「にせもの宇宙」 古住楠雄
神が二人であらゆる世界を運営しているという事実は今時小学生でも知っている一般的な常識だ。その二人の神というのは基本的に、男神と、男神以外だ。あなたが男神である私の相手を務めるというのであれば、私たちは簡単に世界を創造し、ある程度の期間運営することができる。または、私が男神以外を務めることもできる。
それにしてもデトロイトという言葉は言葉からして力強そうだ。恐らく鉄鋼業か、自動車の生産をやっている。言葉と性質は一致している方が意味を持ちやすい。意味を持ちやすいということは広く長く記憶に残るし、その言葉の付いた物体の性質を最大限どころか必要以上に押し広げる可能性があるということだ。いうなれば「ドーロ」であり、「ボード」であり、「ハッカ」である。もしコンニチ、「ハッカ」と呼ばれているものに「イネ」などと名前が付いていたら、私は生涯「イネってことはねぇだろ……」と思いながら部屋の明かりを消して瞼を降ろしていたに違いない。そういうわけで、言葉、とかく名前というのは重要なのだ。それを前提としてこれらを決定する必要があなたにはある。
もっとも、世界には二種類ある。ネタバレをしてしまうとこれは誤った二分法という類の誤謬なのであるが、これを事実であるとすれば相対的に誤謬ということにはならない。そういうわけでこれは事実だ。作った世界の中に生命を置く場合と作った生命の周りに世界を作る場合だ。前者は相当な物好きでもなければやらない。細部まで作り込んだところで誰も見ない。誰か見るかもーじゃねぇ。見ねぇ。そういうわけで創造初心者の俺やお前のために後者を選ぶ。このやり方は非常に手っ取り早い。生命が活動する場所の先々を突貫で作っておけば、生命はそれが最初から作られていたものだと勝手に認識してくれる。もっとも、生命の中の小賢しい輩はそれらについて疑ってくるものだか、それに気が付いた奴から叩き潰せば解決するので気楽に構えていてよろしい。その代わり多少忙しくはなるが、忙しくしていると自分が十分な仕事をしている気になれるというメリットもある。良いこと尽くしだ。この方法より他に無い。
ところで、この方法の中にもうひとつ、私のおすすめのやり方があるが、これがお前に合うかどうかわからない。神は創った世界を任意で愛することはできるが、それが全てになってはならないのだ。しかし……頭ごなしに「ならない」ということもあるまい。数日前、ラニアケア超銀河団に発生した世界は超現実によっていまひとつな評価を蓄えている。カンカン照りで、とてもプラチナっぽいといえる。そういうわけでうまくいった形跡もあるのだ。
話は逸れたがそのやり方というのはつまり、世界に放る生命を一つだけにするというやり方だ。生命一人に対して、その周辺のみに世界を作っていけば、こちらも労力を最低限に抑えることができる。……しかし世界に一人だけでは違和感を覚えるのではないか、だと。「意志を持った生命」を一人だけにするのだ。周囲はエキストラだ、しかも、何の感情もない……いや、一見は感情のありそうに見せる……とにかく、話しかければ満足な反応のある、しかもステキに触れる! そういう無意味な存在を唯一の生命の周りにいっぱい置いておけば、お前さんオキニな生命も多分満足するだろう。で、生命がいるところの周りだけ作って、いなくなったところは随時消すことにすれば容量も食わない! データをバックアップして、戻ってきたら復元すれば……多分……なんの問題もない! 決まりだ!
ではその方法を採用するとして、「生命」に名前を付けなくてはならない。言葉と性質を一致させるにあたって、性質を作るのが先かどうかは大きな選択にはならない。性質は名前が付けば意味を得るし、名前が付けば性質が生まれる。どちらでもよいので、どちらもやろう。名前を付けるのが先なら、どんな名前でもよろしい。「生命」の名前は、そう、せっかく神が付けるのだから神っぽ~い名前にすればいいのではないか。私のそばに生えている……そうだ……「蓮」などどうかな……。おまえそっくりで、ぴったりだ。見た目もおまえに似せようか。好きな漢字などあるか? ……「夢」、つまらない奴だ。ないし……良い答えだ。蓮は咲くものなので、それらを組み合わせて姓は「夢良咲」としよう。コイツの特徴は……別段、「赤茶けた」とか、「悩ましい」とかでもいいのだが、念には念を入れて「基礎疾患のある」とかにしようか。
では「蓮」をどんな場所に置くこととしよう。お前、お前の好きな世界でいい。……ああ、お前もラニアケア超銀河団の例の世界の話ばかりか……そんなところの話はお前そっくりの顔をした何人ものお前から、もうカバの一日の発汗量ほども聞いた。想像できないかもしれないがな! これは私が想定しているより、例の世界はずいぶんいまひとつらしい。とにかく、言ってしまった手前そうするよりあるまい。では「そんな感じ」の世界に置く。ではその名前は? 畜生! 名前までパクりやがるつもりか、オリジナリティのない奴め! もうなんでもいい、お前に任せる。……以前私が作ったデフォルトの「生命」が一人用意してあるから必要に応じて使ってくれ。
あなたは慶ばしくもこの世界に手を加え始めたが、バックアップを怠っている。