第4話:封印領域内部・死の記憶との邂逅
廃墟の最奥に開いた亀裂を抜けると、空間が歪み、灰色の光に満たされた領域が広がっていた。
床は揺れ、壁は霧に溶ける。まるで世界の端に立っているような感覚だ。
葵はゆっくりと歩みを進める。
影の少女と弟影が両脇で支える。
影が前に立ち、警戒の姿勢をとる。
「葵、これが……あなたの死の瞬間の残滓。
触れれば、すべての記憶が蘇る場所よ」
弟影が声を震わせる。
「ここに入ったら……おねえちゃん、大丈夫かな……」
影が低く唸る。
「油断するな。影王の気配が強くなる。ここで心を乱せば、影王が近づく」
葵は胸の痛みを押し込み、拳を握る。
「怖いけど……逃げない。
全部、向き合う」
霧の奥から黄金の瞳が光を帯びて浮かぶ。
影王だ。静かに、しかし確実に存在を主張している。
──アオイ……
死んだ日の真実を見せるために、私はここにいる。
葵は視線を逸らさず、歩みを進める。
床が崩れそうになり、壁が歪む。
〈声喰い〉の黒い影が廊下を這いずり、囁き声のように悲鳴を漏らす。
影の少女が葵の肩に手を置く。
「今は触れない。記憶を思い出すのは、影王と直接向き合う時よ」
弟影が葵の手を握り、目を潤ませる。
「ぼくも……ずっとそばにいる。絶対ひとりじゃない」
葵は息を整え、ゆっくり前に進む。
廃墟の奥に、巨大な黒い影が蠢いている。
影王だ。黄金の瞳がまっすぐ葵を見つめ、距離を詰める。
──アオイ、来たね。
お前が生きていることを、やっと確認できた。
葵の心臓が跳ねる。
痛みが胸を押し潰すようだ。
しかし、目を逸らさずに影王を見据える。
「……あなたが……影王……」
声が震れる。
「ずっと……怖かった。
でも……逃げない。
死んだ日の自分とも、向き合う」
影王の瞳が細くなる。
──そうか……その覚悟か。
その時が来たと、私に知らせる覚悟……。
影の少女が葵を強く抱きしめる。
「葵……これから先、すべてが動き出す。
心を乱すな」
弟影も肩を抱き、力強く頷く。
「ぼくも守る。絶対に守る」
葵は深く息を吸い、影王の姿を正面から捉えた。
黒く歪む影が周囲に広がり、〈声喰い〉が取り囲む。
しかし、葵は足を止めず、歩みを進める。
──すべてを思い出す時が来た。
死んだ日の私も、今の私も、影王も……
逃げずに向き合う。
影王が口を開く。
──アオイ、全てを受け入れろ。
私が死んだ日の真実を、今、あなたに返す。
葵は目を閉じずに答える。
「……わたしは……全部、受け止める。
そして、あなたを……私の手で終わらせる」
黄金の瞳が鋭く光り、影が廊下を揺らす。
廃墟の空気が震え、死の記憶が解き放たれる。
葵は両手を握りしめ、足を踏み出す。
死の封印領域の中心へ――
影王との邂逅、そして真実との対峙が、今、始まる。




