第2話:微かな違和感
朝がまだ街を包む前、葵は薄暗い路地を歩いていた。
昨日の紙切れの文字が頭から離れない。「今日、気をつけろ」――ただの悪戯ではない予感がした。
「なんだか……変な感じ」
小さく呟きながらも、足は自然に学校の方向へ向かう。
途中、古い商店の窓ガラスに映った自分の姿を見て、ふと息を呑む。背後の影がほんの一瞬だけ、こちらを見つめていた。
「……気のせいよね」
そう自分を納得させようとした瞬間、背後で声がした。
「葵、大丈夫?」
振り返ると、颯が立っていた。表情は冷静そのものだが、瞳の奥には何か複雑な光が宿っている。
「え、颯……?」
「昨日の紙、見たんだろ?」
一言で、葵の心臓は跳ね上がった。彼がどうして知っているのか、理由がすぐには分からない。
「な、何で知ってるの……?」
颯は無言で葵の前にしゃがみ、目を合わせる。
「危険なことが起こるかもしれない。だから……俺がついてくる」
葵の胸が熱くなる。頼もしさと、心の奥にくすぶる不安が同時に押し寄せる。
しかし、その時、路地の先から低い笑い声が響いた。
振り返ると、誰もいないはずの空間に、微かに揺れる影。
「誰……?」
背後で奏の声がする。彼女も何かを感じ取ったらしい。
三人の間に、一瞬の静寂が訪れる。
葵は小さく息を吸い込み、背筋を伸ばす。
「わかった……一緒に行こう」
それは、何も知らない平穏な一日の終わりを告げる、最初の一歩だった。




