ある男の物語(byアルフィード)
「すみませーん!誰かいませんかー!」
いつもみたいに授業をサボって街に降りていた、、、のだが。
気づいたら道に迷っていて戻れなくなった。
塔の鍵は暗号式になっていてあっさり開いたので
重そうな扉を開けて中を覗いてみる。
中には灯りがともっていて玄関のようになっていた。
そしてかなり上質な絨毯の先には高い螺旋階段が上へ続く。
何回か呼び掛けてみても返答がないのでもと来た道を探してみる。
俺は道に迷ったことなんてなかった。道を絶対覚えてるから。
でもそこは360度見回しても、
そもそも道がないのだ。
それでも何とか歩いてみる。
ふと、暗くなってきた。
時計を見てもまだお昼にもなっていないのに。
雨が降り出したんだ。
最初は肌を湿らすくらいだった雨は急に大粒に変化する。
ドシャ―ーッ…
◆◆◆
「すみませーん。雨宿りさせてくださーい。」
俺は今日一番の大声を出して中に入った。
大雨ならなおさら道を聞きたい。
誰か、絶対いるのになあ。
少しきしむ螺旋階段を慎重に上がると
さらに明るいランプとかすかな物音が聞こえた。
ガチャっ。
階段を3分の1ほど上がって突き当りのドアが開く。
「っっっ…!」
俺はなんて馬鹿なんだろう。もし危険な人だったらどうしよう。
――――
「…君は何をしてるんだい?びちょびちょだ。」
身構える俺に声をかけてきたのは綺麗な20代くらいの男の人だった。
目にかかるくらいの透き通った赤ワインみたいな色の髪の毛に
トパーズみたいにキラキラした金色の瞳、
耳が溶けそうな心地よい、少し掠れた声。
背はかなり高くて黒いコートを羽織っていた。
「あのっ、道に迷って、雨も降ってきてっ。」
彼は部屋の中からタオルを持ってきてぼふっと俺にかぶせる。
「そう。…鍵はどうやって開けたの?」
「え?普通に。道が聞きたかったから。」
そう言うと彼は目をわずかに見開いてから苦笑した。
「あれはね、国内屈指の数学者が頭をひねりにひねって、
間違って入れちゃった、を防ぐために作った鍵なんだよ。」
「…間違って入れちゃった。」
「君すごいね。名前なんていうの?」
せっかく変装しているのに本名を名乗るのはダメだ。
「ア、アルク。お兄さんは?」
「ソア。」
ソアと雨が止むまで話をした。そして
その後、帰る方法を教えてくれた。
「このピアスを付けて塔から離れて。そしたら道に入れるから。」
「ねえ、もう会えないの?」
ソアは、本当に頭が良かった。
俺がした話は全てちゃんと理解して相槌を打ってくれる。
「頭がいいんだね。」と言ってちゃんと聞いてくれない人
ばかりに出会ってきたから嬉しかった。
ソアがしてくれる話は面白かった。
聞いたこともない話を分かりやすく、面白く話してくれる。
なんていうか、無駄がなくってとても鮮やかに聞こえた。
頭の回転が速いんだろうな。
だからまた、会いたかった。
「そのピアスを付けて同じ道に来れば会えるよ。
僕は死なない限り、ここにいるから。」
その後も何回も授業を抜け出しては遊びに来た。
毎回の時間が有意義に感じられて楽しかった。
数日に一回、時にはお土産も持って。
それから数年がたったころ、彼はいなくなった。
何の前触れもなく、何の手掛かりもなく、ただいなくなった。
彼の存在は誰にも言ってはいけないような気がしたから
彼のことは誰も知らない。
「ソア、死んじゃったの?」
空っぽのこの塔で、俺は研究を始めた。
いつか彼が言っていたから。
「僕がいなくなったらアルクがここを使ってよ。
誰にも邪魔されなくて、僕はここが割と気に入ってる。」
今もよくここで過ごしている。ソアとの時間ごと、
俺はこの塔が居心地よく感じる。
この塔の存在は、多分、俺しか知らない。




