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転 ミミックは大嫌い

「はぁ……はぁ……」

「これで……何個目だ?」


 小型のダンジョンとはいえ、長い期間を経て拡大していった洞窟だ。数多の住民(モンスター)たちが自分たちの住みよいようにと形を作り変えているため、曲がり道や分かれ道が多く、少し進むだけでも精神を削り取っていく。


「まだたったの3つよ。今のところ、ハズレばっかり」


 マルールが目的としている宝箱も幾つか見つかったのだが……どれも中身は空っぽのちんけなボロ宝箱のみ。これでは満足できないようで、奥へ奥へと一行は進んでいく。


 そうしてダンジョンの三層目の中ほどまで進んだあたりだろうか――それまで見たものとは一味違う見た目をした宝箱を見つけたのだが……これもどうやら骨折り損に終わりそうだった。


「ありゃあ駄目だ。ミミックだぜ、宝箱じゃない。ハズレもハズレ、大ハズレだ」


 ――ミミック。宝箱や壺など、人が利用する道具に擬態して冒険者を襲うたちの悪い魔物だ。大きなダンジョンなどでは、少しでも情報を共有するために大きくバツ印を付ける決まりというかマナーがあったりする。自分も実際に見たのは初めてだが、その青色をした宝箱の蓋部分には、くっきりと印がつけてあった。


 本来なら、ミミックだと分かった時点で近づかない。

 ――だけれど、我らが依頼主のお嬢ちゃんは違った。


「ちょちょちょ、ちょっと待って! あのミミックを倒して!」

「馬鹿言えっ。あんなのに襲われたら、ひとたまりもねぇぞ!」


 そりゃあ、倒したらそれまでに冒険者を襲って集めた宝が得られるかもしれない。だが、擬態して獲物が近づいたところを襲ってくるやつは、大概素早い。出来得(できう)るかぎり触れないようにするものだ。


 それを進んで倒せだなんて、お嬢ちゃんは鬼か。


「そりゃあ、宝を溜めてる可能性もあるけどよ――」

「そんなものはどうでもいいから! いいから、逃げられる前に! 早く!」


「どういうことだあっ!?」


 近づいただけで気配を察知したのか、箱の蓋ががばりと開き、底の部分からは昆虫のもののような、節のついた脚が伸びてきた。あぁ嫌だ嫌だ。俺はこういうギチギチっとした動きをする生き物が大嫌いなんだ。


「……俺が脚の対処をする。その間に、お前たちは急所を突く隙を見つけろ」

「くそぅ、こき使ってくれるぜ――!」






 ――――。


「はぁ……はぁ……」

「はは……やったぁ……ミミック初討伐だぁ……」


 わりと短い時間だったけれども死ぬかと思った。こちらに危険はなかったけれど、あちこちに動き回るものだから追っかけるので精いっぱい。チェシャって男が脚を二、三本切ってくれたからやっとなんとか箱の中身に剣を突き立てられたが……。

俺たちだけじゃ、まず無理だっただろう。


「あのまま一人で倒してくれると助かったんだけどな……」


「チェシャは力持ちだし動きも素早いけど、長い時間戦うことができないの」

「…………」


『なんだそりゃ』と怪訝な顔をして男の方を見るが、それを気に病んだ様子もなく。マルールの方も『私の安全を守ることが最優先だから』と涼しい顔をしていた。


 まぁ、いい。それよりも、戦果を確認しないとな。

 これが冒険者の醍醐味ってもんだ。


 それにミミックといえば――さっきも言った通り、宝を溜め込んでいる可能性もある。上手くいけば、これだけで事前報酬超えなんてことも――


「……あれ?」

「空っぽだ……」


 ミミックの死体を取り除いて残った殻――宝箱もどきの中をいくら眺めても、コイン一つも入っていなかった。


「あれだけ苦労したのに?」

「ほとんどチェシャが頑張ってたけど」


「俺たちの血と汗を返してくれ!」

「血は流れてないし、汗は無駄に追っかけ回してたからでしょう」


「ほれみろ! 宝なんてありゃあしねぇ、踏んだり蹴ったりだ!」


 これは、依頼主の判断ミスというやつなんじゃないか?

 やっぱり目先の欲に動かされているんじゃ半人前なんだよ。


「やっぱり鑑定士とはいっても、まだまだ若い――」

「中身なんてどうでもいいって言ってるでしょ! 大事なのは外側(ガワ)よ!」


 わけわかんねぇよ。宝箱を見つけたら中身を期待するのが人の本能ってやつだろ。箱なんてただの入れ物、なんの価値もありゃしねぇ。


「成長して新しい殻を作るミミックは、見たことのある宝箱に擬態するの。この宝箱を模した殻は、少なくとも三等級以上のものに見える。つまり……」


「つまりどういうことだよ?」


 聞けば、大きさや作り、素材などによって宝箱にも等級が付けられているらしい。一番下は六等級で素人が作ったような、ただの箱といってもいい代物。しかし最上級である一等級ともなれば、国お抱えの職人が王族のために作った最高級品が殆どなのだとか。


 いわば、宝箱の等級が高ければ高いほど、中身のお宝の価値も高くなるということ。三等級以上になると、地方の作りの癖や強く出ていたり、職人の銘などが入っているため一目で違うと分かるとのこと。


「このダンジョンにあるってこと。三等級以上の宝箱が……!」

「おおおおお!?」


 なんだか、目の前の宝箱もどきが素晴らしいものに見えてきた。辛く厳しいダンジョン潜りも、目的の宝があるのだと分かれば活力も湧いてくる。


 しかし宝箱鑑定士ってのは凄ぇな。俺らからすりゃ、キラキラしてるかどうかぐらいでしか判断できないっていうのに、遠目から見てもそれが値打ちものだってのが分かるんだから。


「そうなりゃ、俄然やる気が出てきたぜ! 必ずお宝を持ち帰るぞ!!」

「おー!!」

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