第6話:覚醒の影・第一形態
黒翼の翼が僅かに震える。
その眼差しには、
初めて浮かぶ──“警戒”。
葵は呼吸を荒げながらも立ち上がる。
だが、その背後に揺れる影は
さっきまでの彼女の影とは違っていた。
弟影が息を呑む。
『……これ……
おねえちゃんの影……じゃない……
こんな形、見たこと……ない……!』
黒い影が葵の背後でゆらゆら揺れ、
まるで“別の意志”を持つかのように動いていた。
葵自身も驚いていた。
(わたし……
動かしてないのに……
影が……勝手に……?)
黒翼が低く唸る。
『不完全な覚醒……
だが、確かに“影の核心”が動き始めている』
黒翼は一歩踏み出す。
床の影がざわめく。
『だが──
覚醒の片鱗ごときで、私を超えられると思うな』
黒翼が消えた。
ズガァッ!!
一撃が葵を狙う。
弟影が叫ぶ。
『おねえちゃん避けて!!』
しかし──
葵は間に合わなかった。
「……あっ──」
黒翼の翼が迫る。
その瞬間だった。
バチィィンッ!!
葵の背後の“影”が伸び、
黒翼の攻撃を受け止めた。
黒翼の目が見開かれる。
『……なに……?』
葵も同じく固まった。
「え……
動いて……守ってくれた……?」
影は葵の前に立ちふさがるような形を取り、
黒い鎧のように膨張していた。
弟影が震えた声で言う。
『これ……やっぱり……
“影同調”……!
でも……こんな早さで形になるなんて……!
まるで……最初から中に誰かいたみたい……!』
葵は胸の奥の声を思い出す。
──立て。
──まだ終わらない。
──“お前の影”はこんなものではない。
黒翼は低く呟いた。
『……葵。
お前の影……“誰”だ?』
葵は答えられなかった。
影は形を変える。
黒い甲殻の腕のようなものが生え、
爪が伸び、
ドクン……ドクン……
まるで生体のように脈打つ。
黒翼は翼を大きく広げた。
『……愉快だ。
ならば試そう。
その影がどこまで通用するか』
バシュゥッ!!
黒翼が突撃した。
『死ね!!』
葵の影が前へ出る。
爪同士がぶつかり──
ガキィィンッ!!
衝撃で周囲の空間が歪む。
黒翼が後退した。
『……受け止めた、だと……?』
影は葵の背後に戻り、
まるで守るように立つ。
葵は恐る恐る影に触れた。
「……あなた、
だれ……?」
影から、
声なき声が返るような感覚。
──“お前を守るもの”だ。
葵の胸が熱くなる。
弟影が気づき、震えた。
『これ……
もしかして……
おねえちゃんの“深層影”……!?
本当の影の“本性”が……
形を持った……!?』
黒翼が忌々しげに舌打ちする。
『深層影など……
通常の人間が辿り着ける領域ではない……
だが……ならば納得だ。
お前が折れぬ理由も、
影が覚醒を急ぐ理由も』
葵は影に背を預けながら叫ぶ。
「黒翼……!!
わたしは折れないよ……
だって──
守りたいものがあるから!!」
影が呼応するように、
黒い気流が舞い上がった。
黒翼は翼を構え直す。
『ならば証明してみせろ。
“守る力”とやらで……
この黒翼を超えられるか』
葵が息を吸う。
影が一歩、前に出る。
弟影が震えながら叫んだ。
『おねえちゃん……!!
いける!!
今ならいけるよ!!
ぼくらで……勝てる!!』
黒翼の全翼が展開した。
『来い──葵!!』
葵は影と共に踏み出した。
「いくよ──!!」
黒翼と葵の“覚醒影”がぶつかり合う。
ズガアアアアッ!!
衝撃で空間が砕ける。
光と闇の渦の中、
葵の影が黒翼の腕を弾き返した。
黒翼が叫ぶ。
『これは……本当に……第一形態なのか……!?』
葵は息を荒げながら言い放つ。
「まだ……これからだよ……!!
だって──
これは“始まり”なんだから!!」
黒い影の爪が光を放ち、
黒翼へ向かって振り下ろされた。




