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起・承 “宝箱鑑定士”

挿絵(By みてみん)

「いらっしゃい。何の用だい」


 昼飯どきよりすこし早いぐらいなのだが、この時間帯は人が多い。冒険者の溜まり場となっている集合酒場に入るなり、正面カウンターにいた店員の不機嫌そうな声がした。


「こいつに書かれた依頼ってのは、ここで受けりゃあいいのか」

「……あぁ。アーバン一行ってのはアンタたちのことだな。話は通ってるよ」


 細かく依頼の書かれた紙をカウンターに出すと、奥の方へと案内される。


「既にギルドの方から“鑑定士”が来ている、奥で話しな」

「奥で話せって……その“鑑定士”の見た目は?」


「深めに帽子を被った優男と、小綺麗な女の二人組だ」

「……女? 依頼はダンジョン探索って話だろう?」


「…………」


 そこから先は返事もしてくれず。話は本人たちに聞けと、無言で顎をしゃくる。


「そうかい――」


 奥へと歩を進める。どこのテーブルも、四~五人程度の面子で依頼について話合っているようだった。酒場のボードにはここら一帯で受けられる依頼が貼り出されており、後日依頼人との顔合わせができるようになっている。ここにいる面子は、みんなそういった冒険者と依頼主の組み合わせだ。


 それで、自分たちの依頼主は……?


「――いた。あの人たちじゃない?」


 例の二人は言われた通りの見た目をしていた。片方は帽子を目深に被った、黒装束の男。身体つきはいかにも冒険者、という感じなのが服からでも分かる。それなりの手練だ。もう一人は女とは聞いていたが、まだ子供だった。


 おいおい、お守りをしながら潜れってのか。


 俺たちの実力に目をつけたのはいいが、できることとできないことがある。命を削る戦いを知らない“鑑定士”サマに、旅行気分でダンジョンに潜られても困るんだよな。


「なぁ、依頼主のマルールって鑑定士はアンタだな? こんな所に子供連れってのは、いったいぜんたい――」


「……いや」

「…………?」


 男は静かに俺の言葉を遮り、横にいた子供の方を指差した。


「……マルールは俺じゃない。こっちが依頼主だ」

「――は」


「はじめまして、アリス・マルールです。このガーメントの職人ギルドでは“宝箱鑑定士”をしています」

「……護衛のチェシャ」


 どう見たって、マルールと名乗った少女の年齢は11かそこらのように見える。そんなやつが、まともな職を持っているとも思えなかったのだが、彼女が取り出して見せたギルドの許可証は本物だった。


 つまりは、この街でのギルドに正式に認められた、れっきとした“鑑定士”だということになる。だが、それにしても――


「宝箱鑑定士……? 聞いたことがねぇが」


『宝じゃなくて宝箱?』と尋ねると、あからさまに『……はぁー……』と溜め息を吐かれた。


「……まぁそうでしょうね。“宝箱”を専門にしているのは、世界中探しても私だけでしょうから。私の自己紹介はこれぐらいにして、あなた達は?」


「リーダーのアーバンだ。パーティは一つ前の街の冒険者ギルドで組んだ」


 自分の名乗りに続いて、ラベルダとチコリの二人も名乗り。

 そこから依頼の話へと移っていく。


「できたてほやほやのパーティ……。少し不安だけど、まぁいいでしょう。そこまで危険なダンジョンではないらしいですし。依頼はダンジョンの内部の探索、及びそこに放置されている“宝箱”の回収です。報酬は――」


 なんだか信用されていないようで、少しムッとしたけれど。それよりも提案された報酬に不満もたち消えてしまった。


「――前金で銀貨を一袋と、見つけた宝を全て(、、、、、、、、)

「全て……!? そりゃあちょっと破格の条件じゃねぇか……?」


「別に構いません。その方がやる気が出るでしょう? それに――宝箱を回収したとして、中身が空だった場合は更に銀貨を一袋分、補てん金として差し上げます」

「収穫が無くても銀貨をもう一袋……!?」


 いくら何でも、話がうますぎるだろう。


 とにかく人手が必要な場合、交渉を円滑に進めるために報酬の一部前払いや、失敗しても補てんを掲示することもあると聞いたことがあるが、今回の依頼はたかだか宝探しだろう?


 もとより失敗の可能性の方が大きいわけで、わざわざ依頼主側が損を被ることに何の意味があるのだろう。


「何か裏があるんじゃないのか?」


「ギルドの名前を出しているのに? あなたたちを陥れたとして、私たちに何の得が? ただ純粋に、私の目的は“宝箱”なのだから、他のものには興味がないってだけ。嫌なら他をあたるけど――」


 予想外の報酬に、失敗したときの補てん金だってある。あまりの待遇の良さに、仲間たちの目も輝いていた。依頼人はちょっと……どころか、かなり変わってはいるが、そんなものは大した問題じゃない。――つまるところ、断る理由なんてなかった。


「お、おう。やってやろうじゃねぇか!」


『それじゃあ決まりね』と差し出された手を、俺は強く握り返したのだった。

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