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第5話:闇の中の声

扉が完全に開き、放送室の暗闇がむき出しになった。

昼間とは思えないほどの深い闇。

その奥から伸びていた白い指先が、かすかに震えながら葵の方に向かっている。


「……っ」

葵は思わず息を呑む。

胸の奥が熱くなり、足が固まる。


颯がすぐさま葵の前に立ちふさがり、青年すら後ろへ押しやって低く唸るように言った。

「葵に近づくな」


青年は颯の肩に手を置き、静かに目を細める。

「落ち着け。あれは、敵じゃない」


「どう見ても敵だろ」

颯が吐き捨てた瞬間――


指先が、ぎゅっと丸まった。

必死に何かを伝えようとしているように。


奏が震える声で言った。

「ねぇ……これ……“助けて”って、言ってる……?」


葵の心臓がずきんと鳴る。

その仕草は確かに、何かを求めるように見えた。


葵は一歩踏み出そうとした。

すると颯が腕を掴む。


「だめだ、葵。こいつが“何か”分かってない」


葵は颯の目を見つめる。

そこには恐怖だけでなく、“葵を守らなければならない理由”が滲んでいた。


(颯……どうしてここまで……?)


青年が闇に向かって一歩前へ出た。

「……聞こえるか?」


その問いかけに呼応するように、放送室の奥からかすかな気配が揺れる。


次の瞬間――


放送スピーカーが突然、ノイズを撒き散らした。


「っ!?」


ガガガガッ……ザァァァ……


全校に響くような耳障りな雑音が鳴り、葵は思わず耳を塞ぐ。


ノイズの奥で、何かの声が混ざっていた。


『……あ……おい……さん……』


令和の学校とは思えないほど古い録音機がひび割れるような、異様に低い音質。


それが逆に鮮明だった。


『あ……おい……さん……』


奏が震える。

「いま……“葵さん”って……言った……?」


葵の背筋に稲妻のような衝撃が走った。


(私の……名前……?)


颯が青年を睨みつける。

「どういうことだ。なぜ、葵の名前を……!」


青年は静かに答えた。

「呼ばれていると言ったはずだ」


その瞬間――


白い指先が、ぞくりと蠢き、扉の縁を掴んだ。


ギィィ……

不自然に軋む音。


扉の影から、さらにもう一つの指先が現れる。


葵は息をのみ、胸の奥から声が漏れた。

「ま、待って……! そこにいるのは……誰なの……?」


問いかけに応じるように、放送室の奥から――


少女の声がはっきりと流れた。


『……あおい……に……つたえて……』


ノイズが割れ、声が途切れる。


葵は一歩踏み出してしまった。

体が勝手に、声に引かれる。


颯が慌てて腕を掴む。

「葵、だめだ! それ以上行くな!」


「でも……! あの人、私に……!」


葵が叫んだ瞬間――


放送室の奥から何かが、ガシャンッ!!!と倒れる音がした。


四人の身体が硬直する。


白い指先が消える。

闇の奥で何かが激しく動き、重たい物が床にぶつかる音が響く。


ゴンッ……ゴゴッ……!


奏が泣きそうな声を上げた。

「やだ……やだ……こわい……!」


青年が短く言った。

「……隠れろ。来る」


颯が葵を抱き寄せ、後ろの倉庫用扉へ押しやる。

奏も続き、四人は物陰に滑り込む。


闇の中から、異様に静かな足音が一つ。

その音は、まるで“誰かが踏みしめる音を真似ているような”不自然さだった。


そして――

放送室の扉が、完全に闇に飲まれていった。


葵の心臓は、壊れそうなほど激しく打っていた。


あの声は、確かに自分を呼んだ。


でも――

あの奥にいる“それ”は本当に人なのか。


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