「木枠、他」 さめのお
木枠
なきがらである
なきがらである
それはこわれて転がっている
なきがらである
砂にまぎれた欠片がみえる
なきがらがある
溶け落ちてしまった追憶を
抱いたままのうでが
かたちしか思い出せないで
そっと泣くのでつられてしまう
なきがらである
なきがらである
いっそこのままちいさくなってゆけ
なきがらになる
なきがらがある
融水
ぬるい水をかきまぜて 抱きしめるように
足先から包まれていく 遠くの霧をながめている
最後の細胞の隅まで 抱きしめるように
まだ遠い体温が消えないうちに
泣いてるきみの声を 肺で抱いている
もう水は、冷たくないよと しらせてあげたい
吸い込んだ霧が 喉元で叫んでいる
目に慣れた塩水が、いたい 溺れそうに
なる、まだ 深くへ行けるのに
水面の乱反射 ここに太陽は ないのだ
ないのだと、何度も 耳に水が入ったせいだ
「薄氷に隔てられては匂いすらわからず肺に満ちてゆく花」
切れてしまう と、おもう 息をした喉から、肺をやぶって、切れてしまう。重みは下へ、ゆく ので、あたたかさから遠ざかるまま。呼吸を ゆるすこともままならない ような 信仰にゆだねた身を手放せずにいる。これを、これが 美しいからだよと云われたら これを、どうすることもできない。
梯子
光がほどけてゆく、ひかりがほどけてゆく、わたしたちはらせんになって、すうまんねんをやり過ごして、光は雲を割って、わたしたちはらせんになって、まわって、どうしたって泳げない、くるくるまわる、光はほどけて、わたしたちらせんになって、夜のまえに飛び込んでしまおうとする、ひかりはほどけて、散り散りになって、細かくて小さい、波はおだやかに砂をならして、わたしはちいさくなる
あまみ
薄氷を溶かす気でいて、それで、その冷たさが遥か遠くまで続いていることを、知っているのだ。指先が拒まれて、届かないことを知覚する きみを求めているその間だけ、わたしは愚かになれる。ゆるされたいのだ。無力なままで手を伸ばすことを、ゆるされたいのだ。ただの一生ごときできみをすくおう、などという傲慢さを 愛を ぜんぶ見ないふりをして、この手を握り返してほしい。反射だけでいい そこに因果も情動もなにもいらない。この身をきみが捉えたなら、わたしはすぐにでも、すくわれてしまうのに、きみは目を開けてくれない。