5/73
第5話:誰かが見ている
夜の気配が街を覆い始め、ネオンの光が濡れた石畳に反射して揺れる。
葵は地図を手に握りしめ、颯と奏と共に港町の奥へ進んでいた。
「なんだか、誰かに見られている気がする……」葵が小声で呟く。
背後の路地から、微かな足音が重なる。振り返っても、そこには誰もいない。
「気のせいじゃない……」颯の低い声が辺りに響く。
「どうしてわかるの?」葵の問いに、颯は言葉少なに目を細める。
三人が角を曲がった瞬間、黒髪の青年が再び現れた。
しかし、今回はただ立っているだけではなかった。
彼の指先が微かに地図の方向を指し、意味ありげに目を細める。
「……やっぱり、昨日から何か知ってるのね」葵の心臓は高鳴る。
奏が小さく息をのむ。「でも、怖くないよね。だって颯がいるし!」
青年は一瞬こちらを見て、ゆっくりと背を向ける。
その背中の動きが、まるで「追いかけて来い」と言っているかのように見えた。
「行くしかない……」葵は小さく決意を固める。
三人の影はネオンに伸び、静かに港町の奥へ進んでいった。
その瞬間、路地の隅で風に揺れる紙が舞い、誰も気づかない小さな警告のように街に落ちた。




