮かれた足取りで闊歩する


その喧騒の直下、地下貨物ターミナルの一角を点は示していた



「ねえナイン。あのアイス美味しそうじゃない? 作戦終わったら一個買っていこうよ」



雑踏に溶け込むように歩きながら、アキがオレンジのニット帽を直し、能天気に笑う


その手には、観光客が持つようなデジタルマップ

だが、その画面には地下拠点の詳細な熱源反応がリアルタイムで投影されていた



「……移動。集中して」



隣を歩くナインは、オーバーサイズのコートに身を包み、周囲の視線を一切遮断している


その懐には、彼女の体躯には不釣り合いなほど無骨な、大口径のハンドガンが眠っていた




繁華街の中央から離れた 閑世区寄りの場所。

そこにあるのは 小規模な倉庫の郡


二人はその中の一つの倉庫、そして倉庫の中にある隠された 地下へと続く搬入口を見つけた。



「ここだね。多分、こっちの位置はバレてる」



アキは少し考えた後、すぐに指示を出した



「隠蔽部隊。この周りを見張ってて、僕とナインの二人で突入する」



「え?アキさん。それは流石に...」



「だいじょーぶ。僕らを信じてよ!今必要なのは戦闘員じゃない。位置がバレてる以上、増援が来るのを防ぎたいんだよね。だから、その見張りと足止めを君たちにやって欲しいの」



「なるほど.....分かりました。くれぐれも 無理をしないように!」



「ん。ありがと」



そしてアキとナインの二人は地下へと歩みを始めた。



「......さて、始めるか! 『追記:重力分散グラビティ・テイル』!」



アキが弾けた。

彼は重力という楔から解き放たれたように、垂直なコンクリートの壁を駆け上がる


天井に張り巡らされた配管、監視カメラの死角――。

ネオンの光が届かない闇の階層を、アキは文字通り「飛翔」し、地下拠点の潜伏兵の位置を丸裸にした



「な、何だ!? 上――」



潜伏兵が銃口を向ける

だが、その銃身がアキを捉えることはない


アキの動きは「予測」を裏切り、空間を掻き乱す

兵士たちが混乱し、一瞬だけその足が止まった



その「一瞬」を、ナインは逃さない



『追記:必中刻印トレース・バレット



ナインの指が、大口径ハンドガンの引き金を静かに絞る


放たれたのは、殺傷能力を削り、衝撃のみを一点に集中させた特殊な非致死性弾


弾丸は空中で物理法則を無視したカーブを描き、アキの『重力分散』に目を奪われていた兵士たちのヘルメットの「急所」――脳を揺らし、一瞬で意識を刈り取るポイントへと正確に着弾した


「プシュッ」という、圧縮された空気が抜けるような音



火花を散らすことも、血を流すこともない



地下拠点にいた第五部隊の隊員たちは、自分が何に撃たれたのかすら理解できぬまま、糸が切れた人形のように次々と膝をつき、深い眠りへと落ちていく



「はい、おやすみなさーい! 良い夢見てね」



アキが天井から軽やかに着地し、倒れた兵士たちの間をすり抜ける


その足取りはダンスのように軽快で、気絶した兵士の体に触れることすらない




「ナイス、ナイン! 完璧な『無力化』。これで地上の人たちも、下がこんなことになってるなんて夢にも思わないよ」


「……当然。任務に『死』は不要。ノイズが増えるだけ」



ナインは銃を懐に収めると、感情の動かない瞳で、静まり返った拠点を見渡した


血飛沫一つない、あまりにも清潔で、あまりにも残酷な実力差の証明



「さーて、ここには烈くんはいないよね……。ナイン、次の点を潰しにいこう。それが終わったら 閑世区で凛さんと合流だね」



二人の影は、商栄区の極彩色の光の中へと、再び静かに溶け込んでいった




【治安維持局】


場所は治安維持局 第一基地ーー中央区。

雨宮の通信が切れると同時に、作戦室の温度は数度下がったかのように錯覚させた


沈黙を破ったのは、第一部隊長・龍牙りゅうがの荒々しい足音だ

彼は首を回し、骨の鳴る音を響かせながら、天導区の防衛システムを冷徹に精査している第二部隊長・しんを睨みつけた



「……フン。雨宮隊長もようやく、現場の『熱』に合わせた命令を出しやがった」



芯は、龍牙の言葉をノイズとして処理するように、視線すら合わせない


真っ白な手袋をはめ直し、汚れ一つない袖口を整えるその仕草は、周囲の全てを「不浄」と断じているようだった



「……龍牙。君のその下卑た声の周波数は、この部屋の音響バランスを著しく損ねている。生理的な不快感だ……吐き気がするな」


「あぁん? 潔癖症のインテリ野郎が、またワケの分からねえこと抜かしてやがる」



龍牙は挑発的に一歩踏み出し、芯の完璧な「領域」を土足で踏み荒らすように笑った



「お前のその潔癖症が、逆に足を引っ張ってるってことにいつ気づくんだ? 現場は計算通りにいかねえドロ沼なんだよ」


「はっ! 雨宮隊長に憧れてるのが丸分かりだな、芯! ハハッ! お前がどれだけ澄ました顔してあの人の背中を追ったところで無駄だ。お前とあの人じゃ、天と地ほどの差があるんだよ!」 



「……っ」



芯の指先が止まり、その瞳に初めて冷徹な「殺意」の揺らぎが走る



「……君のような野蛮な男に、隊長の崇高な演算美を語る資格は――」



「そこまでにしてください、二人とも」



冷え切った殺気の間に割って入ったのは、第二小隊長・陽菜ひなだった


彼女は祈るように手を組みながらも、その瞳には引かない強さを宿して芯を見据える



「芯部隊長。龍牙さんの言葉は乱暴ですが、私たちは私たちのやり方で、隊長の期待に応えるだけす。……これ以上、時間を空費するのは美しくないのでは?」



「……フン。確かに、無能に言葉を割くのは非効率的だな。第二部隊、出動する。……私は、私を不快にさせる『バグ』を消しに行く」



芯は一度も振り返ることなく、完璧に一定の歩調で作戦室を去った


続いて、影のように静かな第二部隊の面々が、第一部隊を蔑むような視線と共に消えていく


第一部隊の面々もまた同じように睨みつけていたが...



そうして 嵐の去った後のような静寂が室内に戻る



そんな静寂の破ったのは、第一小隊長・つよしだった


「部隊長、もういいでしょう。こいつに何を言っても無駄です。それより……」



剛の視線の先には、どこか俯き加減な第三小隊長・荻原おぎはらの姿があった


龍牙は鼻を鳴らすと、荻原の元へ歩み寄り、その肩を骨が軋むほどの力で掴んだ



「荻原。お前、まだあの敗北を引きずってんのか? だとしたら間違いだぞ」


「……部隊長」


「確かにお前の『一点突破ロジック・フォーカス』による局所的な視点……それが弱点になったのは事実だ。だがな、お前たちの『追記アペンド連鎖リンク』は、この大隊でも随一だ。弱みを見せる前に、強みで敵を屠れ。それを念頭に置いておけ。……いいな?」



龍牙の力強い言葉に、荻原の瞳に宿っていた迷いが消え、鋭い光が灯る



「……! はい……っ! ありがとうございます、部隊長!」



龍牙は満足げに笑い、ホログラムマップを乱暴に指し示した



「よし、出撃だ!! 各員、配置に付け!」



「剛! 第一小隊は俺と共に鋼殻区から閑世区、商栄区、中央区....と一気に潰して回るぞ。お前の『追記』、頼りにしてるぜ!」


「了解です、龍牙部隊長! 商栄区のネオンの下も、地下のドブ板も、僕の鼻からは逃がしません!」



「陽菜! 第二小隊は閑世区だ! お前の加護で、逃げ惑う奴らの退路を物理的に塞ぐ壁になれ。優しさは捨てる必要ねえが、仕事はキッチリやれよ!」


「はい、龍牙さん。閑世区、誰も通しません。それが……凛さんのためになるなら」



「そして荻原!第三小隊は緩衝区から旧栄区周辺だ!一点の曇りもない連携で、東の守りを完璧に固めるんだ!」


「はい!......次は、負けません」



龍牙の咆哮と共に、第一部隊の装甲車が地響きを立てて発進する

それを見送ることもなく、芯は静かに背を向け、自らの「聖域」である天導区へと消えていった




【交差する意志】


仲間を救うためなら、この身が焼き切れても構わない

その献身が、自分を殺す刃になると知りながら


ーー『凛:中央区→閑世区へ』



その拳は、仲間のための盾

その咆哮は、希望を繋ぐ道標


ーー『タイガ:緩衝区』



極彩色の光の裏側。彼らは闇の中で執行する

誰も知らない静かな夜を、その手に握りしめて


ーー『アキ&ナイン:商栄区』



軽口と殺意が交差する、歪な信頼

古びた回線の先に、世界を塗り替える真実を見据えて


ーー『テツ&シノ:天導区』



地底に潜む双星は、見えない刃を振るい続ける

勝利の女神が微笑む

その曙光を掴み取るために


ーー『ジン&漣:地下・情報戦』



迎え打つは 絶対なる「秩序」

      不退転の「意志」

それは、守るべき平和という名の「狂気」


ーー『治安維持局:新京都』




作戦開始から約20分――。

運命の歯車は、もはや誰にも止められない



そして



まだ誰も「その後」を知らない。

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