表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラグ・コード 〜遅延能力でバグった世界をぶち壊す〜  作者: Kaいト
プロローグ:孤独を揺らすは、重き残響

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/50

システム・リブート:その遺志は、絶望をデバッグする

執行官、襲来。

戦利品を手に漣は『低負荷区ていふかく』へと戻った


そこは政府が管理する――偽りの安息地。



街ゆく人々は、あの日。

大崩壊だいほうかい』という厄災が世界を削り取ったことなど忘れたかのように、無機質な街路で笑い、未来を語っている



その笑顔が漣には、ひどく滑稽に見えた

そして――鋭利な刃物のように感じられた


すれ違った子供が、母親に腕を引かれ小さく距離を取る

その視線は好奇ではなく、明確な“忌避”だった



父、九条弦くじょう げん

大崩壊を起こした張本人


世界を壊した「大罪人」



その息子であるというだけで、漣の人生は最初から歪んでいた



(……この平和も、いつか壊れるのか?)



壊れてくれ

父が大罪人なら、俺は諦められる


壊れないでくれ

父が大罪人じゃないなら、俺は救われる



……結局、俺は父の真実じゃなくて

「自分が救われる結末」だけを欲しがっている。



最悪だ。


でも...それでも、




(.....やめよう。もう考えるな)




視線が痛い。



誰も何も言わない

誰もこちらを見ていない


それなのに、皮膚の上を針で撫でられているような気配が どこまでもついてくる



漣はカバンの中に手を入れた



そこに眠る、未起動の解析機。


父が遺した――『エイジャス(AIGS)』。



金属の冷たさが、僅かに指先を落ち着かせる



(......戻るか)



解析屋かいせきやらしい闇の中へ...




















その時だった










 













路地の入り口、雨の音が不自然に消えた























「僕は雨宮あまみや 政府の執行官しっこうかんだ」





その言葉を聞いた漣はとっさに振り返る




「そして解析屋かいせきや九条くじょう れん。君をここで殺す」



そこに立っていたのは一人の男


白一色の軍服を纏った まさに冷徹な秩序の化身




「君が扱う情報ログは国家を揺るがす『毒』だ。君自身の素性も鑑み政府は君の抹殺を決定した」



雨宮が指を鳴らす


降り注いでいた雨粒が空中で一瞬にして結晶化し鋭利な氷の針へと変貌した




数千の氷の針が漣の退路を完全に断つ



漣は息を呑んだ。



(……さっきの半グレとは違う)



本物だ。



本物の......“ルール”を追記する者。




「『氷葬(アイス)・.........』」



放たれた氷の嵐。数千の氷の矢が重力さえも無視した軌道で漣を包囲した



漣は反射的に左手を前方へと突き出した



「ッ!?『追記アペンド遅延(ラグ・)実行(コマンド)!」



ガキン、と硬質な音が響く

氷の針が、途中で静止した


まるで世界そのものが、停止ボタンを押されたように。



だが――



脳を直接焼かれるような負荷が襲い 漣の視界が歪む



(……くそ……!)



そう。ただ止めているだけ。



止め続けることで 自らを傷つけている


だが、止めなければ 目の前の氷によって致命傷を負う



そんな様子を見透かすように 雨宮は静かに言った。



「無意味だ。君のその力はただの延命....いや、自害にすぎない」



雨宮が一歩踏み出す。


空気が凍りつく。



「『絶対命令スタティック――凍結フリーズ』」



次の瞬間。



漣が維持していたラグの空間が 紙のように裂けた。


氷の槍が 漣を叩き飛ばす。



「が……っ!!」



背中が壁に激突した


後頭部から 生温かい血が滴る


手放したカバンからチタン製の端末『エイジャス』が路上の水溜まりへと転がり出た。



「……ガラクタと共に眠れ」






雨宮の声が遠く聞こえる




漣は泥水の中で、指を動かそうとした



だが、動かない


身体が鉛のように重い。




(……いつもそうだ)




どれだけ知略を尽くしても。


どれだけ準備をしても。



圧倒的な“理”の前では、俺は――ただのゴミだ




それでも足掻いている自分が...



惨めで、醜くて。


たまらなく嫌になる。




(……でも)




(嫌だ......!)



こんな場所で、汚名を着せられたまま終わるなんて。



野垂れ死ぬなんて。


死んでも御免だ。



(動け……!!)



震える指が泥水を掻き、端末へ伸びる。




その瞬間――。



雨宮の氷の気配が 端末に触れた




それと同時、


死んでいた画面が、青白い光を放つ



眩いほど鮮烈な青。


まるで世界を拒絶するように。




『システム、リブート。ユーザー・九条漣を認証。……現象の解析(デバッグ)を開始します』




漣の視界が変わった。




雨宮が放つ氷の予測『軌道』


凍結の『構造』


自分が止められる『限界時間』




すべてが――数字と線で、網膜に刻まれていく



(……これが)


(父さんの遺した……)



漣は口角を歪めた。


「ハハッ……ようやく起きたか。……これなら俺でも戦える」


この機械が自分の生命線だと父が遺してくれたことに意味があったのだと



雨宮が次の一撃を放とうとした、その瞬間。


漣はエイジャスの側面にある無骨な物理ボタンを押し込んだ




実行(エンター)!!」




カチリ、と金属音が響く


止めていた氷の針が 一斉に解放される



だが ただ解放されたのではない




弾道が――変わっていた




ありえない角度で 氷の針が跳ねる



瓦礫も、水滴も、破片も



すべてが“狙い”を持った弾丸になる。



「……っ!?」



が、雨宮もまた修羅場を潜り抜けたプロだ


衝突の直前、反射的に氷壁を生成する



氷の壁が衝撃を受け、爆発的に砕け散った


その破片を、漣は再び掴む



遅延。


保留。


そして――


エイジャスが出力した構造ログ。

その中にある唯一の「脆弱性」を 漣の眼が捉えた



「……見つけた」



破片が一点へと収束する



ーー氷壁の継ぎ目。


内部から 破砕衝撃が叩き込まれた




氷壁が割れ 雨宮の身体がわずかに揺らぐ。




その瞬間だった。



漣の身体が、急に軽くなる


瞳の奥で 青白い光が渦を巻く



(……何だ?この....高揚感.......)


(俺の中で……何かが)



笑いが込み上げた。


止められない。




「あっはははは!」



漣の笑い声が 路地裏に響く。



「さっきまでの威勢はどうしたぁ??一気に形勢逆転だな!!」



雨宮は微かに目を細めた


戦慄――いや。



それは、期待に近い眼だった



(……この反応。まさか)



雨宮は静かに追記を解除した


そして 冷たく言った



「……今の君を殺すのは、国家にとって損失になりそうだ」



雨宮は続ける



「『源生げんせい』に、君の端末......僕は君の価値を見誤っていたようだな。」



白い軍服が雨の闇へ溶けるように消える



路地には、氷の欠片だけが舞っていた。


美しく、冷酷な秩序の残滓



「……あ...ははっ!」



漣は まだこの高揚感に支配されていた


だが、その笑いは次第に震えに変わる



全身の細胞が沸騰するような熱。


内側から“蓋”を突き破るような全能感




(……疲れ....た...)




その時


ピピッ、と無機質な電子音が脳内に響いた




『警告。対象の【源生げんせい】が臨界点を突破』 


『現象:強制冷却パージを開始します』



「が、あ……っ、ぐ……!!」



脳を氷漬けにされたような衝撃。



全能感が一転し、泥のような疲労が襲う


漣は膝から崩れ落ちた。



(……なんだ、今の言葉は。……ゲン、セイ……?)



意識が溶ける。


闇に沈む。



その刹那....



エイジャスのスピーカーから、ザラついたノイズが漏れた。



『.......漣。もし、これが......再生.......ているなら....』



「.......父、さん.......?」




遠い記憶よりもずっと疲弊した父の声




『......ヴ....ド...むか....え。......に、世....の......「正解..........』



肝心な言葉がノイズに掻き消える



それでも最後に聞こえた父の吐息だけは恐ろしいほど鮮明に耳に残った


(........待って、父さん.......まだ........)


伸ばした手は空を切り漣の意識は深い闇へと沈んでいった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ