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必要のなくなったもの (侯爵家当主視点)

「どういう行動力をしているのだ、マーガレットは」


 一人になった部屋の中、私の口からそんな言葉が漏れる。

 ここまで準備を整えてきたのはいつぶりか、そう考える私の口元には、隠しきれない苦笑が浮かんでいた。

 とはいえ、マーガレットに対して怒る気持ちは私にはなかった。

 なぜならマーガレットがこうして強引にわがままを通そうとすることは普段ほとんどない。

 そして、わがままを行おうとする時には、きちんと周囲の為に必死にも考え、絶対に最悪の結果にならないことを確信しているのを私は知っていた。


 書斎の窓、カーテンの隙間から覗けえる活気に溢れた光に溢れる町並みを見ながら、私は改めて思う。

 こんな景色を作れるマーガレットはやはり非凡な才能を持っているのだろうと。


「それにしても、これはもう必要なくなったな」


 そういって、私が苦笑しながら取り出したのはある手続きが進行していたことを示す書類だった。

 それにかかれているのはマーリクの生家である伯爵家と話し合っていた計画。


 すなわちその書類は、ハンスを伯爵家の養子とする計画について記されたものだった。


 そう、実のところ私は決してハンスの婿入りに関して否定的な立場ではなかった。

 ハンスに明らかに思いを募らせている様子のマーガレットに複雑な思いを抱いていたのは確かだ。

 けれど、ハンスという人間を私は誰よりも……それこそマーガレットに負けないレベルで信頼していた。


 ──後で俺を首にしても、無礼打ちにしてもいい! だから、お嬢様と話してください、当主様!


「……あの日が、もう数ヶ月も前なのが信じられないな」


 そういいながら私が思いだしていたのは、マーガレットが落ち込んでいたときの記憶だった。

 あのとき、一人娘にどうしてやればいいかも分からず、うろたえることしかできなかった私の前で、ハンスはそう訴えた。

 ほかの使用人に無礼だと叱責され、殴られ、それでもハンスは私に頼み込むことをやめなかった。


 ……ただ、マーガレットを救う、そのためだけに。


 その姿を見たときから、私は認めざるを得なかったのだ。

 ハンスは、マーガレットの隣に立つべき存在であることを。


「ん?」


 ふと、私が窓の外ににこやかな様子で話すハンスとマーガレットの姿に気づいたのはそのときだった。

 挙動不審のハンスと、そんな姿を揶揄うマーガレットの姿。

 それは微笑ましさを感じる光景で、それを見ながら私は小さく呟いた。


「……私は間違っていたのだろうな」

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