刀を手に入れる!
メアリーが急いで階段を上がっていった。しばらくして恰幅のいい男性と一緒に降りてきた。
「俺はここのマスターのギルバードだ。ゴブリンを討伐してきたのはお前達か?」
「はい。そうですけど。」
「詳しい話を聞きたい。俺の部屋に来てくれ。」
僕とリンはギルドマスターの部屋に行った。
「そこに座ってくれ。」
僕とリンがソファーに座るとギルバードが聞いてきた。
「ざっと30体近くいるが、お前達だけで討伐したのか?」
「はい。」
ギルバードは首をかしげながらしばらく考え込んでいた。
「これだけのゴブリンがいたとなると集落があるはずだが、そんな気配はあったか?」
するとリンが答えた。
「集落ならあったわ。リュウと二人で壊滅させたけど。何か問題でもあるの?」
「そうか~。お前達二人で集落を壊滅ね~。」
「もしかして僕達のことを疑ってます?」
「そうじゃないんだ。冒険者になりたてのGランクと、Dランクになりたての者がゴブリンの集落を壊滅させたとなると問題なんだよ。」
「何が問題なんですか?」
「マスターとしてお前達の能力を見極められなかったって話になるじゃないか。————— 仕方ない!リュウとか言ったな。お前は今日からEランクだ。リン!お前はCランクだ。わかったな!」
「ありがとうございます。」
「俺の方が感謝を言うべきだろう。ゴブリンの集落を壊滅させてくれたんだから。」
その後、受付に戻って借りていた剣を返却し、報酬と新しい冒険者カードを受け取った。報酬は二人で金貨17枚と銀貨5枚だった。
「私の方が少なくていいわよ。」
そういってリンは僕に金貨9枚を渡してきた。
「ありがとう。遠慮なくもらっておくよ。旅をするにはお金が必要だからね。」
「旅って、やっぱりこの街には住まないのね。」
「まあね。王都に行ってみようと思うんだ。」
「この前も言ったけど、やめといたほうがいいわよ。」
「ありがと。」
「止めても無駄のようね。いつ行くの?」
「お金ができたから明日には出発するつもりなんだけど。」
「急ね。」
何かリンが考え込んでいるようだ。
「どうかした?」
「私も一緒にいいかな~。」
やっぱり、リンは王都に行きたくない理由が何かあるのかも知れない。リンに何か問題があるのなら協力してあげたい気持ちはあるが、一緒に行くとなると自由な行動がとれなくなりそうだ。僕が悩んでいるとリンが自分のことを話し始めた。
「実は私、王都に住んでたの。いろいろあって家を飛び出してきちゃったんだ~。もう1年経つし、そろそろ帰ろうかな~って思っていたのよ。ダメかな~。」
「飛び出した理由は?」
「・・・・」
僕にも言えないよほどの理由があるのだろう。
「いいよ。なら、明日この街を出るから。」
「わかったわ。」
もううす暗くなっている。僕とリンが宿屋に戻ろうとすると、冒険者ギルドで因縁をつけてきた酔っ払いの冒険者達がやってきた。
「お前達、ゴブリンの集落を壊滅させたんだってな~。たっぷり報酬をもらったんだろ?こっちに来いや。」
細い路地を入って空き地にやって来た。
「早く金を渡しな!」
リンが僕を見た。僕の力の一端を知っているせいか、顔が引きつっている。
「どうするの?リュウ。」
「働かないで朝からお酒を飲んでるのって、もしかしたら他の冒険者達からお金を脅し取ってたりしてるからなのかな~?」
「人聞き悪いな。奪い取ってるわけじゃないさ。くれるって言うからもらってやってるだけだ。」
どうやらこの4人は、常習的に他の冒険者からお金を巻き上げているようだ。
「つまり、あなた方は人の迷惑になる存在ってことですよね?」
「なんだと~!!!」
男達は剣を抜いた。
「お前、GランクがBランクの俺様達に勝てるわけがないだろうが。死にたいのか?」
「別にあなた達を殺しても誰にも文句は言われないと思うけど、僕は人殺しはしたくないんだよね。」
「兄貴!やっちまいましょうぜ!こいつ俺達のことなめきってますよ!」
男達が向かってきた。
『グラビティー』
僕が魔法を唱えると男達は地面に叩きつけられた。
ドタッ
バシッ
ボキッ
「く、く、苦しい!た、助けてくれ~!」
「あなた方は今僕を殺そうとしたんですよ。その僕に助けてくれってそれっておかしくないですか?」
「お、お、俺達が悪かった。許してくれ~。」
リンが心配そうにしている。僕の周りの空気が変わったのを敏感に感じ取ったのだろう。
僕は彼らが二度と剣を持つことができないように両手の骨を砕いた。
ボキッ バキッ バキッ
ギャー
「痛ぇよー!」
「助けてくれー!」
魔法を解除すると全員がその場で転げまわった。中には恐怖のあまり失禁している者もいた。
「もう剣は持てないですよ!今度悪さをしたらその時は容赦しませんから!」
僕とリンはその場を後にした。
「どうして殺さなかったの?」
「命は一つだからね。それに悪さをしなくなればいいだけだし。」
「リュウは優しいのね。」
「別に優しくなんかないさ。」
その後、公衆浴場に寄ってから宿に戻ることにした。夕方の時間ということもあって、公衆浴場には大勢の客がいた。僕が服を脱ぐと周りがざわつき始めた。
「お———!すげえな!兄ちゃん!」
「ええ、まあ。」
「冒険者でもやってるのか?」
「ええ。そうですけど。」
「若いのにその筋肉、兄ちゃん、相当鍛えてるだろ?」
「体質ですよ。」
確かに僕の筋肉は凄いかもしれない。これもドラゴンに生まれ変わったせいなのだろう。それにしても、まさか湯船まであるとは思っていなかった。熱いお湯が気持ちいい。僕はゆったりとお湯につかった後、待ち合わせの場所に行った。待たせてしまったかと心配したが、リンはまだ来ていなかった。
「それにしても平和だな~。」
家族連れで来る人達もいるし、手をつないで仲良さそうに帰っていく若い夫婦もいる。この街に来て思ったが、食べることもできないような人達の姿がない。この世界は思っていたよりかはましなのかもしれない。
「待った~?」
リンが出てきたようだ。
「そんなに待ってないよ。」
「そう?よかった~。私、お風呂長いから物凄く待たせたんじゃないかって心配しちゃった。」
「僕もお風呂は好きだから大丈夫だよ。」
この世界では剣で戦う人がほとんどだ。だとすると、魔法で戦うのは目立ちすぎるかもしれない。やはり明日出発する前に自分の剣を買うことにしよう。
「リン。明日出発する前に武具屋に行きたいんだけど。」
「いいわよ。」
翌日、朝食を済ませた僕達は街の武具屋に向かった。
「急にどうしたの?」
「剣を買おうと思ってさ。」
「リュウには必要ないじゃない。あんなにすごい魔法が使えるんだから。」
「ダメだよ。魔法を使える人は少ないんでしょ?だったら、僕が魔法で戦ったら目立っちゃうじゃないか。僕は目立ちたくないんだよ。」
「変わってるのね。あんなに強いのにそれを隠そうとするなんて。」
「あのさ~。リンは剣士なんだろ?だったら僕に剣の使い方を教えてくれないかな~。」
「いいわよ。その代わり、私にも魔法を教えてくれる?」
「いいけど、魔法は魔力がなければ使えないよ。」
「そっか~。」
基本的に人族は他の種族に比べても魔力量が小さい。だから魔法を使うことが苦手なのだ。だが、魔力量はやり方によっては増やすことも可能なんだけど、人々がそれを知らないだけなのだ。
「いいよ。魔法を使えるようにしてあげるよ。」
「そんなことできるの?」
「まあね。」
「本当?嘘じゃないわよね~?」
「本当さ。僕は嘘はつかないよ。」
話をしながら歩いていると武具屋に着いた。店先にはいろんな剣が並んでいる。長い剣、短い剣、太い剣、細い剣。手に取って見ていると店の主人が声をかけてきた。
「剣を探しているのかい?」
「はい。でも、どれも手にしっくりこなくて。」
「そうかい。兄さんは見る目があるようだな。ちょっと奥に来な。」
店の奥に入っていくと、甲冑や盾、細剣や大剣、大鎌、いろんな武器が並んでいた。そして店の主人が、壁に掛けてあった細長い剣を僕に渡してきた。
「これならどうだい?」
渡された剣は細長くキラキラと光っている。だが、刃が片方にしかついていない。今まで僕が見た剣とは全然違っている。
「どうだい?」
「いい剣ですね。でも他の剣と形が違っているようですけど。」
「これは刀っていうんだ。大陸の東にあるジャポネ王国から伝わってきた一品だ。安くしとくよ。」
「おいくらですか?」
「そうさな~。」
店主はしばらく考えて言った。
「裏に来な。」
僕達が店の裏に行った。すると店主が金属の長い棒を拾いあげた。
「これを斬って見な。」
店主が手にしたのはただの金属ではない。かなり固い金属だ。リンがボソッと言った。
「無理に決まってるじゃない。」
僕は手にした刀を両手で握りしめ、心を落ち着かせて精神を集中させた。人には見えないだろうが、身体からゆらゆらとエネルギーが溢れ出ているのが分かった。
サッ スパッン
店主が持っていた金属の棒が見事に2つに分かれた。
「なるほどな。君はこの刀を持つのにふさわしい様だ。金貨2枚で売ってやろう。」
「本当ですか?」
「ああ、この刀は普通の人間が手にしても木の棒ですら切れないんだ。それを君は完全に使いこなしたんだ。この刀も君のことを主人として認めてくれたんだろうさ。」
「ありがとうございます。」
主人は刀の鞘もつけてくれた。僕はそれを背中に背負うように身に着けて店を出た。それからメアリーさんに挨拶をしに冒険者ギルドに行った。
「こんにちは。リュウ君、その背中の剣はどうしたの?」
「買ったんですよ。剣がないと不便なので。」
「そう。良かったわね。似合ってるわよ。」
「ありがとうございます。実は今日、大事な話があって来たんです。」
「大事な話?何かしら?」
すると横からリンが言った。
「メアリーさん。私とリュウ、今日この街を出るのよ。それであいさつに来たの。メアリーさんにはお世話になったしね。」
「そうなのね~。リンちゃんとリュウ君、この街から出ていくんだ~。寂しいわ~。どこに行くの?」
「王都ザルベスです。」
「王都に行くの?今、王都は大変なようよ。去年、公爵家のアンドリュー様に嫁入りするはずだったリオン様が行方不明になったんで、リオン様の実家の伯爵家は領地を召し上げられたのよ。反乱がおきるんじゃないかって言われてるわ。」
「どうして反乱がおきるんですか?」
「公爵家は貴族派の中心なのよ。伯爵家は王族派の中心よ。このまま王家が黙ってるとは思えないわ。」
なぜかメアリーの話を聞いて、隣にいるリンの顔が暗くなった。
「なら余計に王都に行きたくなりました。」
「どういうこと?リュウ君。」
「平和が一番ですから!」
「えっ?!何言ってるのよ!リュウ!意味分かんないわ!」