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ラグ・コード 〜遅延能力でバグった世界をぶち壊す〜  作者: Kaいト
切り捨てし飢餓、その果てに秩序は成る

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36/50

棄てられた心の集合体

事務所の残骸の中 漣はエイジャスを極限まで回していた


だが返ってくるのは 無機質なエラーログだけ



「......痕跡がない。風速も 路面の摩擦係数も タイヤ痕すら....」



徹底的に洗浄されている


烈を攫った者たちの情報隠蔽能力は 漣の想定を遥かに超えていた



それは単なる犯罪組織の技術ではない


都市のインフラを自在に操り 観測された事実そのものを「なかったこと」にできる 巨大な国家権力の影



焦燥が指先を震わせる




烈の手がかりが 砂のように零れ落ちていく



その時――

視界の隅で 微かに明滅するものがあった


廃棄場で回収した あの「共鳴する赤」



「.....これなら 何かが残っているかもしれない」



漣は跪き 赤の演算核へと直結する

エイジャスの視界に投影されたのは 戦闘記録ではなかった


そこには 戦術データも 命令系統のログも存在しない

ただ ドロドロとした暗い情念のような「感情ログ」だけが 視界を埋め尽くしている



「........1200%超過....だと?」



その波形はもはや一人分ではない

幾十 幾百の叫びと後悔が 地層のように積み重なり 一つの人格を形作っている



「.....人格の....感情の 集合体....」



漣は 思わず息を呑んだ


戦うための兵器としては致命的な『失敗作』



だが このノイズを作った何者かにとっては これは捨て去ることのできない 宝物のように保護された「心の残骸」なのだ


漣の脳裏に かつて凛を苦しめていた赤の記憶が蘇る



(...凛の時とは違う。あの赤には 凛以外の心は混じっていなかった)



この不快なまでに純粋な 切り離された「心」の匂い




(...見るべきは 表層のデータじゃない “本質”だ)



漣は覚悟を決め エイジャス内の全リソースを解放した


少年から預かった赤

廃棄場から回収した赤

今はデータの断片としてエイジャスに記録されている凛の赤



三つを同時に解析にかけた





――そして



「...やはりな」



深層コードの防壁を抉じ開けた先で 三つの赤は完全に同じ反応を示した


出所

構造

すべてが一致している



「...凛。お前の赤も 廃棄場の赤も 少年の赤も...全部 “同じ場所”で切り離された心だ」



凛は息を呑んだ




「これほど精巧で これほど冒涜的な人格分離を行える組織は一つしかない」





漣は一瞬 言葉を選ぶように視線を伏せた






「...黒幕は 政府の中の一組織。治安維持局だ」



凛の指が 胸元を押さえた



「じゃあ...烈くんを攫ったのも...治安維持局の人たちなの?」




漣は頷く




「少年の赤の最深部に 政府の標的ターゲットリストが残っていた...黒猫は その中に載っている」



凛は唇を噛んだ



「そんな.....じゃあ、烈くんは 漣くんを追い詰めるために人質にされたっていうの?」



「ああ。ただ 奴らは“単なる人質”として烈を奪ったんじゃない...俺を折るための一手としてだ」



凛は一瞬 その意味が分からず首を傾げたが 漣の苦悶に満ちた横顔を見て その「狙い」の正体に気づき 顔を青ざめさせた




「.......そっか。漣くんに『想像』させるためなんだ...何もない空間からでも 勝手に『最悪の答え』を導き出しちゃうのを知ってて....」



「......ああ。情報を消せば 俺は欠落を埋めるために解析を加速させる。そうして導き出した『烈が死ぬ確率』や『助けられない理由』は 誰かに言われるより深く 俺自身の心を抉る」



「......最悪。漣くんの知能を 漣くんを壊すための凶器にするなんて....」


凛が震える拳を握りしめる



政府の狙いは 黒猫の戦力を削ることだけではない

漣の「解析能力」と「過去の傷」をリンクさせ 彼自身の思考回路に 自分を裁く処刑人の役を押し付けることも含まれていた.....


一人を攫えば もう一人も潰せる

冷徹で効率的な一手。



ーーこれを狙っていたからこそ 烈が攫われたのだ

漣の...黒猫の精神的支柱だった彼が.....




漣は 止まりかけた指を もう一度ディスプレイへ走らせる


その時 隣に立つ凛の体温を感じた



「.....ありがとう 凛」



不器用なその一言に 今の漣のすべてが詰まっていた

一人なら 自分の思考の渦に呑み込まれ 絶望という「正解」を出して終わっていただろう


凛が隣にいてくれるから 漣は自分を殺すための知能を 敵を討つための武器として繋ぎ止めていられる



「凛がいてくれなきゃ 俺は今頃 自分の頭に殺されてた」



凛は 驚いたように瞬きをして それから 困ったように 少しだけ笑った



「.....何か漣くんらしくないね...でも 私がいて 漣くんが助かるなら...何度でも隣に立ってあげる。それが『仲間』でしょ?」



凛の言葉が 漣の思考を縛っていた冷たい鎖を焼き切る


敵の狙い通りに「最悪」を予測するのではなく 敵が計算しきれなかった「例外」に賭ける



漣は小さく頷き エイジャスを操作し 赤の深層から抽出した座標を一本のルートへと束ねていく


「奴らの狙いはわかった...なら 俺は.....」



漣はディスプレイを見つめ 確信を持って断言した



「俺を壊そうとするロジックの外側にある 少年を利用させてもらう」


「...赤を『家族』と呼んだあの少年。あれは偶然でも 単なる子供の妄想でもなかった」




凛は顔を上げた



「......その子なら 政府と繋がっている可能性がある...だから その子を追えば烈くんに近づけるってこと?」



「理解が早いな!」


漣は わずかに口元を緩めた



「少年は赤を“家族”と呼んだ...それだけで 普通じゃない。政府と無関係なはずがない」




エイジャスが低く駆動音を鳴らす



「位置情報 奪取完了...よし、行くぞ 凛」


「うん!」


ファルコンのキーが回され 鋭いエンジン音が夜を裂いた



情報を消し 心を切り捨て 秩序を作る政府という名の巨大な嘘



その綻びを 少年という唯一の“家族の残骸”から手繰り寄せる


「......政府の尻尾 必ず掴み取ってやる」


ヘッドライトが闇を切り裂き 少年の座標を正確に照らし出していた

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