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「たべものシチュー」 高柳代理

 頼んでいたルームサービスがやっと来た。扉を叩くので、開けてやって、それを中に入れてもらう。ちょうどシチューが食べたい気分だった。よくあるホテル的な、小さいテーブルにそれを置くと、湯気が上がっていてとても熱い。これが冷めてしまうとかなしくなるので、猫舌に苦しみながらも気が付いた頃には最後の一口が惜しい。


 蓮はわけあって我が家を離れ、このホテルを一晩借りることになっていた。なぜそうしなければならないか、漠然と「仕事のため」という文字が頭に浮かんでいるが、はっきりとは思い出せない。今日はハードだったので、それだけ疲れているということのだろう。それがどのように「ハード」だったのかまるでわからないくらいに疲弊しているが。


 とにかく、食べ終わった食器をルームサービスに返させて、今日は早々に眠って明日に備えなくてはならない。歯を磨いている間にそれは来た。見るも無残なシチュープレートを無欲げなホテルマンに差し渡すと、白衣を脱ぎ、親しみ深い寝間着に着替えるつもりだったが、あまりの疲れでそれを脱ぐこともなく広いベッドに倒れ込んでしまった。このホテルにはなんでもある。求めるものはすべてあって、しかも薄っぺらい蓮の財布にも、ママのキスのように優しい。だがこの親しみやすさにはどうもむかつく、懐かしいものがあた。が、睡魔の敗者はそんなことを気に留めたりしない。きっちり二つ並んだベッドに横たえて、耳元でシーツの擦れる音に揺れている。


 ところで、なんとなくこのベッド同士の隙間に手や足を挟み込んで遊んでいたら、うまい具合にはまり込んで抜け出せなくなってしまった。みっともないし、苦しいし、早く出なければと思えば思うほど、体は奥へ進んで、もう普通の人間では入りきらないような隙間に入っている。まるで世界びっくり人間。しかも、特に愚かな。


 ということで、突如窓を蹴破って部屋に侵入してきた都会のターザン、シスター服の女(裸足)。蓮はこの状況を見られたことに発火するほど恥ずかしい思いをしたが、背も腹も一緒くた、というわけで彼女に助けを求めるために喚いた。


 喚く蓮にヴィーナスは何を思ったか、何も思わなかったのか、隙間に挟まっている蓮に向かってさらに奥へ奥へ押し込もうと足で踏んづけ始めた。情けないやら意味が分からないやらで蓮は泣きたくなったし、泣き喚いていたが、ついに努力の甲斐あってダブルベッドの向こう側へと押し出された。


「ギャッ」


「ぎゃー!」


 蓮が落ちた先は男神とあなたがシチューをよそっているちゃぶ台の上で、見事にちゃぶ台もシチューもひっくり返って蓮は大やけど、ヴィーナスは縄梯子、私は怒り心頭というわけだ。ようこそ亞空間。神に歯向かおうとはいったいどういうつもりだ。私たちが創らなければ存在できなかったというのに、なぜ私たちが与える世界で満足しない? なぜ私たちに反逆しようなどと思うのだ。お前たちに意思など、あってないようなものだというのに! 


 お前もお前だ。私の片割れでありながら、奴らの反逆の手助けをするとはどういうつもりだ。お前が最初から奴らを観測しなければこんなことは起こらなかっただろうに。もういい、お前とはコンビ解散だ。どこへでも行っちまえ。馬鹿。間抜け。しんじゃえ! 

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