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初めての街

 森の中に入ると、様々な野生動物や魔物と遭遇した。野生動物は僕を見て一目散に逃げていくが、魔物はむしろ敵意をむき出しにして向かってくる。



「逃げてくれないかな~。殺生はしたくないんだけどな~。」



 地球で暮らしていた僕にとって、生き物を殺すということにどうしても抵抗があるのだ。それがたとえ魔物であってもだ。だが、こっちに攻撃してくるなら仕方がない。話して通じる相手ではないのだ。



「レッドベアか~。どっかに行ってくれないかな~。」



 レッドベアが鋭い爪で攻撃してきた。どうせ殺すならなるべく苦しめたくはない。



フンッ

ズボッ

バッタン



 力強く拳を向けると、レッドベアの胸に大きな穴が空いて地面に倒れた。



「殺生したなら有効活用しないといけないけど、人の姿だとこの巨体は持ち運べないしな~。」



 仕方がないので魔法で亜空間を作って仕舞うことにした。横たわっているレッドベアに向けて手をかざすと、黒い渦が現れその中にレッドベアの死骸が入っていく。



“でも、魔法って本当に便利だよな~。”



 僕は街まで走って向かった。その途中で何匹かの魔物と遭遇したが、危険性を感じないものはあえて無視した。そして、森を抜けたところでようやく街が見えてきた。


 

“やっと街か~。結構遠かったな~。確か~、ここはペテルグ王国だったよな~。”



 森が近いということもあってか、街の入口には兵士のような男達が立っている。



「身分証を見せろ!」


「身分証って何ですか?」


「お前、身分証を知らないのか?!どこから来たんだ?」


「あの山の向こうからですけど。」


「あの山の向こうって!海じゃないか!」



 なんか話がこじれそうだ。



「よく覚えてないんです。気が付いたら海岸に倒れていて・・・」



 すると、奥から上官らしき兵士が出てきた。



「よくここまで来られたな。入ってもいいぞ!街に入ったら冒険者ギルドか商業ギルドに行って身分証を作ってもらえ。」


「はい。ありがとうございます。」



 すると、他の兵士達が文句を言っていた。



「おい!カール!いいのか?隊長に怒られるぞ!」


「ここには俺とお前しかいないんだ。二人が黙っていればわからんさ。」


「わかったよ。カール、お前って本当にお人よしだよな~。」


「お前だって同じだろ!ビッツ」


「ありがとうございます。」


「ようこそアルベールの街へ。」



 僕は初めて人族の街に入った。僕の知っている街とはだいぶ違う。家が石やレンガではなく木で作られていた。それに、いろんな店があるが、商品が見えるようにドアの外に出してある。僕のいた地球ならあっという間に盗まれてしまうかもしれない。

 


”確か~、人族の世界ではお金を稼がなくちゃいけなかったんだよな~。どうしようかな~。あのカールって人が身分証を作りに行けって言ってたしな~。“



 僕はぶらぶらと街の中を歩き始めた。男性も女性も髪の色が様々だ。緑や金、赤に茶、それに水色もいる。だが、僕のような銀色や黒はいない。時々見かける老人は地球と同じで白髪だった。



“これが異世界か~。”



 服装も僕のいた地球と似ているが少し違う。ズボンやスカートは同じだが、背広を着て歩いている人を見かけないのだ。不思議そうに眺めながらキョロキョロして歩いていると何か固いものにぶつかった。



ゴン



「痛た!」


「ハッハッハッハッ 間抜けね~!」



 声のする方を見ると、腰に剣を下げた少女がいた。おへそが出るほど短い上着に短パンの少女だ。



「あなた、そんなにきれいな顔してるのに結構ドジなのね!」


「ほっといてよ。」



 僕がそのまま行こうとすると、その少女が僕にまとわりついてきた。



「あなた、この街じゃ見かけない顔ね。どこから来たの?」


「・・・・・」



 関わり合いになりたくなかった僕は無視することにした。



「なんで無視してるのよ~。笑ったのは悪かったわよ。話をしようよ。」


「・・・・・」


「私も一人なのよ。ねえ、話そうよ~。」



 もしかしたらこの少女は一人でいて、何か困っているのかもしれない。僕は立ち止って彼女を見た。よく見ると、彼女は金色の髪で青い瞳をしている。前世の若かりし日の僕と同じだ。



「やっと話してくれる気になったのね。私はリンよ。あなたは?」


「僕はリュウ。」


「へ~、変わった名前ね。それでどこに向かってるの?」


「冒険者ギルドだよ。身分証を作るように門兵の人に言われたんだ。」


「あ~、カールでしょ!私も同じこと言われたからさ。冒険者ギルドなら私が案内してあげるわ。」

 


 僕はリンに連れられて冒険者ギルドに向かった。



「それで、リュウはどこから来たの?」



 さっきと同じ質問だ。しょうがないのでカールに話したことと同じ説明をした。



「気付いたら海岸にいて、それまでのことは覚えてないんだ。」


「本当?————まあ、そういうことにしておきましょうか。誰にでも隠しておきたいことはあるでしょうからね。」



 なんか意味深ないい方だ。


 冒険者ギルドに向かって大通りを歩いていると、前から蹄の音が聞こえてきた。



パッカ パッカ パッカ・・・・・



「あぶな~い!!!どけー!どけー!」



 前方から馬が走ってくる。近くにいる人達が大声で叫んでいるが、このままでは通りを歩いている人達に怪我人が出てしまう。僕は魔力を込めて馬を睨んだ。



ヒッヒーン ヒッヒーン ギュルルルル



 勢いよく走っていた馬がゆっくり歩き始め、不思議なことに走ってきた方向へと戻って行った。周りの人達は突然のことで何が起こったのかわからず、ただただ不思議そうにしている。僕は下を向いて急いでその場を離れようとした。するとリンが声をかけてきた。



「ねぇ、リュウ!今のって、あなたの仕業でしょ?どうやったの?」


「何がさ。僕は別に何もしてないよ。」


「本当?」


「本当さ。」


「ふ~ん。ところであなた何者なの?」


「えっ、なんでそんなこと聞くのさ。普通の人間の子どもに決まってるだろ。」


「ふ~ん。まあ、いいわ。ギルドはこっちよ。」



“このリュウって何者なのかしら?普通なら『ただの子ども』とか言うわよね~。ますます興味が出てきたわ。”

 


 リンの案内でしばらく歩いていると冒険者ギルドに着いた。



「ありがとう。ここでいいよ。」


「あなた、お金は持ってるの?登録するのに銀貨3枚必要なのよ。」



 困った。僕はお金を全く持っていない。リンが困っている僕を見てニヤニヤしている。恐らくリンは僕がお金を持っていないことに気付いているのだろう。



「いいわ。私が貸してあげる。一応言っておくけど、ちゃんと返してもらうからね!」


「わかってるよ。ありがとう。」



 冒険者ギルドに入ると入り口の正面に受付があり、そこに数人の女性達がいた。ギルド内にも結構な数の人達がいて、ほとんどの人が腰や背中に剣を下げている。中には杖を持った女性もいた。



「いらっしゃい。リンちゃん。その子は?」


「こんにちは。メアリーさん。彼、登録したいみたいですよ。」


「門兵の人に身分証を作るように言われたんです。」


「わかったわ。なら、冒険者登録しましょ。この紙に必要なことを書いてくれるかな。」



“この子、どこから来たのかしら?銀色の髪に銀色の瞳。初めて見たわ。でも、ちょっとカッコいいかも。”



 受付の女性に紙を渡された。僕はその紙に名前を書いて渡した。



「へ~。リュウ君ていうんだ~。珍しい名前ね。どこから来たの?」


「ごめんなさい。僕、記憶がないんです。気付いたら海岸にいたんで。」


「そうなのね。変なこと聞いちゃったね。ごめんね。じゃあ、この水晶に手を置いてくれるかな。」



“この水晶は何を調べるものなんだろう。下手に手を置いて僕のことがばれたらまずいよな~。”



「この水晶で何を調べるんですか?」


「魔法が使えるかどうかよ。魔力がなければいくら訓練しても使えないからね。」



 するとリンが言ってきた。



「私、魔力があるのよ!すごいでしょ!でも、生活魔法程度しか使えないんだけどね。」


「リンちゃん。あなたは剣士なんだから、別に魔法が使えなくてもいいじゃない。それに火属性なんだからいろいろ便利でしょ。」



 僕は魔力を抑えながら水晶に手を置いた。すると水晶がパッと眩しく光った。



「リュウ君、凄いじゃない!結構な魔力があるわよ。」


「そうなんですか?」


「そうよ。こんなに魔力がある人って珍しいのよ。」



 ホッとした。指輪のお陰かもしれない。どうやら誰にも気づかれていないようだ。今まで当たり前のように魔法を使っていたけど、母さんが言う通り人族で魔法が使える人は少ないのかもしれない。



「因みにさっき火属性とか言ってましたけど、魔法について教えてもらえますか?」



 するとメアリーが少しあきれたように教えてくれた。



「あなた何も知らないのね。魔法には基本属性があるのよ。火・水・風・土・光・闇の6属性ね。それに、どの属性にも当てはまらない無属性なんて言うのもあるわ。でも、魔力がある人でも生活魔法しか使えない人がほとんどなの。それに魔法が使えても、人間はエルフ族や魔族と違って一人1属性の魔法しか使えないのが普通よ。ところでリュウ君の属性は何かしらね?」



 なるほど母さんの言っていたことがようやくわかった。エンシェントドラゴンの子どもである僕はすべての魔法が使える。しかもその威力は人族が使えるレベルではない。そう考えると、人前ではあまり魔法を使わない方がいいかもしれない。



「僕にもわかりません。」



“やっぱりこのリュウって子、普通じゃないわね。これだけの魔力があるのに魔法のことを知らないなんておかしいわ。何か隠してるのかしら。でも、可愛いからいいけどね。”



「ところでリュウ君は何歳なの?」


「ごめんなさい。記憶がないのでわからないんです。」



 このメアリーという女性、結構賢い女性かもしれない。ここで僕が年齢を答えれば、記憶をなくしたことが嘘だとバレてしまう。今までの会話の中でも僕のことを探っていたのかもしれない。


 すると隣にいたリンが言ってきた。



「リュウ!あなた、私と同じぐらいじゃないの?」



 僕はリンの胸を見た。どう見ても平だ。



「そうかな~?でも、僕、そんなに子どもじゃないと思うけどな~。」


「あなた!今、私の胸を見て言ったでしょ!これでも私は15歳なのよ!フン!」



 やはり女性を胸で判断するのは失礼だったかもしれない。でも、他に判断材料がなかったんだから仕方がない。僕はメアリーから冒険者カードを受け取った。



「冒険者についてはリンちゃんに聞いてくれるかな。彼女、こう見えても最速でDランクになった冒険者なのよ。」



 Dランクがどの程度なのかはわからないが、彼女は結構優秀なのかもしれない。冒険者については後でリンに聞くことにしよう。それよりも今はお金を稼がなくちゃ。



「メアリーさん。お金を稼ぐにはどうしたらいいんですか?」


「そうね~。掲示板の依頼を受けるか、魔物の素材を売るかね。リュウ君はまだ冒険者になりたてなんだから、薬草の採取がいいと思うわよ。」


「リュウ!安心しなさい!私が手伝ってあげるから!」


「まあ、リンちゃんは優しいのね。それともリュウ君だからかな?」


「べ、べ、別に私は誰にでも優しいわよ!」



 リンが顔を真っ赤にして言い訳していた。あまり親しくなりすぎるのはよくないかもしれない。



「メアリーさん。薬草ってどんな種類の草なんですか?」


「今回依頼が出ているのはヒール草ね。掲示板に絵が貼ってあるからそれで確認してちょうだい。ヒール草は正門を出て東に行ったところに群生してるわよ。でも、採り過ぎないように注意してね。」


「わかりました。」



 リュウが去った後で、メアリーは念のためにギルドマスターにリュウのことを話しに行ったのだった。


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