孤児院
改革の期間に際して、私とハンスは仕事を終わった後、出かけることを習慣にしていた。
もちろん、そう言ってられない量の仕事があるときもある。
それに、仕事終わりではいける場所も限られている。
それでも出かけている時間、ハンスと共に彼らに会いにいく時間は私にとって貴重な息抜きの時間だった。
「おお、嬢ちゃん今日もきたか! いつもよくやるな」
街を歩く中、すっかり顔なじみとなった果物屋の店主がそう声をかけてくる。
それに私は笑顔で答える。
「あら、こんにちは。まあ、もう日課の様なものだしね。あの子達の顔をみないと心配になっちゃうのよ」
「相変わらず心根のいい嬢ちゃんだな! そうか、ならこれはサービスだ!」
「まあ!」
そういって店主が渡してきたもの、それは小振りなものの、赤く実った果実だった。
「ありがとう、あの子達も絶対に喜ぶわ! でも、大丈夫なの……?」
「余り物だから気にすんな! またなんか買って言ってくれたらいい!」
明らかに余り物ではないそれを、押しつけるように渡してくる店主に、私は思わずくすりと笑ってしまう。
そんな私から話をそらすように、店主はハンスの方へと向き直った。
「……お前、こんないい嬢ちゃん絶対に逃がすなよ」
「っ! いや、私とおじょ……」
「あら、私の片思いだなんていわれたら、悲しいわよ?」
「……っ! すいません」
「お前、今からこれじゃ将来が目に見えるなぁ」
「……くっ!」
店主のからかいに、困惑と腹立ちの混じった何ともいえない表情で押し黙るハンス。
そんな姿を笑いながら、私は告げた。
「それじゃ、私たちはそろそろ」
「ああ、顔を見せにいってやれ」
そうして私達は毎日訪れている場所へと向かう。
それはこの街に何個もある孤児院の一つ。
ハンスの出身の孤児院だった。
◇◆◇
「おおー! 姉ちゃん今日は遅かったな!」
「待ってた!」
「あらあら」
孤児院に着いた私を待っていたのは、子供達による猛烈な歓迎だった。
それに私は思わずほほえみつつ、おみやげの果実を取り出す。
「これは店主のおじさんからのプレゼントよ。次にあったときにはきちんとお礼を言うのよ」
「わー! やった!」
「ハンス兄ちゃん早く切って!」
「……お前ら、最近俺への扱いが雑になってないか?」
「気のせい気のせい」
「こいつら……」
騒ぎ立てる子供達に、額に青筋を立てつつそれでも素直にハンスは奥にある食堂に向かって歩いていく。
その姿を見送り、私は小さく笑う。
一人、寝室の方から現れたのはそのときだった。
「いつもありがとうございます、マーガレット様」
そういって、姿を現したのはこの孤児院を経営する年老いたシスターだった。