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その後

 王宮から帰ってたエミリアを待ち構えていたのは、クロム銀行の職員だった。

「おかえりなさいませ。早速ですがご指示を。」

「第四の人物が選ばれたわ。既定通り支払いをお願い。サプライズでの発表があったから王子に売り上げ金の5%を払うわ。すぐでなくていいからまた後日考えましょう。」

「承知しました。成就、お祝い申し上げます。」

「ありがとう。これからもよろしくね。」

エミリアはマイラにハーブティーを入れてもらって、やっとホッと一息ついた。あとは父親たち次第だ。今までの疲れが出たのか、いつもより早く寝てしまった。


 翌朝スッキリと起きたエミリアは、準備ができ次第バケーションハウスへ向かった。鍵を開けて、窓を開けて、一緒に来たハウス担当者と蔵書室の掃除を始めた。よく晴れた日で、部屋に吹き込む風が気持ちよかった。エミリアは窓を閉めて談話室に向かった。


 談話室には『学びの時間』が始まった日に集まった面々がいた。ソファに皆が座ると、紅茶とお菓子が出された。あの日皆で食べたお菓子だった。ヘイデンの姿だけがなかった。


 ジョルジオがあの時と同じように皆の前に立った。

「無事、婚約は白紙になった。おめでとう!」

ワッと歓声があがり、近くにいた人とハグをしてお互いの健闘を讃えあった。


「実は、全員に新しい婚約者がいる。事後報告ですまない。念のため再婚約とならないように昨夜書類を処理してもらった。クラウディアとヘイデン、カミーユとエミリア、モニークとクリフの組み合わせで婚約が結ばれている。そのままでも良いし、解消しても構わない。ただ、王子の件が問題なくなるまではそのままにしておいてほしい。」

マイクが続いた。

「王子対策なだけだから、釣書を見たり他の相手と交流したりするのは自由だ。」

子どもたちは「えーっ」「さがすわー!」「ヘイデンは?」などと騒ついていた。エミリアがカミーユを見ると優しく微笑んでいて、恥ずかしくなって目を逸らした。


「いやはや、昨日は大変だった。」

ユーリが話し始めた。

「王妃はヒステリックに叫ぶし、ルイーズに襲い掛かるし、ホント恐ろしかったよ。王はあの姿を見てひどく怯えていた。初めて見たのかな。でもやっぱり1番の驚きは、ルイーズが平民だと王妃が知っていたことだ。やっぱり、ヘンリーたちの事を調べてたんだよ。あとヘイデンの顔を見てなんでヘンリーがいるんだ、って言ってたのも気になったな。」

クリフがボソッと言った。

「ルイーズが平民って、まさか詐欺?」

「そう思うよな?でも、ヘイデンはルイーズが平民だと知っていたんだ。遡ればマックオニールの血筋、と温情をかけたのが仇になった。調子に乗ってマックオニールを名乗るし、屋敷の物を売るし。あんなに怒っているヘイデンは初めてだったよ。突き抜けて怒ると黙るんだな、ヘイデンは。」


「色々なところでマックオニールを名乗ったのは詐欺だが、何か利益を得たワケではないから罪には問えないだろう。それよりも、屋敷にあった物を売っていた方が問題だ。証拠もあるし証人もいる。調査で、ルイーズの金払いが良い、って上がっていただろう?」

エミリアはハッとして言った。

「あの時の箱!」

「そう。あの箱だ。ヘイデンが両親から受け継いだ大切な物を預けに来た。中には買い戻した物もあったようだが、あえてそのままにしたものもあって、盗品の販売ルートをいくつか潰したらしいよ。」


 クリフがジョルジオに聞いた。

「ヘイデンはどうなるの?」

「ヘイデンは今回大活躍だったんだぞ。」

一晩のうちに婚約の白紙化と新たな婚約の許可を処理できたのは、王宮で暗躍していたヘイデンのお陰だった。王子が第四の人物を選んだ場合、他の候補者たちとの婚約を白紙にし、新しい婚約者を自由に選べる権利をくれれば慰謝料は要らない、と事前に王のサインをもらっていたのだ。


「ルイーズに騙されているフリをしてヘイデンは色々な店に連れて行った。そこで男性を勘違いさせる『プロ』の女性たちの姿を見せた。身なりを整えてやり、マナーも教えてから王子に会わせた。王子の好みの見た目と所作、もう後は分かるだろう?」

ジョルジオは紅茶を飲んだ。


「それにしても、激昂した王妃を見てヘイデンが叫んだ時は肝が冷えた。今更思い出すなんて。」

「ヘイデンは大丈夫なのですか?」

「今は心の治療を受けながら、事件の捜査に協力している。正直なところ、王妃を罰するのは難しいかもしれないけどね。」


「それに、あの王妃に怯えた王は、治療の名目で王妃を病院へ送ると決めた。もう表舞台には戻さないと思うよ。」

ユーリが説明すると、マイクが手を挙げて言った。

「うちの病院で引き取るよ。」

以前クリフが寝不足で元気が無くなったことがショックだったマイクは、医者を育てようと学校を作った。各国の医療に関する文献や民間療法に至るまで様々な情報を集めた。それらを活かして王妃を保護しつつ調べるらしい。

「ヘンリーの事件の真相が分かるかもしれないし、他の事件も調べたい。あと、王妃からの被害にあった人たちのケアもするよ。」

皆は頷きながら聞いていた。


「ルーメント王子はどうなるのですか?」

クラウディアが聞いた。

「まだ王子のままだけど、王にはさせない。実は、共和制になりそうなんだ。王子は過半数以上の貴族家が揃った場で平民のルイーズを選ぶと宣言してしまったから、王族規範に則って王位継承権を失ってしまった。元々資質に難ありだったしね。王にまた誰か嫁がせても可哀想だし、無理に王政を維持するよりは、という意見が出て、まあ、これからしばらく話し合いだね。」

そう言って、ジョルジオはお菓子を口に放り込んだ。


「マーガレット女史は来週からここに戻ってくれることになった。君たちはこれからどうする?」

クラウディアが答えた。

「私は学校に戻りたいです。経営や他国について学びたいのです。心理学や医学にも興味があります。」

「向学心に燃えていて素晴らしいね。モニークは?」

「私は服飾やデザインを学ぶ学校を作って、その過程で様々な情報が得たいわ。快適なのにお洒落な服が作りたいの。」

「俺は数学を極めて、数学の大会を開きたい。富得賭けと関連づけても良いな。」

「モニークは学校、カミーユは大会か、楽しみだな。クリフは?」

「僕は世界中を旅してもっと絵を描きたい。」

「クリフが世界を見て何を描くか今から楽しみだな。エミリアは?」

「私はジョパニンへ行ってみたい。本場の富得賭けができたら嬉しいな。」

「本場の富得賭けか、面白そうだな。これからも富得賭けは続けるのか?」

「もちろん。私がいなくなっても何十年と続く、毎年恒例のお祭りみたいにしたいの。」


 翌日、王子が訪ねて来て婚約をと騒いでいたようだが、騎士の中でも体格の良い人に丁重に帰ってもらって以来、サプライズ代を払い忘れていたにもかかわらず、二度と訪ねてはこなかった。


 穏やかな日々を満喫していたエミリアは、カミーユから「馬を見に行かない?」と連絡をもらった。エミリアが待ち合わせ場所に行くと、カミーユは馬の世話をしていて、エミリアを見つけると駆け寄ってきた。エミリアは慌てた。

「遅くなっちゃってごめん。」

「全然。俺が早過ぎたんだ。今片付けてくるから待ってて。」


 二人で走る馬を眺めていると、カミーユは馬を見たまま話し始めた。

「俺が、さらうって言った話、覚えてる?」

エミリアはカミーユを見た。

「もちろん!ずっと心の支えだったよ。嬉しかったし、感謝もしてる。あの恐怖がぶり返した時、いつも思い出して、大丈夫、カミーユがさらってくれる、って考えてた。」

カミーユは照れたように笑った。

「その、今はさ、さらう必要がなくなったわけだけど。」

「ふふっ、そうね。最上の結果だわ。」

カミーユはエミリアを見た。

「俺、エミリアが好きだ。」

「えっ。」

カミーユはエミリアの手を取った。

「だから、せっかくの婚約、解消したくない。離れたくない。そばに居たい。他の人を探してほしくない。あと、ジョパニンへ行くエミリアを見送るなんて辛すぎる。その、俺との結婚、考えてほしい。」

「カミーユ・・・」

「俺さ、綺麗な景色を見た時、エミリアと一緒に見たいなって思う。美味しいもの食べた時はエミリアにも食べさせたいなって思う。俺じゃない人とエミリアが、なんて嫌なんだ。」

「私、自分の部屋で虹を見た時、同じ気持ちになったよ。」

「え?」

「カミーユと見たいなって。これがそういう気持ちなんだったら、私もカミーユが好き。うん。ずっと一緒にいたい。」

二人は手を繋いだままお互いだけを見つめていた。徐々に二人の距離が近づいていった。


「たいっへんもうしわけございません!お嬢様、ジョルジオ様がお呼びですー!」

驚いた二人は慌てて離れた。エミリアは笑ってマイラに合図をした。そして振り返ってカミーユの頬にちゅっと音を立てた。

「カミーユも行きましょう。」

エミリアはカミーユの手を引っ張った。

「あぁぁぁもう幸せ過ぎる。ホント敵わないな。」


 その後ジョルジオから条件付きで許可をもらった二人は、一緒にジョパニンへ留学した。2年学んで王都に戻り、さらに1年の婚約期間を経て、カミーユがクロムバンカーに婿入りした。婚約期に入ってからはさらに仲睦まじく、結婚後すぐ子どもにも恵まれた。長女が6歳になるのを待ってバケーションハウスでの『学びの時間』へ参加した。


 その『学びの時間』にはクラウディアとヘイデンの子どもたちも参加した。ヘイデンの治療を支えたクラウディアは、ヘイデンに愛を告白した。ヘイデンは王宮で過ごしていた頃に思いを諦めていた反動からか、クラウディアの告白に涙を流して喜び、その瞬間から溺愛が始まった。半年後ヘイデンは伯爵位を持ったままスペーシアに婿入り。息子の一人にマックオニールを継いでほしいようだが、これからどうなるかはまだ分からない。


 モニークとクリフは婚約を解消してそれぞれの道を歩んだ。クリフは世界中を旅して、各地で多くの絵を描いた。マイクは美術館を建て、そのほとんどを展示している。『学びの時間』に合わせて帰国して、絵画の先生をしてくれる予定だ。

 モニークはアタナシアを継ぐことになり、何度かお見合いをした。その中に王立学園の同窓生がいて、

「実は学生時代から好きだったんです!」

と、熱烈なアプローチに翻弄されるうち、気づいたら結婚していた。やり手ってことよね、とモニークは相手に満足している。


 ジョルジオ、マイク、ユーリの3人はヘンリー夫妻とジュリエッタの墓の前にいた。近況を報告するうち、なぜエミリアはヘイデンを「おにさま」と呼ぶのか、という話になった。

「『マックオニール』のおにだよ。お兄さまぽいのに家の名をよんでるのが良いって決まったんだ。まだエミリアが小さくて発音できなかったのがそもそもだけど。」

「へぇー。ヘイデンはエミリアと、とかなかったの?」

「ヘイデンは大人っぽい人が好きなんだよ。クラウディアが好きなタイプピッタリ。ホントうまくいってよかったよ。」その時一瞬強い風が吹いた。エミリアが植えた白い花の咲く木から、小さな白い花がいくつか青い空へと舞った。





  



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! エミリアと仲間と親と周りの人たちの協力で困難をのりこえることが出来て、読んででとてもスカッとしました。 "富得賭け"という、私がよく知らないテーマが入っていたことで、興味…
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