第4話:黒翼との死闘
影の主──黒翼がゆっくりと歩み出す。
その足音に合わせ、空気が軋み、
天井の影が揺れるたびに、
尖った羽根のような闇が散った。
弟影が葵の前に立つ。
『おねえちゃん……!
絶対、あいつから目を離しちゃダメ……!』
葵は頷くが、
黒翼の動きは目で追える限界を超えていた。
黒い光が瞬き──消える。
「……っ!」
弟影が叫ぶ。
『上!!』
ドガァァン!!
黒翼の翼が、
まるで巨大な刀のように振り下ろされる。
葵は紙一重で横に跳び、
羽根の一撃が地面を貫通し、
床に深い裂け目を走らせた。
「は、速……!!」
黒翼の声は低く笑う。
『速さなどではない。
“お前が一番恐れている角度”から攻めているだけだ』
弟影の表情が青ざめる。
『やっぱり……読まれてる……
心まで……丸裸……』
黒翼は首を傾け、不気味なほど静かに言った。
『葵……
お前は何より──
“失うこと”を恐れている』
葵の胸が凍る。
黒翼が足元の影をつまむ。
影がゆらぎ、形を変える。
現れたのは──
倒れた弟影の幻。
そして葵の耳元で囁く。
『ほら……また失うぞ』
ズッ──!
黒翼が幻を踏み潰し、
その瞬間、葵の心臓が締め付けられる。
「やめて……ッ!!」
体が動くより速く、
心が軋む。
黒翼は“恐怖”に反応して動き、
葵の守りたい“像”に触れることで
心を折ろうとしている。
弟影が割って入る。
『葵を……泣かすな!!』
黒翼の翼が弟影の身体を弾き飛ばした。
ズガァッ!!
弟影が壁に叩きつけられ、
形が崩れかける。
葵は叫ぶ。
「弟くん!!」
弟影は耐えながら、
必死に笑みを作る。
『こんなの……
影の身体なら……平気だから……!
泣かないで……ね……』
葵の心に、
黒翼の声が滑り込むように響く。
『影が平気?
本当にそうか?』
次の瞬間──
黒翼の指先が弟影の胸に触れた。
『影も“心”を持てば壊れる』
弟影が悲鳴を上げる。
『あああッ!!』
葵が飛び込もうとする。
「やめてッ!!!」
黒翼が振り返り、
静かに言った。
『守る?』
左手が葵の首に向けられる。
『ならば──
どちらを先に助ける?』
弟影の胸にかかる右手。
葵へ向けられた左手。
同時に殺しにくる体勢。
時間が凍る。
葵の喉が震え、
心臓の音が耳を打つ。
「…………っ」
黒翼の声が落ちる。
『葵。
“一人しか救えない”とき……
人間は本性を見せる』
弟影が必死に叫ぶ。
『おねえちゃん!!
ぼくはだいじょうぶだから……!!
逃げて!!』
葵の瞳に涙が滲み──
その涙の底に、
わずかな光が生まれた。
(救えないなんて……
もう……絶対、嫌だ……!)
手が震えながらも、
葵は黒翼の前へ踏み込んだ。
黒翼の目が細くなる。
『選んだか』
「選んでない……!!」
葵は叫んだ。
「両方助けるの!!
だって私は──
もう誰も……失わないって決めたんだ!!!」
黒翼の表情が、わずかに揺れる。
『……不可能を口にする者ほど、
折れたとき美しい』
黒翼が二本の翼を広げた。
ドォン──ッ!!
爆発するような黒い風圧。
弟影が涙目で叫ぶ。
『おねえちゃん、来る!!
本気の“黒翼連撃”だ!!』
黒翼が空間を滑るように消え──
怒涛の連撃が始まる。




