運命の出会いは森の中で(2)
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息も絶え絶え家に着くと、お母様のとがった声に迎えられた。
「はやく編み物の準備をしてちょうだい!」
お母様は編み物で可愛らしいお人形を作り雑貨屋で売らせてもらっている。小さい子からは評判のようで、持って行った次の日にはほとんど売り切れていると、雑貨屋の店主は私に報告してくれた。お母様も機嫌が良い日はたくさん作ってみたりと、お人形作りは満更でもないようだ。
私は二階から編み物のセットを持ってくると机の上に置いた。お母様は特に感謝の言葉を述べることはなく、カゴの中からかぎ針やハサミを取り出した。
「もう良いわよ、作業に集中できないからこの部屋から出てちょうだい」
(その言葉を待ってました!)
午前中にすることが全て終わった合図の言葉。私は急いで自室に向かうと散歩用のカゴに物を詰め込み始める。
(リンゴと、携帯用のナイフと、パンと、お水と、本も持って…)
ポイポイと物を詰め込むと、勢いよくそれを背負った。スキップしたくなるのを押さえ込んで静かに階段を降りると家から飛び出した。いつもより早歩きをして目的地へ向かう。
たどり着いたのは大きな森の前。ここは〈エノの森〉と呼ばれる隣国との境界線になっている場所である。鬱蒼とした雰囲気で野生動物の多いこの森は、誰もが近寄らないと言われるほどに果てしなく広い森だ。
私は特に恐れることなく森の中へ入った。最近見つけた天気の良い日は必ず向かう場所が私にはあるのだ。森へ入り慣れていない人には気づけないであろう、小枝だらけの道をスイスイ歩くと目的地に辿り着く。
これまで真っ暗だった森の中。しかしここだけ木が生えていない。真ん中に大きな木の切り株があり、その周りを囲むように色とりどりの花が咲いている。私は花を踏まないように足元に気を付けながら、その大きな切り株に座った。太陽が私の体をポカポカと温めてくれる。
「~♪~♪~♪」
誰もいない私だけの空間。鼻歌を歌いながらパンパンのカゴを開ける。一番上に乗せていたお気に入りの本を横に置き、その下にあった持って来ていたリンゴを切って皮を剝く。リンゴを頬張っていると、ガサガサという音が森の方から聞こえてきた。振り返ると、野生のシカが私の方を見ている。辺りを見渡してみると小鳥やリスも私を見ている。
私がこの森に入ったのはリスが理由だ。当てもなく歩いていた際に見つけたこの子に着いて行ったらこの場所を見つけたのだ。
「おいで、一緒に日向ぼっこしよう」
声を掛けると、動物たちは特に警戒する様子もなく切り株の近くまで歩いてきた。そしてシカは太陽の光を浴びるように寝そべってしまう。リスと小鳥は切り株の上に一緒に座って不思議そうな顔でカゴの中を覗き込んできた。それこそ最初は警戒されていたが、晴れの日の度にここへ来て、のんびり過ごしていたら仲間だと思ってくれたのか、触れる距離まで来てくれるようになったのだ。
「こんにちは」
私がリスに話しかけると、視線を合わせて首を傾げている。跳ねるように近づいて来てそのまま私の足の上にピョンと乗ってきた。
「か、可愛い……」
しかし撫でようとすると逃げてしまう。自分の行いを反省すると、置いていたリンゴを食べながら自由を心底満喫する。食べ終わると横に置いていた本を取って開いた。一人の騎士が美しい妖精の女王様に恋をする物語。種族の垣根を越えてハッピーエンドを迎える物語が羨ましいくらい眩しい物語だ。
「私もいつか、こんな恋がしたいな……」
ぼそりと呟くと、自分で言ったことが馬鹿らしくなって苦笑いしてしまう。ため息をつくと切り株の上に寝そべった。本が手から離れて落ちてしまった。
「~♪~♪~♪」
歌声は空へ吸収されてしまう。太陽は無言で私を見下ろしてくるように感じるほど眩しい。私が特に何も考えずに歌を歌い続けたときだった。
「綺麗な歌声ですね」
最初は幻聴だと思った。勢い良く起き上がると、そこには全く知らない男の人が立っていた。紺色の髪の毛は風に揺れてサラサラとなびいている。黄色い瞳が優しく私を捉えているようだ。通った鼻筋に薄い唇が、この男性の美しさを強調させている。それに低く胸に響くような声が心地良い。細身だが決してガリガリではなく程よく筋肉がついていると服の上からでもよくわかる。黒いシャツに黒いズボン、そして何故か白衣を羽織って男の人は立っていた。
(綺麗な瞳……髪色も相まって、まるで星みたい!)
男の人は何も言わず私の反応を伺うように待ってくれている。そこで初めて本当に人間が目の前に立っていると私は気づいた。
(う、噓!さっきの歌を全部聞かれた?はやく逃げないと!)
私は慌てて起き上がると近くにあったカゴを持って切り株から立ち上がった。
「あ、ちょっと!」
私を止めようと声を掛けられたがそれを無視して走り出す。持っているカゴが軽くて違和感があったが、滑り落ちた本を拾い忘れたことに走り出してから気づいた。しかし今更振り返って本を取りに行くのも恥ずかしいし、歌声を聞かれた以上は【魅了】は発動している可能性がある。
(うう、明日までに雨降りませんように!)
心の中で祈りつつ無我夢中で森の中を走り続けたのだった。
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