表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/73

第4話:誰も開けない扉

放送室へ向かう廊下は、昼間だというのに異様な静けさに包まれていた。

普段なら部活動の準備をする生徒や、走り回る後輩たちの声で賑わっているはずなのに――今日は誰一人いない。


「……変だよね」

奏が葵の袖をきゅっと掴む。


「ここだけ、音が止まってるみたいだ」

颯も眉を寄せ、周囲を警戒するように歩を進める。


黒髪の青年は黙ったまま先頭を歩いていた。

その歩みは迷いがなく、まるで“何が待っているかを知っている”かのように落ち着いている。


葵は胸の奥がさらにざわつくのを感じた。

(昨日からずっと……知らないことばかり。全部、何なの……)


やがて、放送室の前に到着した。


だが――。


扉には、見たことのない金属の封鎖器具が付けられていた。


学校の備品ではありえない、無骨なロック。それが扉の中央にどっしりと構えている。


「……何これ」

葵は思わず後ずさる。


奏も青ざめて呟いた。

「こわ……これ、学校の普通の鍵じゃないよね?」


颯がしゃがみ込み、装置に触れないように慎重に観察する。

「……誰かが外から開けられないように閉じた。昨日か、今朝か……」


「じゃあ、あの放送は……誰が?」

葵の声が震える。


青年が扉に手をかざし、静かに首を振った。

「扉の向こうに“誰かがいる”のは確かだ。ただし……『生徒』かどうかはわからない」


言い終えたその瞬間――


ガンッ!


内側から何かが扉を叩いた。

鋭く、必死な音。


葵は息を呑む。

冷たい汗が背中を伝う。


再び、扉が揺れる。

ガンッ……ガンッ……!


奏が泣きそうな声を漏らした。

「ねぇ……これ……ほんとに“人”だよね?!」


葵の心臓は激しく脈打つ。

颯は葵の腕を引き寄せ、自分の後ろに隠した。


「葵、下がって。絶対に前に出るな」


青年は扉に耳を寄せ、静かに息を吸った。

その表情には、わずかな緊張すら浮かんでいた。


「向こう側にいる“何か”は……助けを求めている。ただし――」


青年はゆっくりと振り返り、葵の瞳をまっすぐ見つめた。


「葵を“呼んでいる”。」


空気が凍りついた。


「わ、私を……?」

葵の声が震える。


颯が青年を睨みつける。

「ふざけるな。葵は巻き込まれてなんかいない」


青年は静かに言った。

「もう巻き込まれている。最初にあの紙を拾った時点でな」


葵の胸がざわめき、膝が震える。


(紙……『気をつけて』……あれから全部……繋がってる?)


その時――


ガチャ……ッ


封鎖器具が突然、ひとりでに動き出した。


「え……?」


金属音が廊下に響き、ロックが勝手に外れ始める。


奏が震える声で叫んだ。

「ねぇ! 誰も触ってないのに……!」


颯はすぐに葵を抱き寄せ、青年すら前に出る。

「開くぞ、構えろ!」


重たい金属の音が最後まで外れると――


放送室の扉が、ゆっくりと、ゆっくりと……ひとりでに開いていく。


暗闇の奥から、冷たい空気が漏れ出した。


その闇の中に――


白い指先が、ぽつんと覗いていた。


まるで葵を掴もうとするかのように、震えながら。


葵の心臓が止まりそうになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ