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神竜現る!

 リンが実家に帰ると、見張りに立っていた兵士が慌てて屋敷に走っていった。しばらくして屋敷の中からプロスト伯爵と母親のナーシャ、兄のシューベルが出てきた。ナーシャはリオンを見るなりいきなり駆け寄って抱きしめた。



「リオン!ごめんなさい!ごめんなさいね!」


「リオン!すまなかった!わしが悪かった!許してくれ!」



 すると冷静なシューベルが声をかけた。



「父上、母上、家の中で話しましょう。」


「そうだな。」



 リオンは家族に連れられて屋敷の中に入っていった。



「お父様、お母様、ごめんなさい。心配をかけてしまって。」


「————いいんだ。————無事でいてくれただけで————フィリス様、ありがとうございます。」



 人々から国王の懐刀と言われているプロスト伯爵も涙で声が出ないようだ。それから、リンは家を出てからの話をした。当然、僕の話もだ。



「そうか。そのリュウという少年も是非我が家に連れてくるといい。私から直接お礼を言いたいからな。」



 母親のナーシャは何かを感じたようだ。



「リオン。あなた、リュウさんと結婚したいの?いいのよ。もうあなたの好きにしても。」



 リンは顔を真っ赤にして言った。



「ま、まさか~!リュウはただの冒険者仲間よ!それだけの関係よ!」



 プロスト伯爵達はリンの焦った様子を見て、何かを感じ取ったようだ。その日からリンは頻繁に伯爵屋敷に行くようになった。それからさらに数日が過ぎ、いよいよ王都内に王族派の兵士達が集まり始めた。そんなある日、バッカイが訪ねてきた。



「リュウさん。今日はお願いがあってきたんです。」


「バッカイさんじゃないですか。いきなりどうしたんですか?」


「いよいよ始まるらしいんですよ。」


「戦争ですか?」


「はい。もし戦争が始まりでもしたら、・・・・・考えるだけでも恐ろしいです。お願いです。どうか私の家族を守っていただけませんか?」



 確かに王都内も兵士の姿が多くなり、物々しい雰囲気になっている。



「わかりました。でも、どうしてバッカイさんがそんなことを知ってるんですか?」



「実は各街の支店から報告が来たんです。貴族派の兵士がこの王都に向かって進軍していると。」



 リード商会はこの国で最大の商会だ。各街に支店があってもおかしくない。だとしたらかなり正確な情報だろう。



「バッカイさん。もし戦争が始まったら家族を連れてこの家に避難してください。この家にいる限り安全ですから。」



 戦争が始まったらこの家に結界を張っておけばいい。



「ところでリンさんはどうしたんですか?」



 バッカイはリンの正体を知らない。リンは貴族の娘だ。彼女が平民の僕と一緒に暮らしているとなると問題になってしまうかもしれない。そこでバッカイを誤魔化すことにした。



「用事に出かけてるんですよ。」


「用事ですか?」


「ええ。」



 すると、そこに鎧を着たシューベルがやってきた。



「もしかして、そなたがリュウ殿か?」


「ええ、そうですけど。何か?」


「妹が世話になった。感謝する。ところでリオンに用事があるのだが。」


「リンは伯爵様の屋敷に行ったんじゃないんですか?」


「いいや。今日は来てないんだ。いよいよ戦争が始まるから、リュウ殿と一緒に我が屋敷に避難するように言いに来たんだが。」



 何か物凄く嫌な予感がした。魔力感知を薄く広げてリンを探すと、郊外にリンの反応があった。リンが自分から郊外に行くはずもない。どうやら攫われたようだ。



「シューベル様。どうやらリンは攫われたようです。」


「攫われた?貴族派の連中にか?こうしてはいられない!すぐに助け出さなければ!」


「待ってください。リンは僕が連れて戻ってきますから。」


「君がか?一人で何ができるんだ!」


「こう見えてもAランクの冒険者なんですよ。」



 シューベルが疑いの目で僕を見た。



“仕方ない。ちょっと力を見せるか~。”



 僕が母さんに渡された指輪を一つ外した。すると僕を中心に辺り一帯に強い風が吹き抜けた。僕の身体からは真っ赤なオーラが溢れ出ている。



「き、君は一体・・・」


「じゃあ、待っててください!」



 僕は家を出て、リンが連れていかれた方向に走った。シューベルと兵士達も追いかけてこようとしたが僕の速さについてこられない。誰もいなくなったところで空を飛んだ。



“大丈夫だ!リン!今行くから!”



 その頃、攫われたリンはアンドリューのいる天幕に連れてこられていた。



「リオン!久しぶりだな!」


「アンドリュー!あなた、どういうつもりなの!」


「お前を人質にして王族派の兵士達に手出しさせないようにするのさ。」


「お父様が私のために国王様を裏切るわけがないでしょ!」


「それはどうかな。」



 アンドリューは兵士に命じて水晶を持ってこさせた。



「この水晶はな~。映像を記録できるんだ。お前のみじめな姿を見て、はたして伯爵は黙っていられるかな。」



 アンドリューが兵士に命じてリンの両手、両足を拘束した。リンは何とか逃げ出そうとしているが男の力には勝てない。



「やめなさい!私に触らないで!近くに来ないで!」


「ウへへへ。俺が用事を済ませたら後はお前達にくれてやる。好きなようにしろ!」



兵士達もニタニタと笑っている。



 ビリ ビリビリ


「キャー!だ、だれか~!助けて~!」



 アンドリューがリンの服を破いた。下着と肌が見えている。



「誰が助けに来るんだ!助けなんか来るわけがないだろうが!」



 そしてアンドリューがリンの下着に手をかけようとしたとき、僕は天幕の前に舞い降りた。そこには天幕を守る兵士達がいた。



「何者だ!」


バキッ ボキッ 


バッタン



「何事だ!」



 外の騒ぎを聞いたアンドリューが兵士達と天幕の外に出てきた。



「お前がアンドリューか。どうやら生かしておく必要はなさそうだな。」


「貴様!何者だ!」


「オレか?オレのことを知ったら震えが止まらなくなるぞ!」


「何をふざけたことを!こいつを殺せ!」



 兵士達が剣を抜いて斬りかかってくる。僕は兵士に向かって手を水平にゆっくりと降った。



スパッン


バタン バタ バタ



兵士達の身体が上下に分かれて地面に倒れた。



ヒ~


「誰か~!助けろ~!曲者だ~!」



 アンドリューはそれを見て顔を真っ青にして、本隊のいる方向に逃げようと大声を出しながら走り出した。アンドリューの声を聞いた兵士達がぞろぞろとやってくる。だが、僕の身体から溢れ出る真っ赤なオーラに怯えて動けない。



「逃がすわけないだろう。」


『止まれ!』



 アンドリューはその場で身動きが出来なくなった。僕は、恐怖で腰を抜かして震えている兵士達の間を通り抜けてアンドリューの前まで来た。



「き、き、貴様!この俺にこんな真似してただで済むと思っているのか!俺の父上は公爵だぞ!」


「それがどうした?オレには関係ないさ。お前には生きる価値がない。それだけだ。」


「金か?金ならいくらでもやる!なんなら伯爵にしてやってもいいぞ!」


「お前、本当に救いようのない奴だな。今までお前が苦しめてきた女性達も同じように助けて欲しいと言っただろうに!お前は絶対に許さない!」



『トランスフォーム』



 僕が魔法を唱えると、アンドリューの身体が光りに包まれ女性の姿に変化していく。



「これはどうしたというんだ!なぜ俺が女になっている!」


「これからお前をオーク達のところに連れていくんだよ。」



 オークは性欲が強い魔物だ。人間の女性を誘拐して散々弄んだあと殺して食べるのだ。



「や、やめてくれ!許してくれ!」


「お前はそうやって許しを請うた女性を許したのか?」



 僕はアンドリューを連れてオークの集落のある場所まで転移した。そして、アンドリューを残して再び天幕まで戻った。どうやら兵士達は逃げたようだ。天幕の中に入ると、リンが気を失って倒れていた。僕はリンを抱きかかえて自分達の家まで転移し、リンをベッドに寝かせた。すると、音で気が付いたのかシューベルが部屋に入ってきた。



「いつの間に帰ってきたんだ?」


「今ですよ。」



 シューベルが気を失ってベッドで寝ころんでいるリンを見た。



「リオン!リオン!」


「シューベルさん。リンは無事ですから。安心してください。」



 シューベルが僕をまじまじと見た。そして何かを言いかけようとした時、部下の兵士達がシューベルを呼びに来た。



「シューベル様!陛下がお呼びです!すぐに城へ!」


「わかった!」



 シューベルが僕に一言言った。



「リオンを頼む!」



 どうやら本格的に戦争がはじまりそうだ。



「さて。バッカイさん達を呼びに行こうかな。」



 僕はバッカイさん一家を家に呼んでリンの面倒を見てもらうように頼んだ。



「バッカイさん。リンを頼みます。」


「わかりました。」



 リンが救出されたことが父親のプロスト伯爵に報告されると、プロスト伯爵は王城の国王に報告し王国軍を集めた。



「敵はすぐそこにいる!我々は国を守るために敵を打ち払うぞ!」


「おお———!!!」



 国王自らが先頭に立ち、脇に軍務卿のプロスト伯爵を従えて進軍を始めた。その頃バイセン公爵の本陣では、アンドリューを守る兵士が殺され、アンドリューが行方不明になったことが報告されていた。



「王族派の連中の仕業であろう!皆殺しにしてくれるわ!全軍に指示を出せ!これより王都を攻める!」


「ハッ」



 そして日が昇り始めたころ、両陣営が王都の郊外の草原地帯で対峙した。何かのきっかけでいつ戦争が始まっても不思議ではない。そして、森の鳥が一斉に空に飛び立った。その音が合図になったかのように、双方の兵士達が入り乱れての戦いが始まった。



「進め―!」


「おお———!!!」


カキン カキン


ワ———!!!



 次々に地面に兵士が倒れていく。すると空が急に暗くなり、冷たい風が吹き始めた。空からはパラパラと雹が降り、稲光とともにゴロゴロと雷が鳴り始めた。



「あれは何だ!」



 一人の兵士が大声をあげて空を見上げた。すると、激しく戦っていた兵士達も戦うのをやめて空を見上げる。



「ど、ど、ドラゴンだ!」



 上空に巨大で真っ白なドラゴンが現れた。ドラゴンからは神々しい光が放たれている。それを見てフィリップ国王がつぶやいた。



「まさか!エンシェントドラゴンなのか?!」



 あたりの空気がピーンと張りつめた。



「人間よ!戦うのをやめよ!さもなければ、この国を亡ぼす!」

 


シュ————


ドッドドドド————ン



ドラゴンの口からすさまじい光が放たれ、遠くにあった山が地響きとともに跡形もなく消え去った。その光景を見て、兵士達は次々と武器を手放していく。馬上にいたものも馬から降りた。



「我に跪くがいい。」



その場の全員が地面にひれ伏した。



「すべての人間は神により作られた兄弟である!兄弟同士が殺し合うのを見て神が嘆いているのがなぜわからぬ!」



そしてドラゴンの目が光ると、きらびやかな鎧を着たバイセン公爵が上空に浮きあがった。バイセン公爵は必死に逃げようと手足をばたつかせている。



「放せ!放せ!何をする!誰かわしを助けろ!」



 どうやらこのバイセン公爵という人物は、権力に執着するだけでなくなんの覚悟もできていない愚か者のようだ。



「この戦いは貴様が権力に執着したために起こったのだ!その責任はとってもらうぞ!」



 バイセン公爵の身体が光り出し、ゴブリンへと姿が変わっていく。その場の全員がその光景に驚愕し恐怖を覚えた。



「どこへでも行くがいい!」



 ゴブリンへと姿が変わったバイセン公爵は、恐怖からその場にいられずに森の中に走っていった。



「国王よ!そなたにも責任がある!わかっているな!」



 フィリップ国王は頭を垂れて言った。



「どんな罰もお受けしましょう。ですが、わが国民に責任はありません。どうかここにいる兵士達はお助けください。」



 敵、味方関係なく、その場にいる兵士達がフィリップ国王の言葉に驚いたようだ。当たり前だが、本来国王に逆らった段階で国賊なのだ。その国賊となった者達までも助けて欲しいと懇願したのだから、驚くのも無理はない。



「王という地位は神に与えられたものである。神の期待に応えられなかったお前にも罰を受けてもらうぞ!」



 するとプロスト伯爵が王の前に出た。



「神竜様!この度の戦争は私に責任があります!私を罰してください!」


「プロスト。そなたは私をかばうのか?」


「この国には陛下が必要なのです。すべての責任は私がお引き受けしましょう。」



 プロスト伯爵だけではない。敵味方関係なく、双方の貴族達が懇願してきた。



「神竜様!どうかわたしどもを罰してください。」



 その様子を見て僕は少し安心した。自分だけが助かりたいというものが現れたら、僕の怒りは爆発していたかもしれない。



「よかろう。ならば貴様らに罰を与える。貴様ら貴族は国民の幸せのために存在するのだ。すべての財産を国民のために使うがよい。それをもって罰としよう。ただし、次に同じことが起きたら、そのときは覚悟しておけ!よいな!」


「はっ!!!」



 巨大なドラゴンは上空高く舞い上がり、姿が見えなくなった。貴族達も兵士達も敵味方関係なく手を取り合って喜んだ。その様子を王都の住民達も見ていた。住民達もお祭り騒ぎだ。



「神竜様!ばんざーい!」


「ばんざーい!ばんざいーい・・・・・・・」



 意識を取り戻したリンは、ベッドに寝ていたことに驚いたようだ。



“確か私はアンドリューに・・・。どうしてここにいるの?”



 少し落ち着いたのか、部屋から出て僕を探し始めた。



「リュウ!リュウ!どこにいるの?リュウ!」



 だが、どこを探しても僕の姿はない。そこにバッカイが声をかけた。



「気付かれましたか。リオン様。」


「バッカイさん。どうして私は・・・・」


「よくわかりませんが、リュウさんに頼まれてあなた様の様子を見ていたんですよ。」


「リュウは?」


「はて?リュウさんは少し前に外に出て行かれましたが。あっ!手紙を預かっておりますよ。あなた様が気が付かれたら渡してくれと言われています。」



『リン!僕は行くよ!幸せになってくれ!リュウ』



 リンは慌てて家の外に出た。すると、街中が大騒ぎだ。人々は神竜の話で大盛り上がりだった。



「神竜?神竜ってどういうこと?」


「お前さん知らないのか!戦争を始めたら真っ白なドラゴンが現れて戦争が終わったんだ!あの姿はまさしく神竜様だ!」



街の人の話を聞いて、過去のことがだんだん思い出されてきた。



『ところであなた何者なの?』


『えっ、なんでそんなこと聞くのさ。普通の人間の子どもに決まってるだろ。』



“もしかして・・・そんなこと・・・。”



『お兄ちゃんの髪の毛、絵本の中のドラゴンさんみたい。』


『えっ?!』


『この子、絵本が好きなんですよ。【天地創造】を題材にした絵本があるんですけど、その中にドラゴンが出てくるんです。そのドラゴンが銀色をしているものですから。ごめんなさいね。』



“まさか、そんなことがあるわけないわ!”



 すると近くにやってきたエリーが言った。



「リュウ兄ちゃんが助けてくれたんだよ。リン姉ちゃんもみんなも。」



 そこにプロスト伯爵とシューベルも鎧姿でやってきた。そして伯爵はリンを見るなり抱きしめた。



「リオン!無事で良かった!本当によかった!」



 するとシューベルが言った。



「リュウ殿は?」


「旅に出ちゃった!」



 リンの頬を一筋の涙が流れた。


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