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思い出した出来事

 マーリクがいなくなってから、侯爵家に大きなごたごたがなかったのは、嘘ではない。

 けれど、私の行動という限りにおけば、あのときとは比べものにならないほど変わっていた。


 というのも、現在私は今までにないほど大きく領地改革を行うようになっているのだから。


「……っ! お嬢様、おそらくここも不正が行われているのではないかと」


「あー! どいつもこいつも! まともな仕事もせず、いらないことばっかして!」


 侯爵家は伝統のある家である……そう聞けば聞こえのよいこと間違いない。

 けれど、現在覇王の治世下で新興貴族が次々と生まれている中、格式を意識しすぎることは裏目にでていた。

 ……言ってしまえば、時代に遅れつつあるのだ。

 そのお陰で、かつてのお家取り壊し騒動から逃れられたことを考えれば、幸運だといえなくもない。

 けれど、このままでは侯爵家の未来は見えている。


 そう判断した私は数年前から改革に取り込もうとしていて、現在ようやくその成果が形となったところだった。

 ……その分、とんでもなく忙しくなっていたのだが。

 ようやく今日決めた分の仕事を処理した私は、横でぐったりしているハンスに話しかける。


「本当に、相変わらず分家の好き勝手具合はなんともいえないわね」


「……ええ。能力はない癖にプライドは高く、選民思想に女性差別、とよけいな価値観だけありますからね」


「アイリス様の伝手がなかったら、もっと難航していたでしょうね」


「……そう、ですね」


 ハンスの表情が憮然としたものになったのは、その瞬間だった。

 それに苦笑しながら私は告げる。


「だから言ってるでしょ、ハンス。あの方は、アリミナとは正反対よ」


「……ええ、分かってます。あの方の誠実さは謝罪に来てくれた時によく伝わりましたから」


「でしょう? 侯爵家の改革もあの方の助力あってのものなのだから。だから、そう邪険にしては罰が当たるわよ。──例え、あの方がアリミナの家族だとしても」


 そう、アイリス様は公爵家令嬢……つまり私の婚約者を奪ったアリミナの義姉だった。

 しかし、そうと知りながらアイリス様に対しては、私は一切の悪感情を抱いていなかった。

 というのも、アイリス様はアリミナの一番の被害者のようなものなのだから。


 婚約破棄が発表された直後、単身謝罪に来てくれたあの姿を思いだし、私はその思いを強くする。

 必死に謝罪するあの姿は、正直こちらがかわいそうになってくるほどだった。

 本来妹をいさめる立場の父親も頼りにならず、一人奮闘するあの方は尊敬できる人だと私は思っていた。


 ハンスも私と似通った思いを抱いているのか、その表情には同情が浮かんでいる。

 けれども、複雑そうな表情を浮かべたままハンスは口を開く。


「……あの方自身に思うところはないんです。けれど、あの方の名前を聞くと、昨日のことを思い出してしまって」


 その言葉に、私は無言で顔をそらす。

 ……いらないことをつついてしまったかもしれないと。

 しかし、顔をそらしても話をそらすことなんてできる訳がなかった。

 まっすぐに私に視線をむけ、ハンスは口を開く。


「お嬢様、どうして昨日アリミナになにもしなかったのですか? ……お嬢様はあいつのせいで言われもない誹謗を受けることになったのに!」

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