表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

始まりの日

"何か"を失くした勇者はそれでも立ち上がり、世界を救う為に戦う


記憶喪失の状態で目が覚めたレイアスは、魔法が殆ど扱えなかった。この世界の基盤となっている魔法が扱えない彼は、それでも自分の前の記憶を知るものを探り始める。しかしそれは、この世界を変えうるきっかけに過ぎなかった…不意に挟まる見知らぬ記憶、過去の自分を求め、世界を歩く物語である。

「……レイアス…?大丈夫?」


とても綺麗な女性が金色の長い髪を耳にかけながら、心配そうな顔でこちらに話しかけてくれている。


「……大丈夫…」

「も〜、またぼーっとしてたの?」


今、俺はどこかの家に居るようで、俺の名前を読んでくれた女性は、何かを作ってくれている様だった。


俺は彼女が作ってくれているのを椅子に座って楽しみに待っている様で、自分の意思で動く事が出来ない。彼女以外の周りの物はぼんやりとしていて、上手く認識が出来ない。


それでも分かるのは、これは幸せなものだと言う事だった

━━━━━━━━━━

どこか長かった眠りから目が覚め、ぼんやりとした意識の中、起き上がりながら周りを見渡す。


右側にある窓からは日差しが部屋を明るく照らし、部屋の外からは鳥の鳴き声では無く、人々の喧騒が聞こえてくる。


木造の部屋の中にあるベッドで寝ていた様で、少し固いマットレスから起き上がると、左側にある扉から人が入ってくる。


「あ〜…!?起きてる!!」


白に近い水色のロングヘアを揺らしながら近づいてくる。か細い様な、透き通った綺麗な女性の声をしており、青色の瞳で俺を見つめてくる。


「ぁ…なだは…?」


どれだけ寝ていたのかは分からないが、俺の第一声はかなりボロボロで、まだ上手く喋れない。


すぐに喉の調節をしながら、彼女の全身を観察する。見た目はおおよそ10代後半位だろうか…160cm程で淡い水色の髪、そして少し濃い青の目、白色のワンピースを着た結構な美少女だ。


「私はリリメア!あなたの名前は?」

「……分からない…」

「分からないの…?」

「……レイアス…夢を見てたんだけど…誰かが俺の事をレイアスって呼んでた…」

「レイアスね、よろしく。目が覚める前の事覚えてる?」

「…分からない」


どう頑張っても、自分が目覚める前の事が思い出せない。どんな生活をしてたとか、どんな人間だったとか。


「そっか〜、うーん…顔は勇者っぽいんだけど…名前はこの世界の人だ」

「勇者…?」

「そう、今のこの世界とは別の場所からやってきた人の事。黒髪だし…顔もこの辺じゃ見ない系統だから」

「そう…なんだ、珍しいの?」

「少なくとも私からすれば、君が初めて見た黒髪の人」


それにしても、自分の名前もその他も思い出せない。目が覚める前は何をしていたのか、自分は何者なのか…その事をリリメアに話すと、どうしたらいいか少し悩んだ後、俺をこの部屋に連れてきた経緯を話してくれた。


「私は、色んな場所に行ったりして旅をしてたんだけど、その途中でレイアスを見つけたの。森の中で倒れてて、このままじゃ魔獣の餌になっちゃって危ないから、この宿に連れてきたんだ」

「魔獣…?って何…?」

「魔獣は森の中に居る動物かな。一部魔法を使う獣が居るから、全部纏めて魔獣って呼んでる」


とりあえず俺はベッドから足を出して立ち上がろうとするが、上手く力が入らず倒れそうになってしまった。そんな俺を見て、すぐさまリリメアが支えてくれる。


「大丈夫?」

「ありがと…」


支えて貰いながら立ち上がろうとするが、力があまり入らず無理そうなので、とりあえずベッドに座ったままリリメアの話を聞く事にする…リリメアはこの世界の事や、今の俺がどういう状態なのか教えてくれた。


今の俺は記憶喪失という状態らしく、過去にあった事を何かしらによって失ってしまった状態だと言う。


俺の身体はおおよそ18〜20歳程で、身長は大体175〜180程、鍛えていたのかかなりしっかりとした筋肉があった様だが、長い間寝ていた事もあり、今は立った状態を維持するのも難しいほどに衰えている。


この世界には魔法という現象が存在しており、様々な種類があるという。主に使える魔法は髪色によってある程度判断が出来て、赤い髪はは炎系統、青は水系統等が扱いやすい。赤い髪だとしても、その他の系統の魔法が使えない訳では無いとの事。


治癒魔法も存在していて、不思議な事に治癒魔法を使う際は、基本的に同性同士で魔法をかけないといけない『メラード法』という法律が存在する。


「メラード法があるから、1日1回しか治癒魔法かける事が出来なかったんだ、ごめんね」

「1日に1回だけ…女性が俺に治癒魔法を使っていいって事…?」

「うん、そうだよ。私が1日1回だけ治癒魔法を使ってかけてた」

「そっか、ありがとう…」


異性に対して治癒魔法を使っていいのは、軽傷の場合でも1日1回が限度らしい。


リリメアは俺の筋肉を少しでも早く治す為に、男性の治癒魔法士を呼んでくれるらしく、俺をベッドに残したまま部屋を出ていった。


今の俺が居るのはチュニメイトと言われる国で、その中でもラッセルと言われる都市だった。結構な人の量が住んでいるらしく、窓の外からは人の声が沢山聞こえてくる…


魔法は基本的にどんな人にも使えて、この世界の生活の基盤になっている。中には魔法の素、所謂、魔素が無い人間が生まれる事もあるらしく、オリミー病と言われる病気もある。


魔素というのは人間が吸っている空気と同じ様に、見えてはいないが存在しているとリリメアは言っていた。


しばらくすると、男性の治癒魔法士がやってきた。結構歳をとったおじさんで、自己紹介をしてくれる。


「黒髪…初めて見ました…私、ロレッダ・レードでございます。既に結婚しており、5歳になる娘も居ます」

「…?あ、はい、レイアス…です」


なぜ既に結婚している事を報告してきたのか分からないが、とりあえずロレッダ先生に俺の体を見てもらう。俺の足の筋肉やその他の筋肉に触れながら色々と教えてくれる。


「筋肉はかなり衰えていますね…通常なら1ヶ月程リハビリが必要になりそうですが、1週間程で治しましょう」

「ありがとうございます…」

「魔素の確認をしますね」


そう言って俺の腕に触れながら魔素を確認し始める…


「…魔素がかなり少ないですね」

「少ないと何かヤバいですか…?」


俺がそう聞くと、リリメアが答えてくれる。


「魔素が少ないと、単純に生活がしづらくなるの。この世界は魔法が使える前提で作られているものが殆どだから、ついて行きづらくなる…」

「そうなのか…」

「とりあえず治癒魔法をかけておきます。まずは一人で立てるようになるまで、私が診ましょう」

「…ありがとうございます」


そう言って俺に治癒魔法をかけた後、ロレッダ先生は部屋を出ていった。リリメアはご飯を俺の部屋に持ってきてくれて、俺が飯を食べる所を見ながら椅子に座って、ただ一緒に居てくれる。


「リリメアは、なんでこんなに尽くしてくれるの」

「……なんでだろ、レイアスの事は助けたくなるんだ」

「そっか…治癒魔法って自分にかけたり出来ないの?」

「出来ないと思う…私は無理だし、してる人見た事無い」

「出来たら自分で足治したのにな…」


それから俺は、ロレッダ先生に診て貰いながらリハビリをして、5日程で何とか一人で立てるようになった。


「かなり早いですよ…治癒魔法を使っててもこんなに早いのは初めてです」

「そうなんですか…魔素が少ない分、身体が強くなってるのかな…」

「その可能性はありますね…」


何とか一人で立てるようになるまで回復し、ロレッダ先生に感謝を伝え、宿の外へ出てみる。


空はとても綺麗な青で、色んな人が歩いている…人々の髪はカラフルで、色んな髪色をしていた。そんな人達は俺の髪色を物珍しそうに見ては通り過ぎていく。


「あの髪色…もしかして勇者じゃないか?」

「ほんとだ…でもあんな勇者見た事無いぞ」


周りの喧騒の中からそんな声が聞こえてくるが、聞かなかった事にして、とりあえず街を気ままに散策する。


(思ったより視線が痛いな…)


「これからどうするの?」

「うわ…!?リリメアか、びっくりした〜…ん〜どうしよう…」


正直、今の自分は何をしたら良いのか分からない。返答に困っていると、リリメアが提案してくれる。


「じゃあさ、私と一緒に色々見て回らない?」

「見て回る…?」

「そう、君の事を知ってる人も居るかもしれないし」

「良いの?」

「良いよ、ほら…行こ?」


そう言ってリリメアは俺の手を引っ張ってくれる。どうせ何をしたら良いか分からないし、何となくリリメアについて行く事にした。ついでに目覚める前の俺の事を知っている人を探し、どんな人間だったのかを探る事にする。


リリメアに引っ張られながら歩いていると、ふと見覚えのある場所だと感じた。身体は固まり、歩く事も出来ない…突如として脳の処理に全神経が注がれるが、それでも理解出来たのはこの街に来た事があるというどこか曖昧な記憶だった。


「っ…」

「…?どうしたの?」

「なんか…見た事ある気がして…ここの光景を…」


俺がそう言うと、リリメアにも心当たりがある様ですぐに教えてくれる。


「それはデジャブかもね」

「デジャブ…?」

「そう、見た事の無いはずの景色、来た事の無いはずの場所なのに、どこか既視感を感じてしまう現象…だけど、レイアスの場合はほんとに来た事があるのかも…でも、他の人にもデジャブは起こってるって覚えておいて」

「…分かった」


そうしてリリメアは、どこか決まった場所に行こうとしている様で、ふと目的地を聞いてみる。


「どこに向かってるの?」

「ん?魔法が撃てる場所だよ」


どうやらリリメアが俺の魔法について見てくれるらしい。この世界の基盤となるもの…それについて見ておくのは大事な事だろう。


「あの治癒魔法士の人は、レイアスの魔素が少ないって言ってたけど、どんな魔法を使えるのか試してみよ!!」

「すぐに出来るのか…?」


そう言って連れてこられたのは、ラッセルの街から少し離れた人気の少ない場所にある、冒険者達が魔法を試し打ち出来る場所だった。


木で出来た人の形をした物が的として何個か置いてあり、それに向かって撃って、ある程度身体を慣らしてから出かけたりするらしい。


日も暮れ始めて、空が茜色に染まっている時間、俺とリリメア以外の人は居なかった。


「夜になると危ないから少しだけ見よ!魔法撃ってみて」

「え…いや魔法ってどうやって使うんだ…」

「うーん、こう全身の感覚を研ぎ澄ます感じで、身体の中を巡ってる魔力をイメージして…」

「身体の中の魔力…?」


どうやらリリメアによると、空気中に漂っている魔素を体内に取り込むと、身体の血管の中で血と共に常に全身へ巡っている魔素になって、それは術者本人が声に出して詠唱する事によって魔素が魔力へと変化し、操作出来る様になるらしい。


仕組みとしては、術者本人の声による特有の空気の震えで、体内の魔素が反応する原理だとリリメアは言う。


無詠唱魔術も存在はするが、かなり緻密な魔力操作が出来る者にしか使えず、極度の集中力が必要とされ、1度無詠唱魔術を行うだけで体全身が疲弊する事も珍しくないらしい。


「詠唱しないと…って、何を言えば良いの?」

「とりあえず私がしてみるから、それの真似してみて?」

「分かった…」

「例えば水の魔法を使うなら、水を頭の中でイメージして、それをどこに当てたいかを決めるの。ちょっと見てて」


そう言ってリリメアは、右手を前に伸ばして詠唱を始めると、手のひらより少し先の空中に水が生成され始め、みるみる内に形を大きくしていく…


「でか…」

「ちょちょ…大きすぎ!」

「え?」


そしてその大きな水の塊は、離れた所にある木の人形の様な物に目掛けて、強く当たる。それはなかなかの速さで、自分に向けられたら避けれるのに精一杯になりそうな速さだった。


「なんか、思ってた倍位大きくなった…まぁいいや、あんな感じのをイメージしてみて?」


お手本を見せてもらったので、俺も手を前に伸ばして詠唱を始める…リリメアになんて言ったら良いかを教えて貰いながら復唱していく…


「お…!!おぉ…!!」


俺の手の少し先に水が出来始めた。少しずつその形を大きくして……確かに水は生成されたがかなり少ない…距離も全然飛ばず、まるで唾でも吐いたかの様なしょぼさだった…


「あー…さぁ!!次は炎の魔法使ってみよ!多分出来ると思うから!!ね?」

「分かった…」


そうして炎の魔法を使えば火の粉が飛んで、木属性の魔法を使えば落ち葉が1枚落ちてきたのかと思う程にレベルが低い魔法ばかり…やはり魔素が少ないからなのだろうか…


俺はリリメアが魔法を撃つ姿を見ながら色々考える。


「今日はなんかめっちゃ魔法の調子が良い!」

「そうなんだ…身体の調子とかで左右されるの?」

「病気の身体がしんどい時とかはある程度変わるけど、ここまで変化があったのは初めてかも…」

「そっか…あ、そろそろ戻らないと…すぐに夜になっちゃう」


気づけば日もだいぶ落ちかけていて、さっきよりも暗くなっている。俺とリリメアは一緒に宿に戻ろうとすると、目の前に人影が見える。


その人影は男性の様で、こちらに近づいてくる。そうして段々見えるようになった姿は、おおよそ30代程の見た目なのに白髪で、右頬には10m程離れていても分かる程に何かで切り裂かれた様な大きな傷があり、かなり鍛えられた身体をしているが、その顔はとても険しいものだった。


かなりの強面ではあるが、俺は一般人が魔法を撃ちに来たのかと思い、あまり気にせず街へ戻ろうとする。


するとリリメアが、俺の右腕の服の裾を掴んで引き止めた。


「……待って…」

「…?どうした……っぐ…!?」


リリメアに引き止められて、目の前の男から視線を外して振り返ると同時に、左腕に激痛が走った。その痛みの元を見ると、さっきまで繋がっていたはずの左腕が地面へと落ちていて、さっきまで10mは離れていたのに、その男は音も無く俺のすぐ側にまで来ていた


「見つけたぞ……クソ勇者」

気ままに書きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ