その人の話
「実はね、私の好きな人って私のことを好きみたいなの」
「……っ!」
私がそうささやいた瞬間、今まで赤く染まっていたハンスの顔が一瞬で青くなった。
その様子に私は少しおもしろさを感じながらも、続ける。
「なのにね、その人は私の気持ちに気づいてないのよ。いつも見当違いな勘違いばかりしてるの」
「……それは同じお嬢様を慕う人間として、許せない人間ですね」
隠しきれない感情を滲ませ、そう告げたハンスに私は思わず笑ってしまいそうになる。
その正体が分かったとき、この人はどんな反応をするのか、そう思って。
けれど、その内心を必死に押さえ、私は続ける。
「でもね、その人はそれも仕方ないと思えるくらいにすごい人なの」
私の言葉に、再度ハンスの表情が僅かにゆがむ。
「私の心を何度も救ってくれたのだから」
「……そう、なのですか」
私の言葉に、そう内心を必死に押し殺しながら、ハンスはそう告げる。
「悔しいですが、それなら私には何もいえませんね」
「いえ、貴方なら文句を言いそうだけどね」
「……え?」
私の言葉に呆然とした顔をするハンスに、私は思わず笑ってしまう。
しかし、私の言うことに反論する人間もいないだろう。
何せ、これだけ私のことを救っておきながら、自分を責め続ける人間こそハンスなのだから。
顔に笑みを浮かべた状態のまま、私はさらに続ける。
「私はもともとその人のことを弟くらいにしか思ってなかったの。犬みたいな人でね。私に恩があるから、てずっと側にいる過保護な人だったし、家族くらいにしか思っていなかったの」
「……え?」
今まで呆然としていたハンスの体が反応したのは、その話をした瞬間だった。
ようやく何かに気づき始めたハンスに、私は内心ため息をもらす。
さすが今まで私がさりげなくアピールしても一切気づかない鈍感だと。
準備の整っていなかった今までは、それでも仕方ないと流していた。
「でも、その人は私が落ち込んでいた時に言ってくれたの」
でも、もう今の私は引き返すつもりはなかった。
顔に熱が集まっているのを感じながら、覚悟を決めて私はハンスの耳にささやく。
「絶対にそんなことありえないし、自分が否定してみせる。なぜなら自分は、貴女のことが好きだから。ってね」




