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賭け事の始まり

 エミリア・クロムバンカーです。よろしくお願いします。私が今興味を持っているのはジョパニンという東方の国です。面積はこの王国より小さいですが、山脈や河川は多く、起伏に富んだ地形が織りなす自然環境が魅力の国です。季節ごとの変化がハッキリしていて4種類あります。四季といいます。各季節、異なった魅力があるので、全部の季節の景色を観たい観光客が多いそうです。


 私が一番興味深かったのは「富得賭け(とみえがけ)」です。各季節に行われる賭け事で、毎回決まったテーマで行われています。テーマに合わせて設定された条件でお金を賭け、条件と合うと当選金がもらえます。


 最初の季節は春です。綺麗な白い花が咲く木があって、それを愛でながら美味しいものを飲んだり食べたりします。この季節の富得賭けは『何月何日に花が咲き始めるか』です。一つの木に白い花がいくつも咲くので、その年決められた木の、最初の花が咲いた日を当てます。正解した人は決まった金額がもらえます。


 次の季節は夏です。夏は大嵐の日を当てます。ジョパニンでは夏から秋にかけて大嵐が起きます。決まった月の何日に大嵐が起きるか当てます。選んだ六日間のうち何回当たったかによって金額が変わります。


 秋という季節になったら神事があります。収穫を祝って、ジョパニンが信仰している神様に感謝を捧げます。ジョパニンの主食は米です。どんなおかずの時もこの米を炊いて一緒に食べるそうです。あまり詳しく調べられなかったので、本を買って欲しいです。


 今回は、ある決まった範囲で収穫できた米の量を当てます。ピッタリ当たった場合と誤差が少なかった場合に決まった金額がもらえます。ピッタリ当たった場合が1年を通して一番高額で、賞金をもらいに行く場合は「別室へどうぞ。」と言われて、特別な部屋に案内されます。私も行ってみたいです。


 冬という季節は、とても寒いそうです。雪というふわふわに凍った水が降るそうです。とても美しい景色になるそうです。この季節の富得賭けは『初雪が降る日』を当てます。その年選ばれた街に、初めて雪が降る日を当てます。当たった人は当選金と干支の置物をもらえます。干支というのは13種類の動物が順番にその年の守護となるものだそうです。その年の干支はかわいい絵になったり、人形になったり、置物になったりするそうです。


 ジョパニンはこの王国にある物語にも出てくることがあります。干支や富得賭け、豊かな自然に関することが多いです。私が一番好きだったのは、13番目の干支の猫です。ジョパニンには三毛猫と呼ばれる猫がいるそうです。この王国の猫は単色が多いので見てみたいです。これで終わります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 エミリアの報告を受けて、『学び』の一環として実際に富得賭けを開催してみることになった。クロムバンカー傘下のクロム銀行の協力の下、まずは小さな規模のものから始めることになった。エミリアの財産から出資することになり、あまり規模を大きくできなかったのだ。


 今回の賭けのテーマはエミリアの好きな猫に決まった。同じ種類の猫を集めて、どの猫が一番早く餌に辿り着くか予想してもらう。3種類の猫を集めることができたので3レース開催することになった。


 クロムバンカーが管理している王都の公園で開催することになった。この王国では賭け事は禁止されてはいなかったが、お金に関心が高い王には開催を知らせておこうと、王に開催許可を願った。何が逆鱗に触れて怒り出すか分からない王妃には内緒にしてもらうため、王に売上の2%を納めることにした。王宮に知られないように銀行で預かることになり、貯まった金額を王に囁きに行くことをジョルジオは面倒くさがったが、その二点以外は何の問題もなく許可が下り、開催を待つばかりになった。


 賭け事に参加できる人はジョルジオの商会のお客さまのみとした。ただ、王妃から苦情がきた場合、賭けはご破産となり、掛け金が全て没収さる。怒鳴り込まれるならまだしも、何か壊されたり、怪我人が出たりする可能性もあるため、その資金と危機回避を知らしめるためだ。王妃の苛烈さを知っている人も多かったようで、王宮関係者には誰も伝えなかった。エミリアは貴族はもちろんの事、王妃の気質が平民にも知れ渡っていることに恐怖を感じた。自分も、仲良しのクラウディアとモニークも、その王妃の義理の娘になる可能性があるのだ。


 大きな宣伝はしなかったが、参加希望者は意外と多かった。当たった場合は、当日現場にいなくても銀行口座に振り込んでもらえるので、1レースだけ、と気軽に賭けてくれる人が多かったようだ。賭け事は銀行口座と紐づいているため、賭け事用に新しく口座を開設する人もいた。想像以上に開設されたので、ジョルジオが育てていた侍女見習いに手伝ってもらった。貴族にも平民にも同じ丁寧さで接する彼女たちの評判は高かった。会場の警備に騎士見習いも駆り出され、その勇壮さに会場の熱気も高まった。


 猫のレースは、登場した猫の可愛さも相まって大好評だった。周りには簡易商店を建て、モニーク提案の猫のぬいぐるみや猫がモチーフの小物、クラウディア考案の片手だけで持って食べられる片手飯などを販売した。こちらも好評で、2人とも資金を増やす結果となった。

 

 エミリアはとにかく猫まみれな1日に大満足だった。資金も増え、次はもう少し大きい規模のものが開催できそうだった。売上の2%をもらった王もご機嫌で、どんどん開催するように言ってきた。


 エミリアたち6人は様々な富得賭けを開催した。数学が得意なヘイデンとカミーユが計算で当選金が魅力的になるようにしてくれたり、絵を描くのが得意なクリフがポスターを描いて宣伝を盛り上げたりしてくれた。富得賭けを開催する度に参加者が増え認知度も上がっていった。『あの人の耳には入れるな』を合言葉に『クロム銀行の富得賭け』は貴族にも平民にも浸透していった。


 ところが、どこからか知られてしまい王宮の者も富得賭けに参加するようになっていた。1、2度王妃の耳にも入ったらしいが、苦情は来ず、開催することができた。王妃は平民も参加しているのが気に入らなかったようで、「なぜ下々の者と同じ物を私が楽しむと思ったのか!」と怒鳴りつける声が聞こえた、と王宮で噂になった。血塗れで部屋から出てきた側仕えが目撃されて以降、だれも王妃の耳には入れなくなったようだった。


 側仕え血塗れ事件の後、美術館からの依頼がきた。絵のコンクールの人気投票を富得賭けでしたいとのことだった。絵の専門家の評価とは別に、自分が一番気に入った絵に投票をする。1番投票が多かった作者は賞金が、その作者に投票した人は当選金がもらえる仕組みだ。不正をしようとした人もいたが情報を全て集めることは叶わず、不正は無駄金を使うだけと淘汰されていった。コンクールでは専門家の評価とは別の作品が1番になることもあり、どちらに選ばれるのが良いのか悩みつつも、賞金を手にして喜んでいた。美術館の持ち主は、普段から来てくれる人が増えたと喜んでいた。


 規模が大きくなり、より多くの人が集まるようになると、開催場所の周りにそれまでとは違う販売業者が集まって揉め事が増えた。場所取りが主な揉め事だが、移動用ピアノなどで演奏してお金を稼ぐ者も現れ混迷を極めた。安全に開催できるように入場規制をしたり、ルールを増やしたり、他の商会と交渉したり、エミリアたちは実に様々な体験をすることとなった。



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