第3話:影の主の真体
影の主へ向かって駆ける葵と弟影。
だがその瞬間──
ズズズ……ッ!!
影の主の全身から黒い靄が噴き上がり、
周囲の空間が歪み始めた。
弟影が目を見開く。
『おねえちゃん……!
“変わる”!!』
影の主の身体に、無数のひびが入っていく。
仮面に見えた顔が割れ、
中から“別の顔”が覗いた。
『……これが……本当の姿だと思ったか?』
低く、酷薄な声。
割れた仮面からあふれる闇が、
巨大な翼の形をつくっていく。
『影は形を持たぬ。
ゆえに……最弱にして最強』
ひびがさらに広がり、
黒い“肉体”が露わになる。
バキィ……ッ!!
仮面が完全に砕け、
その内側にあったのは──
人間に酷似した輪郭。
だが瞳孔のない、純粋な“闇の目”。
そして口元からは絶え間なく黒い炎が漏れ出す、
異形の顔。
葵は思わず息を呑んだ。
「なんで……そんな……
人間みたいな……」
影の主はゆっくりと“笑った”。
『我は形の模倣者。
お前たち人間が恐れるものを、そのまま写す』
弟影が歯を食いしばる。
『それ……“模倣体”……!
本気で戦う気だ……!!』
影の主の身体が、
鋼鉄のような質感に変わり、
輪郭が鋭利に研ぎ澄まされていく。
『第二段階まで突破した人間は久しい……
褒美として──
“真体”で相手をしてやろう』
その言葉に、
空間全体が震えた。
葵は弟影の手を握り、震える声で問う。
「……勝てるの……?」
弟影も震えていた。
だが必死に笑った。
『……勝つしか、ない』
影の主が片腕をゆっくりと持ち上げる。
ドクン……ドクン……
心臓のような音が空気を振動させる。
弟影の顔が青ざめた。
『やばい……
あれは……“深淵鼓動”!!
聞いてるだけで、心が削られる……!』
「そんな……!」
影の主の目が細くなる。
『恐れるな。
すぐ終わる』
ブォンッ!!
影の主が消えた。
葵は目を見開く。
「えっ──」
弟影が叫ぶ。
『おねえちゃん上!!』
ガッ!!
葵が反射的に跳び退くと、
頭上から落ちてきた黒い刃が地面をえぐった。
ズシャアアアッ!!
地面はまるで紙のように切り裂かれ、
巨大な溝が走る。
葵は背筋を冷たくする。
(あんなの……一撃食らったら……終わり……!)
影の主は空間を滑るように移動し、
再び消えた。
葵の背後で弟影が叫ぶ。
『右!!』
葵は回避する。
その場所を黒い刃が貫いた。
「速すぎる……!」
影の主の声が耳元で響く。
『速さではない──
お前の“恐怖”に合わせて位置を変えているのだ』
弟影が青ざめる。
『それって……!
感情読まれてるってこと……!?』
影の主が葵の足元の影に潜り込む。
『恐怖は影の道標。
逃れられぬ……』
ズドン!!
影の主の拳が、葵の腹を狙う。
だが──
弟影が飛び込んで防いだ。
『ぐ……あああッ!!』
影の主の拳が弟影の胸を貫いた。
葵の喉が裂けるほどの声が出た。
「弟くんッ!!!」
弟影の身体が黒い粒子を撒き散らしながら震える。
『だ……いじょうぶ……
影は……すぐ……修復……するから……』
葵の目に涙が溢れる。
影の主は弟影を振りほどき、
葵をじっと見つめた。
『守るのか。
影であるものを……?』
葵は叫んだ。
「守るよ……!!
だって……弟なんだから!!」
影の主の目が細くなる。
『壊す価値があるな。
その絆ごと、踏み潰してやろう』
影の主の背から黒い翼が広がった。
『深淵真体──“黒翼”』
空間の温度が一気に下がる。
弟影が苦しそうに叫ぶ。
『おねえちゃん……気をつけて……!!
黒翼は……第三段階の中でも……
“敵の心を砕くための姿”だよ……!!』
影の主の声が低く響いた。
『どれほど叫び、抗おうとも──
お前の未来は我が手で終わる』
葵は拳を握り締め、涙を拭った。
「終わらない……!!
あなたを倒すまで──
絶対に……!!」
影の主が翼を広げ、
殺意の気流が吹き荒れる。
『来い──葵。
最終段階を始めよう』
葵と弟影は構え、
影の主の“真体”との死闘が、
ついに幕を開けた。




