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すべての始まり

完結保証作品です。ぜひ楽しんでください。

 中世のヨーロッパのある街に靴磨きの老人がいた。人からはマイク爺さんと呼ばれていた。日々の生活は苦しく、1日1食の食事すらままならない状況だったが、彼はいつもニコニコと笑って生活していた。マイクの唯一の楽しみは、家の近くの孤児院から子ども達の笑い声が聞こえてくることだ。ある日、いつものように路上で靴磨きのお客を待っていると、みすぼらしい服を着た少女が目の前で倒れ込んだ。通行人達は倒れた少女のことを気にも留めずに、急ぎ足で通り過ぎていく。マイクはその日の自分の食事にあてるつもりだったお金でパンと飲み物を買い、倒れた少女に与えたのである。



「お食べ。」


「いいの?」


「ああ、いいんじゃよ。」


「ありがとう。モグモグ モグモグ・・・・・」


「お嬢ちゃん、よほどお腹が空いていたんじゃな。ハッハッハッハッ」


「うん。3日も何も食べてなかったの。」


「父さんや母さんはどうしたんじゃ?」


「お父さんもお母さんも死んじゃった。」


「そうなのか~。可哀そうにな~。ちょっと待ってな。」



 マイクは少女を連れて家の近くの孤児院に行った。



「マザー。ちょっといいかい?」


「あら、どうしたんですか?マイクさん。」


「この子なんじゃが、両親もいないようでな。ここに連れてきたんじゃが。」


「わかりました。ここで面倒を見ますよ。」


「そうかい!よかったの~。ここなら安心じゃ。頑張るんじゃよ。」


「うん。ありがとう。おじいちゃん。」



 マイクは靴磨きだ。当然貯金などあるはずもない。家も狭く、一人で暮らすのがやっとだ。マイクは自分が彼女に何もしてあげられないことに無力さと悔しさを感じた。



“ああ、世の中は何て理不尽なんだ。贅沢三昧の人間達もいれば、食べるのもままならない子ども達もいる。だが、わしには何もできん。わしにできることは神様に祈ることぐらいだ。”



その数日後、靴磨きの老人は誰にも看取られることなく、ひっそりと息を引き取ったのである。




「ここはどこじゃ?わしは死んだのか?」


「そうよ。マイク。あなたは死んだのよ。」



 マイクは辺りを見渡した。周りは真っ白で誰もいない。キョロキョロするがやはり誰もいない。



「あんたは誰じゃ?どこにいるんじゃ?」



 すると眩しい光がマイクの前に現れた。



「ここは死後の世界よ。善人であるあなたは天国にいくべきなんだけど、あなたにお願いがあってここに連れてきたのよ。」


「わしが天国?わしは何にもしておらんし、何もできんかったんじゃ。何かの間違いじゃないかの~。」


「いいえ。マイク。あなたは靴磨きをしながら、困っている人をいつも助けたわよね。誰にでもできることじゃないわ。」


「そうかの~。当たり前のことじゃと思うんじゃがの~。」


「フツフツフッ そうね。善人のあなたにとっては当たり前のことよね。それで私からのお願いなんだけど、私の世界に生まれ変わってほしいの。別に断ってこのまま天国に行っても構わないわ。」



 マイクは考えた。天国に行けばあくせく働くこともなく幸せな日々を送れるだろう。だが、いつも働いていたマイクにとっては天国での生活が退屈な世界に思えたのだ。マイクはどうしようかと悩み始めた。するとその様子を見て光の存在がマイクに言った。



「新たな世界には魔法があるのよ。確かに危険なことも多いけど、自分の努力次第では大勢の人を助けられるわ。どう?」


「魔法?」


「そうよ。魔法でいろんなことができるのよ。こんな風にね。」



 不思議なことにマイクの目の前の景色がどんどん変化していく。真っ白だったはずが、辺り一帯がきれいな花畑に変化した。マイクは驚きすぎて声が出なかった。



「どう?驚いたでしょ?これも魔法のようなものよ。」


「不思議なことがあるもんじゃ。もしかしたら、あなたは神様なのか?」


「フッフッ そうね。人々からはそう呼ばれているわね。でも私は地球の神じゃないわ。オトロムンドと呼ばれる世界の神なのよ。」


「どうして別の世界の神様がわしなんぞに声をかけるんじゃ?」


「地球の神に頼んでおいたのよ。善人が現れたら私に会わせてってね。私の世界を良くするためにね。」


「わしにはそんな力はないと思うがの~。」


「そんなことはないわ。あなたには人を幸せにする力があるのよ。どうかしら?私の世界で暮らしてくれないかしら?そのお礼に、あなたが生きやすいように少しだけプレゼントするわ。」


「プレゼント?」


「そうよ。時期が来たら渡すわね。」


「わしなんぞにプレゼントをくれるなら、そのプレゼントをあの孤児院の子ども達にあげてくれんかの~。」


「フッフッ やはりあなたは・・・・。でも、それはできないのよ。神が直接地上の世界に手出しすることは禁止されてるの。あなたは、なぜ幸せな人と不幸な人がいるのか知ってる?」


「いいや。わからんの~。なぜなんじゃ?」


「人生はそれぞれに与えられた修行なのよ。」


「修行?」


「そうよ。人は操り人形じゃないわ。自分の意志で行動できるでしょ?良い行いも悪い行いもすべて自分の意志なのよ。その行動には責任が伴うの。いい行いができる人は魂が成長している証拠ね。悪い行いをする人は魂が未熟なのよ。」


「なんか難しいの~。わしにはよくわからんがの~。」


「そうね。難しいかもしれないわね。いつかわかるわ。」



 その後、神様からいろいろな話を聞いた。どうやらこの神様が管理する世界には魂が未熟な人達が多くいるらしい。それに魔物や妖精のような存在もいるようだ。幼いころ母親に読んでもらった絵本の世界そのものだ。

 


「わかったよ。そこまで言ってくれるなら、行かないわけにはいかんの~。」


「ありがと。」


「いいんじゃよ。最後にあんたの名前を教えてくれるかの~。」


「私はフィリスよ。オトロムンドのフィリス。よろしくね。」


「フィリス様。綺麗な名前じゃ。」


「ありがと。じゃ、また会いましょ。」



 マイクの姿がだんだん薄くなっていく。そして、完全に消えた。




 マイクが意識を取り戻しゆっくりと目を開けると、目の前には巨大なドラゴンがいた。真っ白な姿をしている。マイクは驚きすぎて大声で叫んだ。



「た、た、助けてくれ~!!!」


「あら、気がついたのね。坊や。」



 ドラゴンは優しく声をかけてきた。



「坊や?」


「何を寝ぼけてるの。リュウ」


「えっ?!」



 マイクは自分の手と足を見た。白色をした爬虫類の手と足だ。



「一体何がどうなってるんじゃ?!」


「何を驚いているの?今日のリュウ、なんか変よ。」



 頭の中が真っ白になった。



“もしかして、わしはドラゴンに生まれ変わったのか?”



 すると頭の中に声が聞こえてきた。



“マイク、いえ今はリュウね。”


“その声はフィリス様なのか?”


“そうよ。”


“ひどいではないか?なぜわしがドラゴンの子どもなんじゃ!”


“この世界のドラゴンは神に匹敵する存在なのよ。人を幸せにしたいというあなたにとって必要な力は全て備えているわ。”


“わしにどうしろというんじゃ?未熟な者達を力でねじ伏せろとでもいうのか!”


“そうね。必要ならばそれも仕方がないわね。でも、あなたも知っている通り、力がなければ神に祈ることしかできないわ。それでもいいの?”



 確かにフィリス様の言う通りだ。前世においては力も金もなかった。だから困っている人を見ても食料を渡すことぐらいしかできなかった。あんな思いはしたくない。



“じゃが、ドラゴンの姿では人々が恐れてしまうんじゃないかの~。”


“それなら大丈夫よ。あなたが転生したドラゴンは普通とは違うの。別格な存在よ。人間に変身することぐらいできるわ。”


“そうなのか~。ならば安心じゃの~。”


“リュウ、それよりもあなたのその話し方の方が問題ね。あなたはまだ子どもなのよ。そんな年寄りのような話し方は変よ。”


“悪かったな!年よりじみていて!“


“いいわ。治してあげるわ。”



 頭の中にリュウとしての記憶が流れ込んできた。どうやら僕は本当にドラゴンに転生したようだ。僕の母さんは人々からエンシェントドラゴンと呼ばれ敬われている存在だ。エンシェントドラゴンは、創造神様がこの世界を創造された太古の時代から存在していて、この世界の平和と安寧をつかさどる存在なのだ。そして、僕はそのエンシェントドラゴンの子どもとして生を受けた。



“何をしたの?”


“あなたの記憶を操作したのよ。これで子どもらしくなったと思うわよ。じゃあ、そろそろ時間のようだから。またね。”



 フィリス様との通信が途絶えた。



「母さん。僕、地上の世界に行ってみたいんだ!」


「ま~、リュウったら、何を言いだすかと思えば、あなたもそんな年になったのね。いいわよ。」


「いいの?」


「いいに決まってるじゃない。地上の世界でいろんなことを学んできなさい。それが、きっとあなたの役に立つから。」


「ありがとう。母さん。」


「でもその前にやっておかなければいけないこともあるわよ。」


「そうよ。あなた魔法を使ったこともないでしょ?それに、地上世界のことも少しは勉強したおかないとね。」


「うん。わかったよ。」



 それから僕は朝から晩まで魔法の訓練をした。



「リュウ!あなた少しは加減を覚えなさい。私が結界を張っているからいいけど、そのまま魔法を使ったら地上がとんでもないことになるわよ。」


「うん。」



 手加減と言われてもなかなか難しい。体の内側から溢れ出るほどの魔力が邪魔をして手加減がうまくできないのだ。見るに見かねた母さんが魔法で銀色の指輪を作り出した。



「しょうがないわね~。この指輪をはめてごらんなさい。」



 僕は母さんからもらった指輪をはめて魔法を放ってみた。すると先ほどより威力が落ちているが、まだまだそれでも強い。



「おかしいわね~。なら、これも全部嵌めてみなさい。」



 指輪を5個つけてやっと威力を抑えることができた。



「リュウ。あなたに言っておくわね。その指輪はあなたの魔力を抑える効果があるの。だから、普段は必ずつけるようにしておくのよ。」


「ありがとう。母さん。」



 僕は上空へと舞い上がり、自分の住んでいる高い山を下に下って行った。どれほど下っただろうか、下に草原が見えてきた。ところどころに畑のような場所も見える。そして街が見えてきた。人々が空を見上げて僕を見ている。



“そろそろ帰ってきなさい。”


“はい。”



 頭の中に母の声が響いた。僕は空高く舞い上がって下ってきた山をどんどんと登っていく。



「ただいま。母さん。」


「下の世界はどうだったの?」


「うん。畑や街があったよ。みんながじっと僕を見てた。」


「そう。彼らは竜人族よ。」


「竜人族?」


「そうよ。私の子ども達なのよ。」


「え~。僕以外にも子どもが沢山いるんだね。」


「違うわ。私の力を受け継いでいる子どもはあなただけよ。リュウ。」


「そうなの?」


「そうよ。後でちゃんと教えてあげるわ。それよりも地上で暮らすならその姿ではだめね。人間の姿にならないといけないわ。魔力を込めて人間になるように念じてごらんなさい。」


「うん。」



 僕は必死に魔力を込めて念じてみた。だが、何の変化も見られない。何かが違っているのかもしれない。



「まあまあ、そんなに魔力があるのにできないの?こっちを見てなさい。」



 母さんの身体が光り始めた。どんどん体が小さくなっていく。そして、銀髪の美女に変化した。その姿は神のごとく美しく、思わず僕も見とれてしまった。



「どうしたの?リュウ。」


「母さんがきれいで驚いちゃったんだよ。」


「ありがとう。」



 母さんが僕の頭をなでてきた。母さんは銀色の髪をしている。それに、透き通るように肌が白い。瞳の色も地球では見たことのない銀色だ。もしかしたら、僕が想像した姿が適していなかったのかもしれない。そう思って、もう一度挑戦してみた。すると、僕の身体が光り始めた。



「あら、できたじゃない。」



 人間の姿になった母さんが魔法で鏡を作り出した。その鏡に映った僕の姿は、母さんと同じ銀髪で銀色の瞳をしていた。物凄い美少年だ。不思議と二人とも真っ白の服を着ている。恐らく魔力が具現化したのだろう。



「地上に降りる前に地上世界のことを説明しておくわね。」



 母さんの話によると、この世界はオトロムンドと呼ばれているようだ。地球と同じ球体で、6割が海で4割が陸地だ。小さな島はあるが、大きな大陸は5つほどらしい。人族の暮らす大陸が1つ、エルフ族とドワーフ族が暮らす大陸が1つ、獣人族が暮らす大陸が1つ、魔族が暮らす大陸が1つ、竜人族が暮らす大陸が1つあるようだ。



「人族が暮らす大陸が一番大きいのよ。そこにはいくつも国があるの。その国同士が争ってばかりいるのよね。」


「どうしてなの?」


「人間って未熟な存在なのよ。地位や名誉、権力、それにお金に執着する者達が沢山いるの。」



 地球と同じだ。地球でもいつも争いごとが起きていた。



「魔族ってどんな種族なの?」


「そうね~。簡単に言うと魔素を多く取り込み過ぎた者達ね。魔物から進化した者達もいれば、魔人のように人族から進化した者達、ダークエルフのようにエルフ族から進化した者達もいるわ。他にも堕天使族やトロール族のように神界にいたものが罪を犯して追放された種族もいるわね。後は、世界の暗黒部分から生まれる悪魔族なんて言うのもいるのよ。」


「竜人族って僕達の仲間なの?」


「仲間というよりも眷属ね。」


「眷属?」


「そうよ。さっき私の子ども達って言ったでしょ?この世界の生き物は創造神様によって生み出された者達、最高神のフィリスが生み出した者達、そしてエンシェントドラゴンである私が生み出した者達がいるの。」


「つまり、母さんが生み出した者達は僕達の眷属になるんだね。」


「そうよ。ただ、たまに創造神様やフィリスが生み出した者達が眷属になることもあるけどね。」



 母さんの話を聞いていて早く地上世界に行ってみたくなった。考えてみれば前世では旅なんかしたことがない。毎日を生き延びることで精一杯だったのだから。


 それから数日の間は、母さんに地上世界の話を聞いたり魔法の訓練をしたりして過ごした。そしていよいよ地上に降り立つ日がやってきた。



「リュウ。地上に行く前にもう一度言っておくわね。あなたはこの私の子どもなの。本気で魔法を使ったりしたらダメよ。それから必要なとき以外は指輪を外さないこと。いいわね。大変なことになるわ。十分注意するのよ。」


「わかってるよ。母さん。じゃあ、行ってくるね。」


「しっかりね。」



 僕は人間の姿になって上空に舞い上がり人族の暮らす大陸に向かった。人族の大陸は僕達の住処のある竜人族の大陸からかなり離れている。途中、小さな島で休んで再び人族の大陸に向かった。



“あれか!”



 僕は海岸に降り立った。そこから、頭の中に浮かんでくる地図を確認しながら街に向かって歩き始めた。


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