第5話:死の記憶との邂逅・影王の正体
廃墟の中心、崩れた床に立つ葵。
周囲を黒い霧が漂い、空間は静寂と圧迫感に包まれていた。
黄金の瞳がゆっくりと浮かび上がる。
影王が、廃墟の闇の中からその全身を現した。
背は高く、長く伸びた黒い翼が影のように揺れる。
──アオイ。
お前がここに来るのを待っていた。
葵は影の少女と弟影の手を握り、胸の痛みを押し込む。
「……あなたが……影王。
ずっと……怖かった。
でも……逃げない。
死んだ日の自分とも向き合う」
影王がゆっくり歩み寄る。
──その覚悟か。
ならば、真実を見せよう。
影王の周囲に黒い影が渦を巻き、床のひび割れが光を反射する。
〈声喰い〉が影王の命令に従い、廃墟の隅々から押し寄せる。
葵は息を整え、影の少女と弟影を振り返る。
「……行く。全部受け止める」
影王の声は静かで、しかし圧倒的な重みを持つ。
──私はお前の死の残滓だ。
葵、お前が死んだその瞬間、私は生まれた。
お前の魂の破片、死んだ私の影。
それが──影王だ。
葵の体が震える。
「……死んだ……私……が、あなたに……なった……?」
影王の黄金の瞳が揺れる。
──そうだ。
私はお前が生き返るために生まれ、
同時に、お前を呪うために存在している。
矛盾の影。お前の生き残りと死の断片を、ひとつにした存在だ。
葵の胸が締め付けられる。
痛みと懐かしさが同時に襲う。
「……だから……会うたびに、怖くて……
懐かしかったの……?」
影王がゆっくり手を伸ばす。
──そう。
私はお前に会うたび、愛し、憎んだ。
死んだお前の心が、私を作ったのだから。
弟影が葵の手を握り、震える声で言う。
「おねえちゃん……負けちゃ駄目……」
影の少女も葵を抱きしめる。
「葵……今度は逃げないで。あなたの覚悟を見せて」
葵は涙を浮かべ、影王の目を見据える。
「……逃げない。
全部受け止める。
死んだ自分も、生きている自分も、
そしてあなたも……」
影王が微笑む。
──その言葉を待っていた。
ならば、始めよう。
黒い影が渦を巻き、〈声喰い〉が葵を取り囲む。
しかし葵は立ち止まらない。
拳を握り、胸の痛みを力に変える。
──私は、葵。
死んだ私も、今の私も、誰も逃さない。
影王も、その真実も、受け止める。
影王が翼を広げ、廃墟を震わせる。
──よく来た、アオイ。
これが……お前の覚悟か。
葵は一歩前へ踏み出す。
──全てを知る時が来た。
死の記憶も、影王の正体も、逃げずに向き合う時が。
黒い影がさらに強く渦巻く。
黄金の瞳が光り、廃墟が揺れる。
葵の心臓が激しく脈打つ。
──死の真実との邂逅。
葵と影王、二つの魂が交錯する瞬間が、今、始まった。




