第3話:彼の静かな視線
午後の光が港町の街角を柔らかく染める。葵は颯と奏とともに、細い路地を抜けて古い図書館へ向かっていた。
「なんだか……落ち着かないね」
奏が小さく眉をひそめる。
「わかる……昨日から、ずっと視線を感じる気がする」葵もつぶやく。
路地を進む途中、葵の視線がふと壁の隙間に吸い寄せられた。
そこにいたのは、昨日見かけた黒髪の青年だった。彼は何もせず、ただ静かに立っているだけだ。
目が合うと、青年はすっと視線を逸らした。しかし、微かに口元が動いたような気がした――まるで警告するかのように。
「……あの人、またいる」葵は小声で呟く。
「見てはいけないのか、それとも……?」颯の声には冷静な警戒心が混ざる。
図書館に到着すると、静寂に包まれた空間が二人を迎える。古い書棚の隙間に、小さな紙切れが落ちていた。葵が拾うと、そこにはまた一言だけ書かれていた。
「信じるな、すぐには」
背筋が凍る。
「これは……いったい?」葵が息を飲むと、颯がそっと肩に手を置く。
「落ち着け。誰かが見ている可能性は高い。でも大丈夫、俺たちが一緒だ」
その瞬間、図書館の奥から本のページがぱたんと閉じる音がした。
「誰もいないはず……」奏の声に、小さく震えが混ざる。
葵は深く息をつき、手の紙切れを握りしめた。
「……でも、何が起こるかわからない。だから、今日も一歩ずつ進むしかない」
三人の影が揺れ、午後の光に伸びる。だが、その光の先に、誰も気づかない微かな足音が重なっていた。




