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ラグ・コード 〜遅延能力でバグった世界をぶち壊す〜  作者: Kaいト
切り捨てし飢餓、その果てに秩序は成る

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奈落より、灰燼の先に曙光を Phase 01

雨の廃ビル

タイガが地図を叩き、荒々しく作戦を吠えているその瞬間


そこから数キロ離れた「鼠」の地下拠点では、薄暗い空間に無数のモニターの青白い光が溢れ、れんとジンによる「開戦」の火蓋はすでに切られていた



「……ジンさん、来てる。治安維持局『第二特殊情報大隊』の先行スキャンだ。地上班のデバイスが放つ僅かな信号を拾いにきてるね」



漣の指先は、すでに実体を持たない残像と化していた


キーボードを叩く音はもはや打鍵音ではなく、空気を震わせる高周波の破裂音に近い



モニターには、新京都の全インフラを介して押し寄せる「演算の津波」が、赤い警告灯として激しく明滅している



「分かってる。……チッ、インフラ全域を使った一斉パルスか。力押しもいいところだ」



ジンが複数の端末を同時に操作し、仮想防壁を何層にも展開していく


タイガたちが「どこに攻めるか」を話し合っている間、二人は地上班が動き出すための「空白の時間」を作るべく、秒間数億回の偽装演算で敵の目を逸らし続けていた




やがて、雨の廃ビルからタイガたちの咆哮が消え、一同が夜の闇へと散っていく



「……始まったね。地上班、各自予定ルートへ展開。現在、中央区・緩衝区・旧栄区、すべての監視網に偽の景色を上書き中。ジンさん、防壁の維持を頼める?」


「任せろ。……チッ、来たな。第二特殊情報大隊、もう僕たちの予備回線を叩きに来てる。挨拶代わりにしては、えげつない物量だぞ」



ジンの目の前には、無数の不可視の「矢」が拠点に向かって放たれていることを示す警告ログが走り始めた



「地上班の動きがバレるのは時間の問題だ。でも、その『時間』が長ければ長いほど、凛たちは自由に動ける……。秒単位で稼いでみせるよ」



漣の視線の先、メインモニターには新京都の全景図が映し出されている


そこには、凛たちのデバイスと連動した「烈がいる可能性のある座標」が琥珀色の点として明滅していた



「作業を並行するよ。

一、第二特殊情報大隊の攻撃をシャットアウトし、拠点のセキュリティを死守。


二、凛たちの移動に合わせて、敵の警戒網をハッキングで一時的に沈黙させる。


三、――烈の居場所の特定だ」




「……三兎さんとを追うか。相変わらず無茶な演算をさせる。だが、これこそが僕たちの戦いか...」



ジンが複数のウィンドウを並列化し、敵の演算パルスを次々と弾き飛ばしていく


新京都を統べる巨大な演算回路と、地下に潜む二人の天才



目に見えない情報の嵐が、雨夜の裏側で激しく衝突を開始した




同時刻――その情報の嵐が吹き荒れる裏側で

新京都中央、治安維持局本部。



最上階の執務室。

窓の外に広がる雨の摩天楼を見下ろすのは...



第二特殊情報大隊・隊長兼特別執行官ーー浅見。




彼の背後にいる、秘書が震える声で問いかけた



「……浅見隊長。失礼を承知で申し上げますが、これほどまでのリソースを割く必要があるのですか? 相手はたかが数人の解析屋と情報屋……『鼠』に過ぎません。新京都の全インフラリソースを投じるなど、攻撃内容の規模が乖離しすぎています」



秘書の指摘は正論だった

一組織の制圧に、国家の心臓部を一時停止させる



それは、常軌を逸した判断だ



だが、浅見は振り返りもせず、ガラス越しに赤く明滅する街を見つめたまま、低く、湿り気を帯びた声で答えた



「……何としても、あの成功データだけは奪取する。そのために この街の半分が焼けようが、構わん。すべて 人類のためだ」



その狂気を孕んだ呟きと同時。


浅見は第二特殊情報大隊・副隊長の酒井さかいへ通信をかける。



「酒井。遊びは終わりだ。演算の暴力で、潜伏している鼠どもを根こそぎ炙り出せ」


「了解。……ですが、敵側の防壁、驚異的な柔軟性を持っています。こちらの攻撃を吸収し、カウンターに変換しているようです」


「……ほう。面白い。ならば敵の防壁は私が引き受ける。お前たちは防御を一時的に放棄し、攻撃に専念しろ」



「浅見さんが直々に……了解しました」




酒井は通信が切れたことを確認すると、自分が戦場の指揮を引き継いだことを悟り、即座に解析員らへ鋭い指示を飛ばす



「いいか! まず防御を捨て、攻撃にのみ焦点を当てる。第一、第二解析グループは直接叩け。第三、第四はその攻撃パケットの裏から防壁へ侵入しろ。浅見隊長が壁を壊してくれる。――それが合図だ!」



直後、治安維持局が誇る国家規模のサーバー群が、一斉に咆哮を上げた


それは、地下拠点に潜む漣たちを力ずくで押し潰し、地上班を無理やり引きずり出そうとする破滅の宣告だった




その演算の嵐が吹き荒れる地上

雨の新京都、心臓部・中央区。



立ち並ぶ摩天楼の影を、数影の影が音もなく駆け抜けていく。



「……ここでお別れだね、凛さん」



先頭を走るアキが、巨大なホログラム広告の裏側で足を止めた



「僕たちはここから商栄区しょうえいくーー閑世区かんせいくへ向かう。ナイン、準備は?」


「……いつでもいける」



ナインが狙撃銃のケースを肩に担ぎ直し、隣のビルへと跳躍する


凛はその場で一人、濡れたフードを深く被り直した



「じゃあね凛さん。鋼殻区で合流しよう。……死なないでよ!」



アキたちが雨のカーテンの向こう、閑世区の静寂へと消えていく




一人残された凛が、次のビルへと踏み出そうとしたその時。


街中の巨大モニターが、ノイズと共に一斉に切り替わった




『――臨時ニュースをお伝えします』




冷徹なアナウンスが、雨音を切り裂いて凛の耳に届く。




その瞬間、凛は歩みを止めた



モニターに映し出されたテロップ....




『首都高崩落事件に関与した重要参考人、獅子堂烈(20)を確保。現在、特別拘置施設にて取り調べ中です』




公式発表。



凛の足が、凍りついたように動けない



(……烈くん)




あの崩落を招いたのは...







自分だ




彼を戦場へ引きずり込み、すべてを背負わせている



自分への嫌悪が楔となって胸を突き刺す




その激痛は一瞬で沸騰し、どろりとした狂気へと変換された



脳内に直接響く、追記アペンドの起動音。




(私が……烈くんをあそこから引きずり出す。邪魔なものは、全部、.......)




顔を上げた凛の瞳は、雨の中でもはっきりと分かるほど、禍々しく赤く濁っていた


彼女は屋上の縁を蹴り、中央区に唯一ある「点」へと、文字通り「弾丸」となって向かっていく




同時刻。

治安維持局本部の一室。



重厚な空気が漂う中、


第一特殊鎮圧大隊・隊長兼上級執行官

――雨宮あまみやの元へ一つの通信が入る。



「……鼠たちが動き出したよ、雨宮さん」



本部の最上階。

浅見はチェスの駒を弄ぶように、ホログラムの新京都を眺めていた



「データから予測するに、彼らは我々の情報拠点を狙っている。雨宮さん、後は分かるよね? ここからは私たちの専門外なもんで……」



雨宮は通信機の向こうで、鉄のような声を返した



「何を言う。僕から君たちに依頼したことだ。そちらの情報戦に集中してくれれば良い」




通信を切った雨宮は、即座に大隊の一部部隊へ通信をかける。



「……第一、第二部隊、出撃せよ! 目標は鼠たちの蹂躙、および綾瀬凛の身柄確保だ


第二部隊は『天導区』を死守。情報戦の心臓部を物理攻撃から守り抜け


第一部隊は鼠の掃討に当たる。第一小隊は北から南下し新京都全域を、第二・第三小隊はそれぞれ東西を中心に行動しろ。奴らをしらみ潰しに追い詰める」



雨宮はそこへ、さらなる冷酷な条件を付け加えた。



「凛は生け捕りだ。それ以外は生死を問わん。――抵抗するなら、塵一つ残すな」



地上では『武力』が。


地下では『情報』が。



新京都という巨大な戦場で、すべての歯車が総力戦として回り始めた

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