夢では
三題噺もどき―にひゃく。
お題:浅い眠り・屈託のない笑顔・殺人鬼
浅い眠りから目が覚めた。
夢を見ていたような、見ていなかったような。まぁ、でも大抵の夢は起きた瞬間に忘れてしまうから。いつも同じような感じになる。
―それが、何か大切なものを伝えていたとしても。忘れてしまえば意味がない。
「…ん、」
ぼんやりとする視界。
寝起きだからかと思ったが、よく考えれば、眼鏡をはずしていたんだった。本格的に寝に入る状態だったな…。
「……」
うつぶせの状態だったものから、身体を起こし。いまだはっきりしない頭で、何か色々と考えている。
ようで、何も考えていない。
「……」
眼鏡をかけていないせいで、ぼんやりとする視界をとりあえずどうにかしよう。と、眼鏡を探す。黒い、太めのふちの眼鏡。
あった…。机のギリギリにおいていた。
下手したら落とす―
「――ぁ」
ガシャン――!!
手に取ろうとして、距離感を間違えて、落とした。
小さく落下音が鳴る。軽いその音は、やけに響いた。
「……」
足で寄せるわけにもいかないので、椅子から降り、しゃがみ込む。
そのまま手に取り、壊れてはいないかと軽く一瞥する。
まぁ、そんなもろいものでもないし、新しいモノではあるので。大丈夫そうだ。
「……」
眼鏡のテンプルを開き、慣れた動きで耳にかける。
ようやく視界がすっきりとした。頭はまだ、ぼんやりしている感じがするが。
「……」
くっきりと輪郭を持った視界に広がるのは、いくつもならんだ机の脚。
よくある学校の学習机だ。4本の鉄の足。その足をコの字型でつなぐパイプ。
「……?」
その視界の中に、何か違和感を感じる。
ぐるりと視界を動かしてみる。―なにかが、動いたような。
「……?」
気のせいだろうか。
視界を変えてみても、見慣れた鉄の脚が、何重にも重なって見えるだけ。
「……?」
まぁ、このまましゃがんでキョロキョロしていても、意味がないし。
さっさと立ち上がって、帰らなくては。時間は見ていないが、部屋の暗さ的に、もう下校時間が近づいているはずだ。
「―――??」
と、立ち上がろうと思った瞬間。
何かの視線を感じだ。
いや、違う。これは、
痛み――???
「――っいぅっっ!?」
右わき腹のあたりが、じくりと痛む。
とっさに手を当てると、生暖かい感触がヌルリと返ってくる。
それは明らかに範囲を広げ、じわりじわりと腹を汚していく。
「――!??!」
痛みによって流れる涙で視界がゆがむ。
その視界に、一つの黒い影。
あれは、スニーカー?その上にはジャージか何か?
分からない。
痛い。
なにが。
「っっつっ――!!!?!?」
今度はなんだ。
なにが起こった。
突然、視界が天井を向いた。
押し倒された?
押さえていた腹のあたりがずしりと重くなる。
何?
痛い。
わからない、
やめて
「―ぅっぐぅ!!??」
今度は腹の真ん中より、少し上のあたり。
ずきりと痛みが走る。
何かが刺さる感触。
ずるりと抜かれる。
同時に液体があふれだす。
「っあっ……」
もう痛みで声も出ない。
なにがおこっているのか分からない。
混乱と恐怖が頭を埋め尽くす。
なにが。
「――っ!?」
突然ゆがむ視界に、鬼が現れる。
正確には、鬼の―お面。
真っ赤な肌に、ギラリとした目。その上にある2つの角。
丸くくりぬかれた瞳の奥はよく見えない。
その面は、頬から下のあたりは人間のそれだった。
けれど、そこに浮かぶ。
にんまりとした。三日月のような口は、上を覆う鬼面よりも、鬼のように見えた。
「 」
そういえば、何かで聞いた。
ここいらに、こういう見目の殺人鬼が見られていると。
関係ないと思っていて、それ以外の情報は何も覚えていないが。
「 」
その殺人鬼は、何か満足したのか、頭を目の前から外し。
腕を振り上げる。
「 」
次はあばらのあたり。
その次は、その逆。
次は左の腹あたり。
今度は後ろ手に、太もも。
「 」
ゆがむ視界の中、屈託のない笑顔を浮かべたその殺人鬼は。
実に楽し気に、手を振り下ろす。
そのたびに走る痛みは、もう、分からない。
いたい?
分からない。
いたくない?
わからない。
わからない。
わからない。
もう。
なにも。
わからない。