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ラグ・コード 〜遅延能力でバグった世界をぶち壊す〜  作者: Kaいト
切り捨てし飢餓、その果てに秩序は成る

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43/50

演算された死線と一筋の突破口

3000字越えの一話。其の二

いつの間にかこんな文字数に...

地下拠点の作戦室を支配するのは、モニターが放つ冷徹な青白い光と、カノの緊急手術が続く隣室から漏れる重苦しい沈黙だった



アキは壁に背を預けたまま、ニット帽を目深に被って動かない


ナインは無機質な手つきで予備弾倉の重さを確かめ、淡々と戦いへの備えを進めている




その静寂を切り裂くように、ジンのタイピング音だけが、荒れ狂う雨音のごとき激しさで響き渡っていた



「……これが、情報を信じた結果だ。漣」



背後で俯く漣の鼓膜を、ジンの低い声が刺す


信じた情報が招いた惨劇、仲間の負傷

その事実は、逃れられぬ呪いのように漣の肩へ重くのしかかっていた



「……分かっている」



絞り出すような声と共に、漣がジンの隣に座り込む


やり場のない感情をぶつけるように、重く、叩きつけるような音を立ててキーボードを打ち始めた




だが、その震える指先を制するように、ジンが大きな手で無造作に漣の肩を叩く



「……まぁ、そう自分を追い込むな。お前の取った行動も、無意味だったわけじゃない。これを見てみろ」



ジンがサブモニターに、戦闘時のログを展開した



「いいか、お前たちはドローンを避け、熱源も偽装し、完璧に死角を通っていたはずだ。だが、現に狙撃兵はカノを正確に撃ち抜いた」



「……ああ。罠だった以上、当然そこを狙える位置に狙撃兵を配置していたはず……」



「普通はそう考える。だが、着弾の瞬間、相手の射線データには『ブレ』が一切ない。雨の中、動く標的に対してはミリ単位の修正が入るはずだが、この弾丸は……まるで座標と弾丸が磁石のように引かれ合った結果だ」



「引かれ合った……?」



「お前がこじ開けたあの『隠し通路』だよ、漣。お前がノイズの隙間を見つけ、データを滑り込ませた瞬間、相手もその通路を逆流して、お前のエイジャスに『位置座標を発信させる』というパケットを流し込んだんだ」



漣は即座にエイジャスの内部ログを遡り、戦慄した




「……本当だ。何で気づかなかった……何してんだ俺。完全に戦犯じゃないか……!」




「そんなこと言うな!」




ジンの怒声が響く



「これは情報戦だ。戦犯なんて存在しない。そもそも、俺たちは戦う土俵すら違ったんだ。情報大隊のあいつら、最初からこれが目的だったんだよ。俺たちが『攻め』で、あいつらが『守り』。そう思い込んでいた。だが現実は違う。奴らもまた、最速の速度でこちらを攻め落とそうとしていた。これは情報の『攻防戦』だったんだ」



「……そうか。ドローンから俺たちを視認できなくなったからこそ、最も欲しかったのは俺たちの生きた現在位置。それを、烈の情報を巡るこの情報戦の中で奪取したっていうのか……」



「半分正解、半分不正解だ。そもそもドローンの役割は『目』だけじゃない。お前たちのデバイスから吐き出された『座標データ』を、あの狙撃兵や鎮圧大隊の連中にリアルタイムで転送する中継器でもあったんだ。……あとは、奪取したデジタル座標と...これは仮説だが おそらくレンズ越しに捉えた視覚情報も併用して、奴らは『必中の射線』を確定させたんだよ」




漣は息を呑んだ


本来、その「引力」は漣に向かっていた

だが、凛が弾道を逸らした瞬間、すぐ近くにいたカノの座標が、浮いた弾丸の「同期先」として強制的に再定義されてしまったのだ



「なるほどな....そうなると、残る問題はその『座標と弾丸を同期させる』っていう狙撃方法か。」




そこへ、凛が静かに口を開いた



「……私、多分その狙撃術知ってます。あの時、感じたんです。赤特有の、空間がひきつれるような空気の揺らぎを」



全員の視線が凛に集まる。

彼女は自身の腕を見つめ、その「異常な狙撃」の工程をなぞるように口を開いた



「おそらく、座標と狙撃ルートを同期させる時、システムは『赤』を燃料として消費しています。まず、赤の内部システムが奪取した座標データをもとに、一瞬で『最適の射撃ルート』を導き出す。あの揺らぎは、その演算による赤の躍動……空間の拒絶反応です」



凛の瞳が、かつての記憶を映すように鋭くなる



「ルートが確定すると、次は赤が狙撃兵の腕を……肉体を直接、強制駆動させるんです。そのルートを寸分違わずなぞるための『型』へ、無理やり腕を固定する。その銃口が最適の向きに固定され、空気の揺らぎが一本の透明な『線』になった瞬間――引き金が引かれる」



室内が凍りついたような静寂に包まれる



「弾丸はその線に従って放たれ、さらに赤による強力な弾道補正が加わる。……たとえ標的が動いて『線』から外れても、弾丸が自ら曲がって座標を追う必中の保証。……あの狙撃兵は、自分の意志ではなく、赤に身を委ねてブレを完全に無くしている。赤を、兵器として完全に使いこなしているんです」



かつて自分もその力の一部だった凛だからこそ分かる、絶望的なまでの習熟度。



そして...




ーーその代償デメリット

唯一の『成功作』として「赤」へ全てを捧げた凛ですら、その代償の大きさを今でも体が覚えている





まだ赤に「一部の感情」しか捧げていなかった頃。


凛はその狙撃術を学び、実践したことがあった




その記憶が告げている

これは、痛みなどという生易しいものではない



赤が肉体を「最適解」へと強制駆動させるたび、自我は摩耗し、末端の神経から一つずつ死んでいく


思考はノイズに塗りつぶされ、指先の感覚が冷たい鉄へと置き換わっていくような錯覚





ーーまさに、内側からの侵食。





あの狙撃兵が、凛の知るあの「線」をあそこまでの精度で維持しているのなら、その体内はすでに、赤という名の猛毒によってボロボロに崩れ去っているはずだ



(もし、私に適応する武器が『狙撃銃』だったなら、私も......)



凛は微かに震える左腕を、逃がさないように右手で強く抑え込んだ


その瞳には、かつて自分を縛り付け、今なお誰かを弄んでいる「理不尽」を、今度こそ断ち切るという確かな光が宿っていた




漣はそれらの情報をすべて汲み取り、瞳に鋭い光を宿した



「……ジンさん、構造を組み替える。受動的に動くだけじゃ拉致があかない。こちらも 偽造データを展開しつつ、相手の逆探知回路に直接ノイズを叩き込む。潜伏する土俵を、奴らから奪い取るんだ」



漣の指が残像を結ぶ



「『偽装応答パルス』射出! 相手にこちらの偽座標を喰わせている間に、このパターンの逆位相をぶつけて、奴らの探知精度を強制的に落とす……!」



「よくやった 漣! これで奴らの防壁の『薄い箇所』が見える!」



ジンが叫び、奪取したパケットを解析に回す


ーー守りながら奪う



烈の情報へと続く唯一の隙間を、彼らはこじ開けようとしていた




ーーーーー



同時刻、治安維持局本部。



ネオンが冷たく光る政府直轄のデータセンター。


その最奥、数百のモニターに囲まれた指令室である男が座っている



その目はモニターに映された盤面を静かに見つめ、次なる一手を考えていた




第二特殊情報大隊・隊長 兼 治安維持局 特別執行官

――浅見あさみ まこと




「浅見隊長、目標が逆位相によるジャミングを開始。第三、第五防衛層が突破されました。……相手の演算精度、急上昇。現在、五分五分イーブンです」



オペレーターの報告に、浅見は動じない



「ほう。ようやく同じ土俵に登ってきたか。……だが、個の質で並んだ程度で、この大隊に勝てるとでも?」



浅見は通信回線を開く。



「第一から第四までの全演算班を接続。予備のサーバーをすべて解放しろ。我々の武器は『質』ではない、圧倒的な『量』だ」



指令室に、何十人ものタイピング音が重なり合い、怒涛の濁流となって響き渡る


彼らは一人一人が情報のスペシャリストであり、浅見は彼らの身の安全を考慮した上で、その組織的な「物量」を最大限に引き出した




漣が一個人でどれだけ強大な一撃を放とうとも、大隊はそれを数万の冗長化されたデータで受け流し、直後には数千倍の物量で押し返す


武力を持たない彼らにとって、この情報の海こそが唯一の戦場であり、そこでの彼らは「無敵」だった。



ーーーーー



鼠:地下拠点。


「……ッ!? なんだ、この波状攻撃は……!」



漣の網膜に、エラーメッセージが紅く溢れ出す


一つ防壁を破れば、その背後に十の防壁が即座に生成される



相手は組織としての圧倒的な「層の厚さ」で、こちらの演算リソースを削り殺しに来ている



「ダメだ、情報戦だけじゃジリ貧になる……! 奴らの処理能力がこちらの解析速度を上回ってる!」



キーボードを叩く漣の額から汗が滴る

数字の海で溺死するのを待つだけの状況


その時、背後でモニターを見ていた凛が、静かに、だが力強く立ち上がった



「……漣くん。私、行きます」



「凛!? 何を言って……」



「わかってるんです。情報だけじゃ、今この瞬間も押し負けていること。……だから、漣くん、ジンさん。あなたたちが引き抜いた情報を、リアルタイムで私のエイジャスに同期してください」



凛の瞳には、かつての怯えは微塵もなかった



「あなたたちが、情報の海を泳いで『烈くんがいるかもしれない場所』を地図上に示して。……そこを、私たちがこの足で、力で踏み抜いていく。情報データ現場リアルの二つで叩けば、情報の波は必ず弱まるはずです」



凛の背後には、ナインとアキ、そして覚悟を決めた鼠のメンバーたちが立っていた



「はい。……それしか、この物量に勝つ道はないです」




漣は一瞬だけ躊躇し、そして凛の真っ直ぐな瞳を見て、強く頷いた


その意思を汲み取ってか、ジンは少し離れた引き出しを指差す



「あの中にあるデバイスを持っていけ。許可のない外部干渉をすべて弾くようにプログラムしてある。お前らの座標を、二度と奴らの銃弾と同期させない」



凛はそこから取り出したデバイスを、宝物のように強く握りしめた



「よし、その端末と解析結果を同期させる。……いいか 凛、無理はするな。標的ターゲットは俺の持つデータと、凛自身だからな」


「うん。……行ってきます、漣くん」



激しい雨が降りしきる中、凛は月明かりの下へと走り出す


彼女のもつデバイスには、漣たちが必死に突き止めた「情報の点」が、映し出された地図に力強く打たれている



情報と現実からの『攻め』


鼠たちの総力戦が、今、始まる

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