3話 会いたかった!(ソフィア)
ざーー ざーーっ ちゅんちゅん…
朝、日が昇ると同時に目が覚めた。海の音がする。
ふわっふわのベッドに快適すぎる温度の室内。
もう11月になるというのに隙間風なんてない。
「夢じゃ、ないんだよね。」
食堂にレオさんが訪れてから一か月。
いまだに自分がお貴族様のメイドだなんて信じられない。
おばさん、元気かな。アメリアおばさんの豪快な笑い声が懐かしい。
あの町の人に会えないのは少し寂しいけどここの生活は快適だ。
ちょっとしんみりするけどくよくよしちゃいられない。
そう!今日は!!!
――――母さんに会える!!
母さんはレオさんが手配してくれた病院に入院している。
一緒に暮らしてた頃は起き上がるのも辛そうで、苦しげな咳を繰り返していた。
しかしお医者さん曰く、薬を飲んで清潔な環境にいれば治る病気。
そうして一か月の間の入院でだいぶ良くなった母さんに1日だけ外出許可が出た。
「お見舞いなんていいからお仕事、頑張りなさい。」
衝撃のスカウトを受けた日に母さんから言われたことだ。
そんなこと言われたってさすがにお見舞いは行くでしょ。でも…
「患者様が面会を拒否していらっしゃいます。」
え。
『来てくれてありがとう。でも私の事気にしないで。ほら、また会えた時に
すごく元気になってびっくりさせたいじゃない。楽しみにしてて。by母』
メモ帳に走り書きされた手紙。相変わらず字、綺麗だな。
…じゃなくて。本気?
そんなこんなでこの一か月一回も会えなかった。
メアリー様に母の病状を聞かれてそれを言うと
「よかったじゃない。1日楽しんでいらっしゃい。」とお休みをくれた。
その上1日豪遊できるほどのお小遣いもくれた。
いいの?え、心に天使住んでる?…知ってたけど。
朝食を食べた後、私は家から持ってきた服を着る。
上等な服で平民街を歩くのは危ないからね。泥棒や誘拐はほんとに怖い。
上質すぎるメイド服に慣れたからか
こんなに汚かったっけ?と思うがこの服には愛着がある。
お母さんが元気だった頃、職人街で買ってきてくれたえんじ色のワンピース。
飾り気のないシンプルなものだけど丈夫なので丈を直して長年着ていた。
出かける準備完了!
メアリー様と先輩メイドの二人に挨拶をしてマリンフェスト家の巨大な門を出る。
母さんが入院している病院までは鐘ひとつ分かかる。この領地広いねぇ。
マリンフェスト領には鐘ひとつごとに決まったコースを回る馬車がある。
さすが都会っ。
馬車に揺られながら少しうとうとしているうちに病院が見えてきた。
白い、教会のような外見の建物。
「ありがとっ!」
母さんに会えることに胸を踊らせながらチップを払って馬車を駆け降りる。
――――
雲一つない青い空のもと、私は病院に向かって駆け出した。