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王都ザルベスまでの旅

 メアリーに挨拶を済ませた僕達はアルベールの街を出てザルベスに向かった。途中の街カナンまでは徒歩で向かい、そこからは馬車に乗るつもりだ。しばらく歩いているがリンに元気がない。



「リンってさ~。強くなりたいんだよね?」


「そうよ。」


「どうして?どうして強くなりたいのさ?」


「どうしてって、それは・・・・・」


「僕は別に強くなりたいなんて思っていなかったんだ。でもね、目の前で苦しんでいる人や困っている人を助けるためには、強さも必要だなって思うようになったんだ。神に祈ることしかできないなんて、もう我慢できないもん。」


「急にどうしたの?そんな話して。」


「さっきからリンが元気ないからさ。何か困っていることがあったら言ってみてよ。」


「別に何でもないわよ。」



 カナンまでは意外と遠い。日が暮れてきたので、川原の近くで野宿することにした。



「リン。剣を教えてよ。約束でしょ。」


「わかったわ。」



 僕はリンに言われて素振りを始めた。どれくらい時間が経ったかわからないが、不思議なことに手に持つ刀から思念が伝わってきた。どうやら刀の使い方、身のこなし方のようだ。僕は頭に浮かんだとおりの動きをするようにした。



「リュウ!凄いじゃない!私、素振りしか教えていないのに、もうそんな動きができるなんて信じられないわ!」


「うん。自分でも不思議なんだよ。この刀から動き方が伝わってくるんだ。僕はただ頭に浮かんだように動いているだけなんだけど。」


「なによそれ!ずるいじゃない!」



 リンが少し元気になったようだ。



「じゃあ、今度は僕が魔法を教えるね。まずは魔力の増やし方からだ。」


「魔力って増やせるの?」


「そうさ。野生動物が魔素を多く取り入れすぎると魔物になるだろ?だから、取り入れすぎないようにじっくりと魔素を取り入れるようにすればいいのさ。」


「そんなことできるの?」


「できるさ。ちょっとこっちに来て。」



 リンが僕の近くに来た。



「後ろを向いて。」


「こ~う?」



 僕はリンの首に手を当てた。



「キャー」


「大丈夫だから!何もしないから!それより体と心を楽にしてくれる?」


「うん。」



 僕は少しずつ魔力をリンに流し込んでいく。


 

「なんか変よ!体がどんどん熱くなってく!」


「気持ち悪くなったり、頭が痛くなったら言って!やめるから。」


「うん。」



 しばらくして、リンが限界になったので終わらせた。



「多分、だいぶ魔力が溜まったと思うよ。ちょっと魔法を使ってみてくれる?」


「わかったわ。」



 リンが手に火を灯すと轟轟と炎が立ち上った。



「す、すごい!凄いわ!」



 しばらくして炎が小さくなった。



「どうしたのかしら?」


「体の中に溜まった魔力がなくなったんだよ。でも、これを何度も繰り返していけば自然と大気中の魔素を吸収できるようになるから。」


「本当?そうしたら、私も魔法が使えるようになる?」


「なるよ。」



 やっといつものリンに戻った。そして翌日早朝、僕達は再びカナンに向けて歩き始めた。途中の森で魔物を討伐しながら進んだので、カナンに到着したのは夕方近くになっていた。



「リン。冒険者ギルドがどこにあるか知ってる?」


「知ってるわ。でも、何するの?」


「素材を売るのさ。」


「でも、空間魔法がばれるわよ。」


「大丈夫さ。この袋を魔法袋ってことにするからね。」



 僕達はギルドに行って今まで討伐した魔物を売ることにした。魔法袋から出すふりをして空間収納からレッドベアとレッドボアを取り出した。



「これ、君達二人で討伐したの?」


「ええ、そうですけど。」



 なぜか、リンはBランク、僕もCランクに昇格した。しかも報酬として金貨10枚もらった。これで当分は生活ができそうだ。



「なんか私まで昇格して申し訳ない気分よ。」


「そんなことないさ。リンの剣術なら当然だと思うよ。」


「そ~お。」



 リンが嬉しそうにはにかんだ。確かにレッドベアもレッドボアも僕が弱体化させていたのは事実だが、リンの剣さばきも見事だと思う。もっとも優れているのは剣にぶれがないことだ。本来力のない女性では、一撃でレッドボアの頭を斬り落とすことなどできない。脂肪で剣が動かなくなるのが普通なのだ。それをリンは簡単にやってのける。相当訓練してきたのだろう。


 宿屋に行って寝る前に、僕は昨日と同じようにリンに魔力を流し込んだ。当面、毎日これを行っていくつもりだ。



「眠く無さそうだね?」


「当たり前じゃない。体中に魔力が溜まっているのよ。眠れるわけないじゃない。」


「魔力を溜めたままで寝ようと思ってたの?」


「そうよ。」


「ダメだよ。魔力を出さなきゃ。」


「そんなことしたら宿屋が大変なことになるでしょ!」


「目や手、足、身体全体に魔力を循環させるんだよ。そうすれば魔力がどんどん消費されるし、身体強化も身に着くじゃないか。」


「そういうことは先に言ってよ。」



 僕はドラゴンとして生を受けた。それに母親から様々な知識を受け継いでいる。だからかもしれないが、自然と魔力の使い方は身についているのだ。でも、リンは普通の人族だ。そのことを忘れていた。



「わかったよ。次からちゃんと説明するよ。」



 僕達は宿屋を出て乗り合い馬車が停まっている場所に向かった。そこには馬車が5台あったが、1台は商人が荷物を積むため貸し切りだ。残りの4台に20人が分乗した。馬車の近くには冒険者らしき人達が10人ほどいて、その中には肌の露出の多い女性もいた。



「馬車ってお尻が痛くなるから苦手なのよね。」


「そうなの?」



 初めて馬車に乗る僕にはよくわからない。それよりも馬車の中の同乗者が気になる。あまり人とかかわっていなかったせいか、狭い空間の中に複数の人がいることに緊張しているようだ。



「お二人は冒険者かな?」



 いきなり商人らしき男性に声をかけられた。戸惑っているとリンが僕の代わりに答えてくれた。



「そうです。姉弟で冒険者をしてるんですよ。」


「仲がいいんだね。」



 僕の髪は銀色だ。それに対してリンの髪は金色だ。どう見ても姉弟には見えないだろう。でも、何故かリンは僕達のことを姉弟と言った。何か意味があるのかもしれない。



「私は王都で商店を経営しているバッカイっていうんだ。こっちは妻のミントとエリー。王都までよろしくね。」



 娘のエリーが僕をじっと見ている。たまらず僕はエリーに話しかけた。



「エリーちゃんは何歳かな?」


「6歳。お兄ちゃんの髪の毛、絵本の中のドラゴンさんみたい。」


「えっ?!」



 するとミントさんが説明してくれた。



「この子、絵本が好きなんですよ。『天地創造』を題材にした絵本があるんですけど、その中にドラゴンが出てくるんです。そのドラゴンが銀色をしているものですから。ごめんなさいね。」



 もしかしたら母さんのことが絵本に書かれているのかもしれない。そう考えると嬉しくなった。



「そのドラゴンさんってどんな感じなのかな?」


「神様と一緒にこの世界を作ったの。神様がお空に帰った後も悪者を退治してまわったの。」


「ふ~ん。凄いドラゴンさんなんだね。」


「うん!私、ドラゴンさん、大好き!」



 僕とエリーの様子をリンが不思議そうに見ていた。どれくらい走っただろうか、突然馬車が停まった。



「何かしら?」



 すると冒険者がやってきた。



「魔物だ!馬車から降りるなよ!」



 馬車の中から外を見るとオーク達がいた。結構な数だ。冒険者達が必死に応戦しているが、すでに数名が倒れている。



「リン!このままじゃまずい!僕、行くから!」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」



 僕は馬車から降り、背中の刀を抜いた。目の前にはオークが7体、冒険者が7人だ。すでに3人は倒れて意識がない。もしかしたら死んでいるかもしれない。後ろからリンもやってきた。



「私も戦うわ!」


「わかった!そっちは任せる!」



 僕とリンはオークの中に飛び込んだ。



グサッ スパッ シュッ

ブヒー

バタン ドタン



 僕とリンは次々とオークを倒していく。冒険者達は後ろに下がってその様子を見ていた。



「ふ~。終わったわね。」


「そうだね。」



 周りを見渡して状況を確認していると冒険者達がやってきた。



「感謝する。君達が来てくれなかったら、俺達は全滅していたかもしれない。本当にありがとう。」


「いいえ、大丈夫ですから。」



 目立ちたくなかった僕はすぐに馬車に戻った。するとしばらくしてリンが戻ってきた。



「リュウ!酷いじゃない!どんどん行っちゃって!」


「ごめん。面倒なのは嫌なんだよ。」


「わかるけどさ~。オークの始末や怪我をした冒険者達の手当だってあるのよ。」


「それでオークの死体はどうしたの?」


「魔法袋を持っている人がいたから、その中に仕舞ったわ。後で報酬の分け前をくれるって!」


「別にいらないよ!」



 僕達の様子を商人の家族が黙って見ていた。



「君達、かなり強いんだね。」


「そんなことないですよ。ハッハッハッ」


「王都に着いたら泊まる宿とか決まっているのかい?」


「いいえ。」


「なら我が家に来るといい。何もないけど、部屋の数だけはたくさんあるんだよ。」



 しばらくして馬車が動き始めた。そしてその後は何もなく王都に到着した。馬車から降りた僕の目の前には、信じられない光景が広がっていた。



「凄い!凄いよ!リン!これが王都なの!」


「そうよ。」


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