薄ら笑いの理由
商会から部屋を借りるのには、ほとんどなんの手間も要らなかった。
すぐに私達とマーリクは、話し合いに適した部屋に案内される。
……まるで想像もしていない言葉をマーリクが告げたのは、部屋の椅子に座った直後だった。
「なあ、マーガレット。俺と婚約しなおしてくれ!」
開口一番にマーリクが告げたのは、そんな言葉だった。
「……は?」
まるで想像もしていなかった言葉に、私は思わず正面にすわるマーリクの顔を凝視する。
しかし、マーリクの顔に浮かぶのはわずかな気まずさだけだった。
「悪かったよ、マーガレット。俺も自分が悪かったと反省した。他の皆にだって謝る」
「……だから、婚約を結びなおしてほしいと?」
「ああ」
満面の笑みで私の言葉にうなづくマーリク。
それに、私はもはや何も言えなくなる。
我慢ならないとハンスが口を開いたのは、その瞬間だった。
「……何をふざけたことを言っているのですか、マーリク様?」
それは、極限まで思いを抑えた言葉だった。
けれど、ハンスの言葉にマーリクは顔色を変える。
「ただの使用人風情が、口を挟むな! 今は俺がマーガレットと……」
「口を慎むのは貴方よ、マーリク」
そのときになって、ようやく私は口を動かすことができた。
想像もしていない事態に起こる頭痛に頭を抑えながら、私は告げる。
「ハンスは侯爵家の執事になってるの。今の身分から考えれば、貴方が敬意を払わないといけない相手よ」
「……っ!」
その言葉に、マーリクはハンスを苛立たしげににらみながら、口を閉じる。
そんな様子に、私はため息をもらしそうになる。
こんな状況になっても、ハンスは昔の主だからと敬語を使っている。
それに対して、マーリクの態度はあまりにも酷かった。
とはいえ、ここで突っ込むとさらに話がややこしくなるだけだ。
そう判断した私は、あえて突っ込まず話を戻すことにした。
「言っておくけど、私は貴方と婚約を結び直すつもりはないわよ、マーリク」
「なっ!」
「……はぁ。なんで、そんな顔できるのかしら」
耐えきれず、嘆息を漏らしながら私はマーリクに告げる。
「あれだけ一方的に全てを放り投げて、許されるなんてどうして思えたの?」
「あのころの俺はどうにかしてたんだ」
「違うわ、どうかしてるのは今もよ」
そう私は断言する。
実際、マーリクの言葉は明らかに、おかしかった。
さらに、私は言葉を言い募ろうとして……マーリクの様子のおかしさに気づいたのはそのときだった。
これだけ必死に否定しているのにも関わらず、その顔にはなぜか笑みが浮かんでいたのだから。
「わかっている。寂しい思いをしたから、そんな辛辣にするんだよな」
「……何を言ってるの?」
明らかに不審な態度に眉を寄せる私に、マーリクは薄ら笑いを浮かべながら告げる。
「なあ、マーガレット。──お前はまだ俺が好きなんだろう?」




