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運命の出会いは森の中で(1)

実は前作と同時進行で書いていた作品です。

まだこの作品は完結していないので、できたところまで投稿します。

いまのところ2日に1回で17時投稿の予定です。

どうぞよろしくお願いします。

「リズ!まだご飯の準備できてないの!」


 ベッドを整えていると、お母様の声が下の階から聞こえてきた。どこか怒りのこもった声に慌ててシーツを整えて下へ向かう。私は朝市に行って購入したパンを数枚にカットするとお皿にのせた。次に同じく果物をカットすると別の皿にのせて、最後にコップには井戸から引き上げた新鮮な水を淹れるとお母様の前に準備をした。私を睨むような目つきで見ていたが、食事が運ばれてきて機嫌が直ったのか、満足そうな表情になってパンを頬張り始めた。

 私はそれを確認するとキッチンに戻り、先ほどのパンや果物の端を適当に食べて片づけを始めた。


(ふぅ……いつもより早く起きてきたからびっくりしちゃった)


「リズ!」


 再び呼ばれたので慌てて戻ると、皿の中が空っぽになっていた。その皿とコップを洗うと何度もお母様から呼ばれる。


「リズ、洗濯物よろしくね」

「リズ、あそこの埃が取れてないわよ!」

「リズ、アタシ果物が食べたいから買ってきてちょうだい」


 お母様は私のことが嫌いだ。私のせいでお父様が家から出て行ってしまったから。いつまでも私のことを恨み続けているのだ。それに私は今年で19歳になったのに、魔法のせいで仕事にも就けず結婚相手もいない。お母様の仕事だけで生きているから、何を言われても私には文句の言いようがなかった。

 私たちの住むエノ国は、誰もが生まれたときに一つ魔法も授かる。生まれた赤ちゃんは病院の看護師から【診断魔法】で診断をしてもらい、どのような能力を手にして生まれてきたのか知ることが出来る。例えば【火】なら調理を出来る。【水】ならばいつでも新鮮な水を飲むことが出来る。

 そして私が持つ魔法は【魅了】。そのうえ発動条件は声を出したときである。私が話すと強制的に魔法が発動して、男女関係なく虜にさせてしまうのだ。小さい頃は気にせず声を出していたが、【魅了】を恐れた父が帰って来なくなり、近所の人を【魅了】させてしまい襲われそうになってからは声を出すのが怖くなってしまった。近所では「人を誑かす女」と聞こえるように囁かれていて、心も胸も痛い。

 働けない以上はこの家から離れることが出来ない。だから私はどれだけ辛くてもお母様から頼まれた仕事はすべてこなしているのだ。例え手がボロボロになったとしても、私が生きていくには他の手段が無いのだから。


(お母様は果物が食べたいって言ってたわよね)


 私は人で賑わう市場へと足を運ぶ。私の顔を見て、一瞬嫌そうな顔をして人は避けて歩く。市場は混雑しているのに私の前だけはスイスイ歩けてしまえるほどに開けていた。

 果物屋の前に着くと立ち止まる。


「いらっしゃ……ひっ、どうぞ」


 下を向いて整頓していた店主は、人の気配に気づき笑顔で顔を上げたが私であると気づくと怯えたような顔を浮かべてから挨拶をした。私は少し悩んだ後にいくつかの果物を指さすと、そのぶんのお金を店主に渡した。店主も無言でお金を受け取ってから、私が持ってきたフルーツバスケットに詰め込んで押し出すようにカゴを返してくれる。ペコリとお辞儀をすると私は家の方向へ歩き出す。


(他に買うものはあったかしら?)


 キョロキョロして歩いていると、近くを歩いていた人にぶつかりそうになる。咄嗟に避けたが反対側に歩いていた別の男の人にぶつかってしまった。そのまま地面に尻もちをついてしまう。


「きゃ」


 いきなりのことだったので小さく悲鳴を上げてしまった。カゴの中から自分用に買っていたリンゴが転がって行く。捕まえようと手を伸ばすが、その手を掴まれた。


「君は綺麗な声だね、良かったら一緒に遊ばない?」


 私は驚いて誰に掴まれたのか確認をする。私の顔を食い入るように見つめていたのは、私がぶつかってしまった男の人だった。先ほど漏れた小さな悲鳴が彼にだけ届いてしまっていたのだ。私では到底及ばないような力で掴まれてしまっている。


(なんとかしないと…でも力が強すぎて腕を振り払えない!)


「どうしたの?あ、リンゴが転がって行っちゃったんだね!僕が取りに行ってあげるから」

「おい冗談はやめろ…って、まさか【魅了】されてるのか?」

「あの男の人って確か彼女がいたよね?」

「そんな人まで誑かしちゃうなんて酷い人!」


 責めるような言葉を周囲の人から浴びせられる。


(私だって、そんなつもりなかったのに!)


 涙が出そうになるのを我慢して何とか男の人の手を振り払うと、リンゴを拾って走り出す。いつの間にか野次馬が私達を囲っていたが、私が動き出すのを見て怯えたのか、人の波が一気にひいて目の前に道が広がった。尻もちをついた拍子についた泥を払うことなく無我夢中で人の目を避けるように逃げ出す。


 暮らしを便利にする魔法なんて無い。

 私を幸せにしてくれる人なんていない。

読んでいただきありがとうございます。

もしよろしければ評価のほうをよろしくお願いします。

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