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ハンスの懸念

 シスターに話を伝えた後、私はいつものように子供達と遊んだ。

 しかし、今日はくる時間が遅かったこともあり、子供達に惜しまれながらもすぐに孤児院をさることになった。


 少し日が傾き、茜色に照らされた街を私はハンスとともに歩く。


「……マーガレット様、よろしいですか?」


 少し迷いながら、ハンスが口を開いたのはその道中だった。

 いつもと違うハンスの様子に、私は思わず首を傾げる。

 そんな私にハンスが告げたのは、まるで想像もしていない言葉だった。


「あいつ等を学校に入れて良かったんでしょうか?」


「……え?」


 その言葉に、さすがの私も動揺を隠すことができなかった。

 当初計画を話したとき、ハンスは反対していなかったからなおさら。


「もしかして、孤児を学校に入れる計画に反対なの?」


「いえ、そうじゃないんです」


 その言葉に、さらに私は首を傾げる。

 そんな私に、遠慮がちに少し悩んだ後ハンスは口を開いた。


「……このままだと、俺にあまりにも都合がよすぎて」


「え?」


 思わず声をあげた私に、ハンスは苦悩を顔に浮かべ、口を開く。


「マーガレット様がお優しいのは理解しております。けれど、これ以上は過剰に俺は感じるんです」


「えっと、ごめん。……過剰って何が?」


「……マーガレット様は、俺に気遣い過ぎていませんか?」


「え? どういうこと?」


 その言葉は、私の本心からの疑問だった。

 しかし、誤魔化されたとも感じたのか、ハンスの表情は険しさを増す。


「この際はっきり言わせてください。俺はこうしてマーガレット様と毎日こうして隣にいられることだけで十分に幸せなんです」


「……っ!」


 瞬間、はっきりとそう告げたハンスに私の顔は朱に染まる。

 だが、ハンスはそんなことにも気が回らない様子でさらに続ける。


「その上、孤児院に行く時間や援助までしていただいていて、それだけで正直俺はどう恩を返せばいいか悩んでいるレベルなんです。……もう既に返しきれない恩をもらっているのに」


 私が、ようやくハンスのいいたいことを理解したのはそのときだった。

 罪悪感が浮かべながらそう告げたハンス、その表情にようやく私は彼が何をいいたいのか理解する。

 ……私のしてきたことが、ハンスにとって気負わせる結果となっていることを。


「だから、もし俺への情けであいつ等を学校に入れようとしているなら、もう大丈夫ですから」


「ふ、ふふ」


 そのことに気づいた瞬間、私は思わず笑っていた。

 ハンスの懸念、それはあまりにも見当違いな勘違いだった故に。


「……マーガレット様?」


 突然笑いだした私に、ハンスは懸念を顔に浮かべる。

 そんな彼に私は笑みをこぼしながら、口を開こうとする。

 私がこおの日々を送っているのはハンスの為じゃない。

 全て、私の為でしかないと教えるために。


「ハンス、私はね……」


 ……がさり、私の背後の路地から、そんな音が響いたのはそのときだった。


 普段なら、そんな物音を私が意識する事はなかっただろう。

 しかし、今日だけはなぜかその音を私は無視できなかった。

 なぜか、ひどく嫌な悪寒を感じて。


「ようやく、ようやく見つけたぞ、マーガレット」


 ……そして、振り返った私は自分の感覚が正しかったことを理解した。

 そこにいたのは、汚れた服を着た一人の男だった。

 姿だけでは、誰か私にも分からなかったかもしれない。

 だが、ひどく聞き覚えのあるその声がその人物の正体を何より雄弁に物語っていた。


「マーリク?」


 そこにいたのは、変わり果てた元婚約者だった。


今日から一日一話投稿になります。

事後報告となってしまい、申し訳ありません!

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