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ラグ・コード 〜遅延能力でバグった世界をぶち壊す〜  作者: Kaいト
切り捨てし飢餓、その果てに秩序は成る

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37/50

家族の定義

本作に登場する『旧栄区』は、実在の地名とは関係のない、本作独自のフィクション設定です

深夜のハイウェイをファルコンが爆走する

切り裂く風の音が 漣の鼓動を急かしていた


背後で凛が 振り落とされないよう強くしがみつく



座標が指し示したのは 華やかな都心から切り離された旧市街

ーーー通称『旧栄区きゅうえいく



政府の「管理」から零れ落ちた者たちが 泥を啜るように生きる場所だ



「....本当にこんな所にいるの?」


「んー....とりあえず行ってみないと分からないな」



二人が見上げるは錆び付いた廃ビル。

その階段を駆け上がり 突き当たりの一室へ踏み込んだ



「......あ!! 解析屋さん。来てくれたんだね」



部屋の隅 ボロボロのソファにいた少年が顔を上げた

その瞳は 純粋に....縋るように漣を見つめている



「雨宮さんが言ってたんだ。解析屋さんに頼めば 僕たち『家族』のノイズを直してくれるって」



少年の傍らには 数人の男女が寄り添っていた

左腕に「赤」が癒着した青年が 無機質な瞳で少年の頭を優しく撫でる


その隣では 感情のハイライトを失った女性が 壊れた人形のように穏やかな微笑みを浮かべていた



「直す......? お前たちは 政府に... 治安維持局にこんな体にされたんじゃないのか」



漣の問いに 赤を纏った青年が抑揚のない声で答えた



「......政府は俺たちを見捨てなかった。適合に失敗し 中途半端に感情こころが残った俺たちに こうして屋根のある場所と食事を与えてくれた。......ここは 棄てられた俺たちが手に入れた 唯一の『家』なんだ」


「そう。政府を恨むなんて そんな贅沢言えないわ」



女性が 少年の肩にそっと手を置く



「私たちは壊れている。けれど ここで共に暮らし 政府の任務をこなしている間は 私たちは『家族』でいられる。......身寄りのない私たちに居場所をくれた政府に これ以上の何を望めというの?」




彼らの言葉に 漣は息を呑んだ

客観的に見れば 彼らは政府の犠牲者であり 飼い殺されているに等しい


だが 彼らにとってこの歪な共同体は 漣にとっての「烈」と同じ 己の存在を支える脊骨バックボーンそのものなのだ



(......俺に こいつらを否定できるか?)



「自由になれ」と叫ぶのは簡単だ

だが その自由が彼らにとって凍えるような孤独を意味するのなら その言葉は救いではなく ただの暴力でしかない


どんなに歪んでいようと それが彼らの選び取った人生の「最適解」であるならば 部外者である漣にそれを否定する権利など どこにもなかった



少年は 縋るように漣の袖を掴んだ


「でもね やっぱり苦しいんだ。......ねぇ 解析屋さん。僕たちを『完璧』にして。そうすれば 僕らはずっと 幸せな家族でいられるから」



少年の無垢な しかし切実な願い



漣は少年の震える手を握り 胸を締め付けられる思いで問いかけた


「......ああ 分かった。だがその前に 一つ聞かせてくれ。君は どうして俺のことを知ったんだ? なぜ あの『赤』を持って俺のところへ来た」



少年は 少しだけ顔を輝かせて答えた



「雨宮おじさんに教えてもらったんだ。『黒猫っていうすごい解析屋さんがいて その人なら君たちの壊れた心を 本物の家族みたいに繋ぎ直してくれる』って。だから 赤を持って お兄ちゃんを探しに行ったんだよ」



漣の背筋に 氷のような戦慄が走る



「...雨....宮.....だと?」



脳裏で これまでの断片的な出来事が凄まじい速度で繋がり 一つの「完成された図面」を描き出す


あの赤を少年に持たせた瞬間から すべては始まっていたのだ



少年を漣に接触させ 導火線に火をつけたこと

「凛」という存在に引き合わせ 漣の感情を激しく揺さぶったこと

そして...

漣が目を離した隙を正確に突き 烈を誘拐したこと



凛との出会いすら 漣の「解析屋」としての思考回路や倫理観 そして烈への執着......


それらすべてを利用し 烈という最大の弱点を奪い去るこの瞬間までを 雨宮は数式を解くかのように精密に計算し尽くしていた




自分の意志で動いていると思っていた一歩一歩が 実は烈を奪われるための最短ルートをなぞらされていただけだった



「......じゃあ 俺たちの事務所を襲い 仲間を連れ去ったのも...... 君たちの仲間の仕業なのか?」



漣の問いに 少年は不思議そうに首を振った



「ううん。あそこにいたのは 僕たちみたいな『失敗作』じゃないよ。...... 第二特殊情報大隊の人たち。それから 第一特殊鎮圧大隊の第一小隊。みんな とっても強そうだった」



漣の思考が 一瞬停止した


情報大隊 それに鎮圧大隊の別動隊

自分が死力を尽くし ようやく一個小隊を退けた相手



そんな化け物たちが 政府という組織には「大隊」規模で 幾重にも層を成して控えている



「雨宮おじさんがね 彼らに命令してたんだ。『事務所へ突入し 大きな背中の男を捕まえろ』って。そして僕たちは 作戦に関係ないし任務も特にないから ここで待っててって言われたんだよ」



少年の無垢な告白が 漣に致命的な現実を突きつけた


烈を救うための戦いは この「家族」を守ろうとする少年の願いを 間接的に踏みにじる行為になるかもしれない



政府という絶望の階層


その圧倒的な物量と 他人の人生に安易に触れられないという倫理の重圧




夜の闇に沈む旧栄区


自分たちが挑もうとしている敵の 底知れない「層」の厚さに 漣はただ戦慄するしかなかった

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