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第1章 第1話:街角の奇跡

港町の夕暮れ、壊れかけの時計塔が赤く染まる空に長い影を落としていた。

葵は小さな手提げバッグを握りしめながら、路地裏のカフェへと向かっていた。

人通りはまばらで、通りのネオンが濡れた石畳に反射して揺れる。微かな違和感が胸をくすぐった。


「あれ……誰か見てる?」

思わず振り返ると、黒髪の青年が歩道の端に立ち、じっとこちらを見つめていた。

目が合った瞬間、葵は一瞬息を飲む。――けれど、彼はすぐに目を逸らし、足早に去っていった。


「……気のせいか」

そう呟いて歩き出すと、背後から軽やかな足音が近づいた。

「葵!こっち!」

振り返ると、茶髪ボブの奏が笑顔で手を振っていた。何も知らない軽やかな笑顔。

葵は思わず笑みを返す。けれど、心の奥底に残った微かな違和感は、まだ消えなかった。


カフェのドアを押すと、温かい光とコーヒーの香りが迎えてくれる。

店内には常連らしい人々が静かに話し、誰も外の異変には気づかない。

葵は席につき、手提げバッグを膝の上で握りしめる。

その時、誰かがテーブルに小さな紙切れをそっと置いた。


「……え?」

差出人の姿はなく、紙にはただ一言、鉛筆で書かれていた。


「今日、気をつけろ」


一瞬、背筋に冷たいものが走る。

でも、奏は楽しそうにメニューを眺め、何も知らないように笑っている。

葵は深く息をつき、心の中で小さく決意した――

「何があっても、今日を普通に過ごさなくちゃ」


その瞬間、街の向こうのネオンが一瞬だけ赤く揺らめき、誰もいないはずの路地から低い足音が響いた。


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