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最終話茶碗

レトロな喫茶店にバイオリンの『宵待草』が流れて行きます。


エドは、遠い昔、自分がカフェの女給だった事を思い出しました。

カフェでは、『舞菊』と呼ばれていました。

大阪のその店には、文化人や芸術家、お金持ちの男が集まり、チップの額と共に、女給達のサービスも過剰になってゆきます。


『舞菊』は、美しく聡明で、店で一番の人気者になりました。

けれど、転機が訪れます。1922年、彼女は肺結核を患うのです。


身よりの無い彼女に、客の一人が援助を申し入れました。

舞菊は、山奥の小さなサナトリウムで過ごすことになりました。

初めは、訪ねる見舞い客も多かったのですが、病状が悪化し、誰も来なくなりました。


寂しそうにする舞菊に、サナトリウムに炭を売りに来る男が恋をしました。


男は、孤独な彼女の為に沢山の本を持ってきてくれました。

中には、舶来の翻訳された物語などもあり、二人は楽しい時を過ごすのですが、それも長くは続きませんでした。


舞菊は亡くなりました。

遺骨は、炭焼きの男が引き取ってゆきました。


「私は…人間だったのですね。どうして、こんな大切な事を忘れていたのでしょう?」

エドは、青い顔で悲しげにそう呟きました。

「あなた、茶碗の物神と言って無かったかい?」

春江がエドを心配しながら聞きました。

物神は、物の神です。人は物神にはなれません。

「はい。気がついたら、私は探偵の姿をした男性のカップになっていたのです。

どうして、人間の女性の記憶があるのか…良くわかりません。」

エドは、戸惑いながら春江にそう告げました。

春江は、少し困ったようにエドを見つめるしか出来ません。

そこに、猫耳の女給がコーヒーを手にやって来ました。

「どうぞ。」

と、言われて差し出されたカップにエドは驚きました。

そのカップは、エドの依り代のカップと同じものだからです。


「素敵でしょ?私、あなたのために完コピしましたから。

どうぞ、コーヒーを。

皆さんの分もありますよ。」

メフィストはそう言うと、猫耳の女給は、一人一人にカップを渡しました。


「このカップは、陶芸家の太郎さんの作品です。

エド…舞菊さんと言った方が宜しいですかね?

貴女の話した男性は、炭焼き職人ではなく、有名な陶芸家でした。

と、言っても、普段は、もっと、和風の壺とかがメインで、英国風の陶器なんて作る方ではありません。

これだけが、特別なのです。」

メフィストの言葉に、家守が反応し、春枝からカップを取り上げました。

「いきなり何するんだい?」

春江の叫びに、メフィストがニヤリと笑いました。

「さすが、わかりましたか。」

「悪趣味な方ですね!英国風の陶器といえば、ボーンチャイナ。

陶器に最適化するよう牛の骨灰を混ぜた土を使って作りますから。」

家守が不満げにメフィストを見、エドは、自分の依り代のカップについて悟りました。


そう、舞菊に恋をした陶芸家は、彼女の骨灰を土に混ぜ、生前の美しい姿をカップに描き、手元に置いたのです。


震える両手を握りしめながら、エドは、その場にしゃがみ込みました。

「人の骸で作られた私は、穢れています。もう、神様達に会うことは叶いません。私は、この先、どうしたら良いのでしょうか?」

そんなエドの肩に、メフィストは手を置き、静かに言いました。


「迎えが、来ているようですよ?

貴女は、サナトリウムにいれてくれた男性にフラれたと早合点して、いっそ、男になりたいと願ったりするから、そんな姿になったのですよ。

でも…貴女の思い人は、あなたを裏切ったわけではありません。

山の事故で亡くなったのですから。」

メフィストにそう言われると、エドの姿は美しい女性の姿に変わりました。

「100年近くを貴女を探してさ迷って要らした所を私が見つけてきましたから、ドアの向こうにいるはずですよ。」

メフィストはエドを立ち上がらせると、励ますように軽く背中を押しました。

「さあ、お行きなさい。」

エド、改め、舞菊は、その言葉に笑顔で答え、ドアを開けて恋人の元へと消えて行きました。


混乱する春江に向かって、メフィストは得意気に言いました。


「素敵な話でしたでしょ?そして、少し、軽くなった気がしませんか?」

メフィストに言われて、春江は、ビックリしたようにメフィストを見つめました。

「何をしたんだい?」

「貴女の山の亡霊を一人、恋人の元へと返してあげたのですよ。」

メフィストはそう言って春江にウインクをしました。

家守は、肩をすくめ、部屋を元に戻すと、お茶のやり直しの準備に取りかかりました。



今回、音で聴く物語という事で頑張ってみましたが、予想以外に長くなってしまいました。

来年、2022年発表という事で、江戸川乱歩の物語の応援をしたかったのですが、あんまり、乱歩、関係なくなってしまいました。

面白く読んで貰えたら良いのですが。最後までありがとうございます


なんだかごちゃごちゃしたお話で終わりましたが、一週間、99のユニークをいただきました。ありがとうございますm(__)m

あと一人で週間ユニークの数字が100でなくなったのが残念ですが、次は、100人目指して頑張ります。

すいません、自分で書いとかないと、記録に残らないので、書かせてもらいました。


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