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1話 竜殺しの黒鎧

「あー、もー、いつになったら着くのー!」


 平野を超え、川を渡り、沼を避け、山を登ってる、最中。

 かなりいい仕事だから就いたのは良いとして、こんなにも長距離の移動はあんまり経験がない。そもそも荷物持ちだけの仕事だけど、こんなにハードで強行軍になるとは思ってない。腰に提げていた水筒で喉を潤しながら、文句の一つや二つを吐き出し、前に進んでいる黒鎧の方を向く。


「ねえー!やすもおー!」


 そう言うとぴたりと足を止める黒鎧。

 少しだけ辺りを見回してから山道の横、落ち着けそうなところを見つけると、そちらの方を指差すので指をぱちりと鳴らして、足取り軽くその場所へ。


「あー……しんど……いつになったら目的地なのさあ!」

「……そろ、そろ」


 男性とも女性とも取れないくぐもった声を発する黒鎧。別に腰を下ろすわけではないが、背中に背負っていた斧だけ下ろして辺りを見回し続けている。こんな人が『竜殺し』で有名な黒鎧って本当か?道中もそこまで強い所はないし、結構魔物にボコられてる所が多かった。


「荷物持ちの楽な仕事だと思ったらくっそしんどいし、報酬上乗せしてくれんと割あわんわー!」

「……わか、った……」


 案外あっさりと了承したみたい。


「それにしても、今時悪さするドラゴンなんてそうそういないし、どうせ異種ワイバーンくらいで騒ぎすぎ……」


 体を放り出し、空を見上げて悪態を付いているところ、大きな影が目の前を過ぎていく。大きさ的に、なかなかのもので……。


「うっわ、あれじゃん、ちょっと、ちょっと!」


 慌ててバッグの中から迷彩用の上着を羽織り、身を屈める。荷物持ちって事でとにかく見つからず、邪魔にならないようにするのが仕事でもあるので、その辺は抜かりなく。


「……で、どうするん……めっちゃ上だけど」


 同じように頭上を通り過ぎたドラゴン……ぽい何か。まだ頭上を旋回してどこに留まろうか、と言った状態なのでその様子を見ながら、合わせて取り出した紙と炭でスケッチしていく。こういうのは情報としても売れるので儲けれるときに儲けとかないと勿体ない。


「……隠れて、いろ……」


 そう言うと黒鎧が足元にあった手ごろな石をむんずと掴み、何かを呟いてから思い切り投擲。丁度旋回した所、頭部に当たったのか、軽く鳴き声が聞こえると共に、その場で滞空したうえでこっちを見てくる。


「ばかばかばか……!」


 迷彩を被ったままいそいそと黒鎧から離れて近くの物陰に隠れる。絶対的な捕食者がいるおかげで付近に危なそうな魔物やら動物はいないので、隠れていればとりあえず死にはしない。余波で死ぬかもしれないと思ったので自前のナイフで少しでも地面を掘って身を隠せるように努力しつつ成り行きを見守る。






「あー、あれ……世の中には触れちゃいけないって言うか、知らない世界があるんだなーって」


 酒場のカウンターで仕事の話をした時の事を思い出す。荷物持ちでの仕事、危険な相手は全部任せて雑用係と言うだけではあるのだが、それでも過酷な旅ではあった。そもそも意思疎通が最低限の事しかないのも大変だった。


「ありゃ中身はオーガ系だろうね、口下手で怪力、並みの攻撃じゃやられないし、ドラゴンに引けを取らないってのもバケモンだよ」


 ジョッキからエールを流し込みながら、この間の事を思い出す。心底、ついていった人物が敵じゃなくてよかったとも思えるし、あまりにも人とは思えない戦いを見て、道中散々悪態を付いていたことを後悔している。


「ドラゴンを素手で引き裂いたとか、聞いたけどマジか?」

「俺が聞いた話じゃ、片腕でねじ伏せて脳みそを抉ったって」

「あー、近くも遠くもないねえ、相手の大きさもそうだったけど、膂力ってのがえぐかったのは確かだね」


 持っていたジョッキを揺らしながらこの間の事を思い出しながら話を続ける。


「普通、デカいモンスターって正面衝突だけは避けろってのが一般的だけど……上から突っ込んできたのを両手を抑えつけて、そのまま地面にどかん、よ」

「でかいって、そのドラゴンの大きさはどれくらいなんだよ」

「……この酒場1件はまるまるあるね」


 縦横見ると大体30m×30mくらいの大きさの酒場、それを聞いたのはごくりと喉を鳴らす。ドラゴンとしては比較的普通よりではあるが、それでもかなりの物ではある。


「店1件突っ込んできてそのまま上にのしかかってきても潰れないし、尻尾での思い切り振った攻撃も耐えるし……見てて面白いというか怖くなったわ」

「……バケモンだな」

「竜殺しって言われる理由も分かったよ、ドラゴン程度じゃ止まらんし、ドラゴン程度はさくっとばらしてるし、正直怖い場面に遭遇したよ…命があっただけマシだけど」

「でも、たんまりもらったんだろ?」

「そりゃもう」


 懐から金貨を取り出しちらちらと見せながら指で弾いて上に。くるくると回り、照明の光を反射させながら落ちてくるのをキャッチしてにんまりと。


「命掛かってただけ、やっぱ色付けてくれた……」


 そんな事を言っていれば、がしゃ、がしゃ、と金属の音が響き、荷物持ちの後ろに何かが迫る。対面にいたものはそれが何か分かるのだが、足跡だけでは普通の金属鎧を付けただけの人だ。


「うお……確かに黒鎧様はでかいな」

「ん、あ、ちょっと契約は終わったじゃん?」


 また何か、と言う感じにじっと後ろに立っていた黒鎧の方を見て、もうこりごりと言う感じの顔を浮かべる。


「……上乗せ、分……」


 テーブルまで高さがあるので屈みにくいのか、手元に追加の金貨が落ちてくる。


「いや、十分貰ったじゃん」

「……約束……」


 そう言うとまたがしゃがしゃと金属音をさせて去っていく。


「律儀なのか、気にするのか……よくわからん!」

「気さくな竜殺しってなかなか物騒な人じゃねえか」


 そんな笑い話をしながら、去っていく黒鎧を眺める。


「……ただただ人見知りなだけじゃね?」


 竜殺しの黒鎧、約束を守る律儀な人物、そんな話が流れ始める。

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