婚約者選び (侯爵家当主視点)
その言葉がでた瞬間、私は顔をしかめそうになるのを必死に堪えることになった。
娘の言いたいことは分かっている。
マーガレットの婚約者がいない今の状況では、いつ第二、第三のマーリクがでてもおかしくないといいたいのだろう。
それを理解しつつも、内心の反発が収まることはなかった。
必死に内心を取り繕おうとした努力の甲斐もなく、娘はくすりと笑う。
「あら。そんないやがらなくてもいいではないですか、お父様」
「別に嫌がってなどいない」
「それは失礼しました」
そういって、くすくす笑うマーガレットに私は無言で顔をそらす。
こういうやりとりになる度、この娘は妻の血を引いていると思わずにはいられない。
普段は表情が変わらないと言われる表情にも関わらず、妻にはすぐに内心を言い当てられたものだ。
そんなことを考えてる内に、笑うのをやめたマーガレットが上目遣いで尋ねてくる。
「どうしてお父様はそんなに婚約者の話を嫌われるのですか」
「そんなの決まっている。どうせお前の提案はいつもと変わらないんだろう?」
そこで視線をマーガレットに戻し、私は告げる。
「ハンスを婿養子にすべき、そう言いたいんだろう?」
「はい。その通りです」
僅かにほほえみ、私の言葉にマーガレットは頷く。
その表情から目をそらしながら、私は内心で呟く。
……だからいやなのだと。
マーリクが婚約者となった時にも私の内心は複雑だったが、今はその日にならない苦みを胸の内に感じていた。
あのときはまだ、私にマーガレットもべったりで、覚悟を決める時間もあった。
けれど、今回に限ってはそんな準備をする間もなく、娘のこんな想ってる姿を見せつけられているのだ。
少しぐらい抵抗しても許されるはずだろう。
そんな思いから、私は口を開く。
「前にも言っただろう。その望みを聞くには、ハンスの身分があまりにも……」
「ええ、ですので準備してきました」
「……は?」
次の瞬間マーガレットが差し出したのは、どこからともなく取り出した書類だった。
一体何事かとその書類に目をやった私は、その状態のまま固まることになった。
呆然と顔をあげると、そこにはにっこりと笑うマーガレットの姿があった。
「アイリス様、現公爵夫人が集めてくださったハンスの養子先候補です」
「な、なっ!」
「この書類にいる方に関しては、一切養子にもんだいないどころか、侯爵家と関係を得られることを聞いて、快く了承してくれたみたいです。現公爵も関わっているらしいので、滅多な貴族はいないとのことです」
そう言われた言葉に、私はもはや唖然とすることしかできない。
実のところ、アイリス様に対して何か謝罪を受けており、その償いとしていずれ何かに協力してくれると言われたことは知っていた。
だが、そんな手札をここで切るとはさすがの私も想像できなかった。
故に言葉もない私に、マーガレットはにっこり笑って尋ねてくる。
「ほかに何か必要でしょうか?」
「……いや」
「それならよかったですわ」
そういって、にっこりと笑うマーガレットに私は口を開く。
「……言っておくが、まだ懸念が消えただけだ。正式にハンスを選ぶかどうかはきちんとした選定を行ってからのものとする。分かったな」
「はい、お父様」
私の念入りにそう返事をするマーガレットの顔に浮かぶのは満面の笑みだった。
それは私の言葉が負け惜しみでしかないと理解している顔で、私は苦々しい表情で告げる。
「では報告も受け取った。外せ」
「分かりました」
優雅にカテーシを行うと、マーガレットは部屋から出ていく。
そして、扉がしまる音が部屋に響いた。




