商会への道中
それから、私達はじっくりと会話するために場所を移すことになった。
喜びを隠せない様子のマーリクを後ろに引き連れ、私とハンスは知り合いの商会の支店へと向かっていた。
その商会であれば、問題なく私達に部屋を貸してくれるはずだ。
ハンスが少し躊躇した後口を開いたのは、その道中のことだった。
「……お嬢様、本当によろしかったのですか?」
マーリクに気づかれないためか、一切顔をこちらにむけずハンスが告げた言葉。
その声に籠もった心配げな様子に、今さらながら私はハンスに心配をかけていることを理解する。
やはり、もう少し考えて返答してもよかったかもしれない。
とはいえ、私がマーリクとの会話を了承した理由は感情的なものだけではなかった。
私もハンスと同じく、一切視線を動かすことなく返答する。
「ええ。少し気になったことがあってね」
「気になったことですか?」
「私達は街の人達に身分を明かしてはいないわ。にもかかわらず、マーリクがこんな場所にいたのか。気にならない?」
「……確かに」
実のところ、それは数ある理由の一つで、一番大きな理由ではない。
それを気づかれないように、私は表情を変えずに続ける。
「もしかしたら、孤児院のことを知っているかもしれないわ。そう考えればそのまま放置するのは危険だと思ってね」
そういいながら、私は思う。
その場合なら、孤児院に張り込んでいただろうから決してその可能性は高くないだろうと。
とはいえ、万が一のことを考えれば、絶対に確認しておいた方がいいことではある。
しかし、そう考えにふけていた私は気づいていなかった。
その私の言葉を聞いたハンスがわずかに顔をゆがめていたことを。
「……そう、ですね」
「だから、少し私に任せてほしいの。まあ、さすがにマーリクも考えなしではないだろうしね」
視界に入ってきた商会を見ながら、私は告げる。
「こんな状況で無責任なことをいいわしないわ。さすがに自分の状況くらい分かっているでしょうから」
せいぜい私にお願いできても、実家に取り次いでほしいレベルだろう。
まあ、それでも相当面の皮が厚くなければできないお願いなのだが。
「まあ、相当苦労したようだし、お手並みをみましょうか」
そう小さく吐き捨て、私は商会の中へと足を踏み入れる。
……しかし、その時私はどれほど自分の考えが甘いのか、まるで気づいていなかった。




