5話ネフィルティティ
「今年の会の茶葉は、ダージリン。ファーストフラッシュをご用意しました。。」
家守は、ビオラのように低く通る声でお茶の説明を始めました。
ダージリンとは、ヒマラヤ地方の紅茶です。
日本でも、静岡茶とか、宇治茶など、地域によってブランドや種類があるように、紅茶にも様々な種類やブランドがあります。
ダージリンもまた、紅茶の種類の1つです。
特徴は、とても薫りが良いと言うことで、今回は、特にマスカットを思わせる爽やかな薫りが立ち上るものを家守は厳選しました。
よく沸騰させたお湯を使い、銀のポットに茶葉を入れると勢いよくお湯を注ぐと、ダージリンの茶葉たちは、北海の天使、クリオネのように茶葉を広げてポットの中で舞うのです。
茶葉の時を見極め、お客様、一人一人に注ぐティー。
執事の家守の見せ場でもあります。
「ああ、残念です。今回の出し物は続きがありましてね。
是非とも春江さんには、第2話も見てほしかったのですが。」
メフィストは、大袈裟に嘆いて見せました。
「続きがあったのかい?」
春江は、興味深くメフィストを見つめました。
「ええ。」
メフィストは、春江が自分に興味津々なので嬉しくなってきました。
さて、どうやって、続きをはなそうか。
メフィストは、楽しげな企み事を胸の内で始めました。
その様子に、春江は、怪しげな予感を感じて眉を潜めます。
「やっぱり、聞かないわ。メフィストさんのお話は、何やら不気味なんだから。」
春江は用心深くメフィストを睨み、それを見た家守を安心させました。
「確かに、カールはうまくありませんでした。
人の骸を永遠の物にしようだなんて。
けれど、人の男性の一途な気持ちは、愛しい女の面影をいつまでも美しいまま、閉じ込めたいと願うものなのです。」
メフィストは、しれっと甘い台詞をツラツラと語り、それを聞きながら春江は、困惑しました。
「人間の男って…なんだかなぁ…。よくわからないわ。」
春江は、そう言って家守の用意してくれた白桃のパイを一口、くちに入れました。
「確かに…私も、ファウスト博士をはじめ、少なからず男性の欲望を叶えて参りましたが、いまだによくわかりません。がっ、この件では、成功した例もあるんです。」
と、メフィストは楽しそうに笑い、話を続けました。
「カールは、骸を使い失敗しました。
が、はじめから腐ることの無い材料を使えば…その姿を永く、この世にとどめておく事は可能なのです。例えば…。」
と、メフィストは、胸ポケットからハンカチーフを取り出し、それでテーブルを撫でると、可愛らしい少女の人形が現れました。
「そう。フィギュアと言う形にして。」
「フィギュア?」
春江は、物珍しそうに、猫の耳を持つ少女の人形を見つめました。
「はい。フィギュアです。紀元前の古代エジプトの時代から、隠されるように密かに、一人の職人に愛でられた美しい女王。
ネフィルティティの胸像です。」
メフィストは、勿体ぶって一度、言葉を切り、優雅に紅茶を口にした。