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好きな人

 許されない失敗、そういったハンスの言葉の意味、私にはそれが一瞬理解できなかった。

 けれど、そう告げたハンスの顔に浮かぶのは真剣そのものな表情だった。

 それに私は何も言えずだまり込んだ私に対し、その真剣な表情のままハンスはその場で頭を下げた。


「今回の一件、私の責任です。お嬢様に不快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 その声に滲むのは、隠しきれない後悔だった。

 それに私は咄嗟に口を開く。


「頭をあげて、ハンス。今回は私がマーリクに希望を持ったのが悪かったの。だから本当に貴方の所為じゃなくて」


「いえ、お嬢様は孤児院のことがばれているかもしれない、その疑惑がなければマーリクについて行くことはなかった。違いますか?」


「……っ!」


 それは確かに事実だった。

 マーリクに情を感じる自分がいた一方で、私は怒りもきちんと覚えていた。

 もし、その理由があればマーリクの話を聞こうと、慈悲を与えてやろうとは思わなかったかもしれないのも事実だった。


「……それに私はもうたくさんのものを貴女からもらいすぎました」


 言葉を失った私に、ハンスはそう力なく笑った。


「自分を認めてもらい、家族を助けてもらい……そして、この領地を助けるというやりがいを与えてもらいました。だから、最後くらい私から身を引かせてください」


 そう、告げたハンスに対して、私は少しの間黙っていた。

 数秒の間、何ともいえない空気が流れた後、私はようやく口を開く。


「……分かったわ。ただ、一つお願いがあるの」


「お願い、ですか?」


「ええ、私の好きな人について聞いて貴方には知っておいて欲しいの」


 その瞬間、ハンスの顔がかすかにゆがむ。

 しかし、それをなんとかぎこちない笑顔の裏に隠し、ハンスは口を開く。


「ええ、それくらいなら!」


「ありがとう」


 あえてそのことに気づかない振りをした私は、自分の隣にあるいすを示す。


「じゃあ、こっちにきて」


「……え?」


「あら、こんな話を誰かいたら聞こえるかもしれない状態で話せっていうの?」


「い、いえ! 分かりました」


 私に促されるまま、うろたえつつも隣に座ったハンスの側に私は体を寄せる。


「お、お嬢様?」


「いいから耳をかして。誰かの耳に入ったらどうするの?」


「しかし、これは近すぎでは……」


「あら」


 そう顔を真っ赤にするハンスに、私はにっこりと笑った。


「私を応援してくれるんでしょう? では何の問題もないのではなくて?」


「……っ! いや、それは……」


「それは?」


「……何もありません」


 かわいそうなくらいに顔を真っ赤にしたハンスは、そのまま顔をうつむく。

 それは普段なら少しは罪悪感を感じる姿立ったが、今の私は別だった。

 今まで散々振り回されてきたのだ。

 これくらい許されてもいいはずだ、そう考えながら私はさらにハンスに体を寄せる。


「っ!」


 そして、ハンスが体を強ばらせるのを感じながら、その耳元で口を開いた。

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